変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

文字の大きさ
20 / 73

独白4

しおりを挟む
 私はもう涙目だ。あんな考えの足りない子供の頃の言動をこの年で求められるなんて、どんな嫌がらせなのですか……。
 大人になれば、思ってても言っちゃいけないことがあると分別がつくのです。言っていいのは、それを背負う覚悟のある者だけです。その覚悟もなしに言うのは、その言葉に責任を持たない者ぐらいです。私はどちらにもなれないです。

「大丈夫だ。今も変わらぬ……いや、それ以上の切れ味だ。今の君は、あの頃以上に素晴らしい女性だ」

 団長。それ、全く、褒めてないです。あと、私はなにも喋ってないです。その切れ味とやらも勝手にこの変態が読み取ってるだけで、私は分別はつけています。酷い風評被害を感じます。迷惑すぎる。

「今日も鋭いな……!」

 胸を押さえてはぁはぁ言いながら嬉しそうに頬を染める団長は、今日も安定の気持ち悪さだった。

 そんな裏事情なんか、心底知りたくなかったと思う。黒歴史なんて引っ張り出してくる物ではないのだ。団長だって、そんな若気の至りをわざわざ話すのも意味がわからない。

「……なんでそれを、わざわざ私に説明するんですか……」

 力なく呟いた私に、団長が嬉々として答えた。

「その方が、罵ってもらえそうだろう?」

 最低だ。

「……ん゛っ」

 硬派な美丈夫が胸を押さえて頬を染めて悶えた。
 憧れの団長の硬派を返せ。残念すぎて涙が出そうだ。
 どうしようもない変態を横目に無情を噛みしめる。
 それにつけても無謀な過去の幻影を求められていることに、なんとも言えないやるせなさがぬぐいきれない。

 大人になれば、思っていても口には出せないものだ。私も大人になったため、自分の言葉の責任というものに、実感がつきまとうようになった。
「死んででも言うべき事がある」だなんて、安い考えだ。死ぬ覚悟がその言葉の中にどれだけあるかわかったもんじゃない。本当に死んだら、元も子もないのだ。
 もし権力ある者に逆らったとして、暴行を受けて死ぬ、日常生活のできない身体になる……あり得る話だ。そうなると、生きながらえたとして野垂れ死ぬしかなくなる。権力者に逆らった者を、どれだけの人間が助けるというのか。その恐ろしさが想像できるようになった。

 なによりだ。軍務に携わるようになって実感していることがある。
 彼らは真実「死を覚悟して」戦っている。
 そんな彼らを前に、安い覚悟で「死んででも」なんてそんなこと、二度と言えない。
 今の私にとってあの頃の自分の言葉は、容易に口にするにはあまりにも重すぎるのだ。

 そういう意味では、子供に罵ってもらえば、率直に嫌がってくれるだろうにと、言いかけて、それは子供の教育に良くないと、なんとか耐えた。かわいい少女がこの男に罵ってくれと縋られる様子をイメージしたのが敗因である。大人の始末を、子供になすりつけてはいけない。……じゃあ、やっぱり、私が罵るの……? ……え? もしかして、私が責任とるの……?

 キラキラしたイケオジの目が痛い。
 ……無理!
 何この圧倒的な嫌がらせ感。期待されているというのに、とんでもない罰ゲームすぎる。
 ほんとに、少女だった私、なんというものを覚醒させたの……。

「そう、だから君が責任を取ってくれないか…?」

 そう語る彼は、文句なしにかっこいい。だけど、続けられた言葉は、やはり最低だった。

「……ああ、もう一度……、いや、何度でも、君に、罵られたい……」

 鉄壁の女官顔を自負している顔が、ひくりと引きつったのが自分でもわかった。

 ………………きもちわるい!!!!

「……っ、最高だ!!」

 やかましい!!

 私の心の叫びに、とろける笑顔でのけぞるイケオジ団長は今日も絶好調だ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

処理中です...