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1章
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しおりを挟む……母さん!!
ルカは飛び起きて、自分が夢を見ていたことに気付く。
ここは、港町の近くの逗留しているアパートだ。状況を確認して、夢と現実の確認をしてゆく。
夢を見た。といっても、父が拘束されて母から家を出て行くように言われた時の、実際にあった出来事であったが。
未だ、苦さは拭えない。父は大丈夫だろうか。母は……。
情報だけは、少しは入っている。あの後拘束されたという母はすぐに解放されたようだということ。父は、捕まって以降の情報は何もなく、安否さえも不明の状態だ。
父が拘束されて、もう半年が経つ。その知らせと共に、ルカは乳母親子と共に商会から逃がされた。
当初ルカは、母と共に商会に残るつもりでいた。しかし母親はルカを逃すつもりでいたため、もしものときの対応を話し合うたび、意見は平行線だった。
だが、母親の方が一枚上手で、乳母親子を国外に逃がすように唐突に言われて、ルカは拒絶できなかった。
乳母親子とは、この国に渡ってくる前からの付き合いで、共にこの国にきてからも家族のように暮らしてきた。今は偽の姉として共に暮らすアンナは、ルカの実の姉の乳兄弟で、もう一人の姉として慕っている女性であり、商会の重役の妻でもある。乳母であり、母の側仕えをしていたマリカは、忙しい母の代わりにルカの面倒もよく見てくれていた、やはりもう一人の母のような存在だ。この二人もまた、商会とは切っても切れぬ立場だ。乳母の夫は、東国に来て間もなくして亡くなったが、彼女はずっと母に仕えてきた。
「使用人を守るのも、主の仕事よ」
母はそう言ってルカに二人を託した。たった二人でも、家族のように寄り添いながら仕えてくれていた二人だからこそ、せめてあなたが主の責任を果たしなさいと。
女性が拘留されれば、どんな扱いを受けるか分かった物ではない。しかも使用人ともなれば、扱いが雑になりかねない。
その二人を連れて逃げろと言われ、ルカは異を唱えることができなかった。前もってわかっていれば母に対抗もできたが、だからこそ、直前まで内密にされたのだろう。
乳母と偽姉もまた、ルカを商会から連れ出すためにこの地を離れるつもりなのだ。でなければ、乳母や偽姉が、母や家族を置いて商会をあとにして逃げるはずがない。
母は、ルカも乳母親子も逃がすために、互いを逃げなければならない楔としたのだ。
ルカを逃すためには乳母親子は帰国しなければならず、二人を逃すためにはルカが共に行くしかない、そういう状況を作り上げられた。自分のために商会から離れるつもりのない三人だったが、互いが、大切な者を守るために、商会を離れることとなった。
「自分たちで切り抜けなさい」
あの時、母はそう言った。母自身は店に残る者達と共に粘るつもりなのがわかった。
「商会を継ぐ気があるのなら、自分の命とマリカとアンナの命をあなたが守りきってみなさい。今あなたがここにいても邪魔になるだけです。出て行きなさい」
そう言って、ルカを家から叩き出した。楽しげにルカを女装させるおまけ付きで。国を一度出てしまえば再会はいつになるかわからない、場合によっては今生の別れとなり得るかもしれないとわかっていながら、泣くことさえ許してくれなかった。主に女装のせいで。ひどい。
それら全てが真っ先に息子を商会から逃すための、口実だとわかっていた。けれど、逆らえなかった。邪魔なのが事実であることもわかっていたからだ。あの瞬間、なにもできない非力さが、嫌になるほど実感できた。
それに、逃れたからこそできることがある。それも事実だった。
なにより乳母と偽姉を守りたい。ルカにとってそれは絶対に譲れないことだった。きっと、母がルカや乳母親子をどうしても守りたかったように。
総合して、あの時は母の判断が最善だったのだろうと思う。悔しいけれど。
だからルカは、二人を護り、西国に帰国しなければならない。海運の母体である西国フォンタナ商会が東国との流通を切ることがないよう、連携をとれるよう働かなければならないからだ。
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