変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

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帰りたい

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 あれからも、何度か王子に言い寄られている。
 いいかげんに、この人、飽きないのだろうか。ずっと話は通じないし、ノリノリで高らかと自分の素晴らしさを垂れ流しているので、もはや下手な演劇を見ている気分にもなりかけているが、相変わらずきもちわるいし、向こうも向こうで、私に話が通じないと感じているのか、たまにイラッとしている様子がある。
 相手は王子なので、不穏な空気は避けたい。でもこっちもイラついているから、王子に気付かれないよう、こっそりと嫌味を混ぜて返してしまう。また団長に怒られそうだと思うものの、どうせ言葉を返すのなら、王子には気付かれなくても、ちょっとした嫌味ぐらい言わせて欲しい。

 今日もまた団長に助け出されたりなんかしつつなんとかやり過ごしたのだけれど、今日は本当に最悪だった。
 王子に腕をつかまれて、最高にきもちわるかったのだから。ふりほどこうとしたけれど、思ったより王子の手の力は強く、離れることができなかった。
 その時に団長が来て、ようやく解放されたのだけれど。そのせいでまた団長に小言をいただいた。
 王子のせいで私が叱られるとか納得いかない。いい迷惑だ。
 私だって好きで王子に遭遇してるわけじゃない。私に言ったって仕方がないと思うのだけれど、団長はもう少し上手く距離を取れという。
 私だって、取りたいです。
 顔には出さないようにしているけれど、ちょっと疲れていた。
 最近、王妃様からの呼び出しも多い。そして団長は相変わらず変態だ。
 そして帰る家は、団長の屋敷である。
 私の平穏がどこにもなかった。

 騎士団と魔術師団に行ってるときはまだましかな……と、思いかけて、いや、どちらも脳筋と陰険との間に譲れぬ戦いが勃発するので、そう平和でもなかった。王妃宮の要求もわかるけど、軍務の方でもそうホイホイと融通きかせられるわけがないのはわかるので、挟まれる方はつらいのだ。
 早く帰りたい……。
 足早に家路についた。




 帰りたかった家は、イマジナリーホームである。
 どれだけ帰りたいと思っても、頭の中にしかない安らぎのおうちは、私を出迎えてはくれなかった。

 そして帰ってきた家は団長のお屋敷だ。気が重い。といっても使用人の皆さんは話しやすい方ばかりだ。住み心地はすこぶるいい。王宮の宿舎より部屋は綺麗だし広いし設備は比べものにならないし、食事もおいしい。
 ただ、家には、団長がいるのよね。今はまだいないけど、そのうち帰ってくる。
 朝晩、時間が合えば団長と食事を共にしているし、部屋から出ると顔を合わせることもある。
 不本意な注意をされた後だと、なんとも居づらい。顔を合わせると、どれだけ取り繕っていても私が不本意なのがバレるのがいたたまれない。隠したい感情が筒抜けなのは、互いによくない。つらい。

 とりあえず、意識的になにも考えないようにして乗り切ることを決意する。私だって別に団長を責めたいわけじゃないから。
 感情剥き出しの自分を知られるのは本意じゃない。それが苛立ちだったり怒りだったり負の感情だったら尚更。自分のこうありたいって姿を台無しにされるのは、私も団長も、互いに悲しいことだ。
 今日は、別々の食事にしてもらおうかな……。
 団長が帰るのが遅いときは、よくそうしてもらっている。部屋で取ることも少なくない。
 そうしてもらおう!
 決意して相談に向かったところで、団長に遭遇してしまった。

「……おかえりなさい」
「ああ、ただいま。君に出迎えてもらえるとは、うれしいね」

 いえ、出迎えたわけではないです。

 私の計画も虚しく、逃げようとした私の手を取った彼はにっこり笑って私を食事に誘った。




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