変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

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近衛騎士1

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 問答無用で翌日の東部の監査行きに組み込まれた私は、うちの副団長の健闘虚しく、ご一緒することになった。
 副団長にはもうちょっと抗って欲しかった。
 騎士団の第三隊の副隊長と、魔術騎士団の副団長だと、ウチの副団長の方が発言力がある。
 ただ、ヤツがごねた。ごねにごねた。そしてなぜか王妃宮の女官も出張ってきた。監査と団の間を取り持つのに私がいた方がいいと。確かに今回の監査に女官もいるみたいだけど、いや、王妃宮関係ないでしょう。まあ、王妃様の使者も数人同行するらしいけど、いや、やっぱり関係ないでしょう……。
 副団長に「申し訳ありません」と謝られた。まあ、確かに断れないのはわかるんだけど……。がんばって欲しかった。



 そんなわけで、今、私は東部に向かう道中です。
 監査にオターニョ宰相補佐や第四王子がいます。なんで。オターニョ宰相補佐、まだ生きてるのよねぇ……。
 そして第四王子がやたらと絡んできます。なんでここに王子がいるのかわからない。

「殿下、グラシアナ嬢が困っておられますよ」

 困ったように苦笑して王子を諫めているのは彼の護衛についている近衛騎士だ。
 王子、いる必要ないよね……?
 私が王子も監査の隊に同行していることを知ったのは王城を出て半日が過ぎた頃だ。昼休憩中に声をかけられた事で発覚した。同行している副団長に確認をすれば、出立するときに急遽ねじ込まれたらしい。
 そして、私に絡んでくる。
 なんで?

 団長がいないせいで、王子の行動を止める人がいない。一人にならなければ大丈夫と思いつつ、若干の恐怖が込み上げたが、そこに救世主がいた。
 それが王子の護衛の近衛騎士である。
 ファロナダと名乗った彼は穏やかで礼儀正しく、王子の横暴を抑えてくれている。そして、あの王子が渋々ながらもその近衛騎士の言葉には従っているおかげでなんとか乗り切れている状態だ。

「グラシアナ嬢、しばらく殿下は抑えておきますので、ゆっくりなさって下さい」

 王子に聞こえないように、こそっと耳打ちをされる。
 いかにも近衛騎士と言った端整な顔が、いたずらっぽそうな顔でクスリと笑った。

「ありがとうございます」

 私もこっそりと笑いかけると、彼は頷いて王子を言葉巧みに連れ出した。
 必要のない監査には連れ出されるし、王子はいるし、最悪だ。
 王子の護衛は二人いて、もう一人は王子を抑えてくれない。ファロナダがいるときのみの平穏だ。

 道中は基本的に馬車内で官吏や女官と共にいるが、私は不要な存在だ。
 しかも王妃の使者である女官達も同行しているわけだけど、そちらからは地味に睨まれている。
 王子と近衛騎士を侍らせているせいだろうか。それともこの前ブローチもらって妬まれているんだろうか。
 ちがうから。勝手に寄ってくるだけだから!! ブローチも別に欲しくなかったから!
 などと言おうものなら、自慢かとぶち切れられそうな状況だ。
 えらい迷惑を被っている。彼女たちの連携のために配置された名分だけど、自分がいない方が話が上手くいくだろうな……。
 無事帰ることができるか、不安で仕方ない。




 そして出立から一週間、東部に到着した。
 そこから副団長が伯爵に目通りする際に後ろに控え、監査に同行した。副団長が私を一人にしないよう気を遣ってくれたおかげだ。
 その配慮がありがたかった。
 が、どうしても、ずっとというわけにはいかない。魔術騎士団は宰相補佐、監査官の警護である。同行できない場面は度々あった。
 基本的に女官達と共にいるのだけれど、目をつけられているため居心地が悪い。
 少し離れた場所で息をついたとき、ふと隣から影が差した。

「お疲れさまです」
「君も。殿下の相手は、大変だろう?」

 少し冗談めいた様子で労ってくれる彼に、苦笑を返す。近衛のファロナダ様だ。

「いえ、道中もずっとお気遣い頂いて、ありがとうございます」
「君のような思慮深く落ち着いた女性が殿下の隣にいてくれればと、部下の立場では思ってしまうけど」

 彼は笑いながらポケットを探り「どうぞ」と小さな布包みをくれる。中には花のつぼみのようなかわいらしい砂糖菓子が入っていた。

「私は君を、殿下に渡したくないと思ってしまう」
「……!」

 驚いて顔を上げると、彼は照れたように笑う。

「殿下に着いてきてよかったよ。おかげで、グラシアナ嬢に出会えた」

 彼は私の空いた手を取って、その甲に軽く口付けた。

「よかったら、考えておいて」
「……あ、の」

 返答に躊躇う私にその気がないことに気付いたのか、彼は私に首を振った。

「今すぐ答えを出そうとしないで。ゆっくり知り合っていきたい。ね?」

 私はなにも言えず、笑ってから小さく頷いた。

「じゃあ、時間があれば一緒にいていいかな」
「……でも」
「女性を出向先で一人にさせるわけにはいかないからね」

 彼が笑うから、私は苦笑しつつ、やはり小さく頷くしかできなかった。

 相変わらず、王子は私を見かけるとちょっかいをかけてくるし、近衛の彼は助けてくれる。もう一人の近衛は無言でただそこにいる。
 それをなんとか他の女官達に話を振って、彼らの対応を押し付けて逃げた。そうしているうちに女官達の私へのあたりは軟化していった。
 やはり女官達は、近衛や王子と話す機会が欲しかったらしい。

 東部にいる間はそれで乗り切ろうとしていたのだけれど、近衛の彼と話す機会は増えていった。なにを思ったのか、女官のうちの何人かが「ファロナダ様、あなたに気があるんじゃないの?」と楽しげに笑って、彼が近くに来ると私に休憩時間をくれたりすることもあった。
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