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1章
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しおりを挟むそうか。不信感はあって当然なんだ。その上で、相手を見ようとすることが大事なんだ。
真摯に答えてくれたことが嬉しい。やはりこの人が好きだと思った。正臣のてらいのない笑みに、ニコニコと顔が笑ってしまう。
「ついでにいうのなら、ルカ殿に不信感を抱いたことはないな」
「私のことなにも知らないのに、そんなことをおっしゃってよろしいんですか?」
「立場上、異国の者を特に厳しく精査するのは必要だ。もちろん君たちにも。……とはいえ、いま特に西国の者が取り締まられているのは、知っているだろう?」
「……ええ」
「今後、入国の取り締まりは更に厳しくなるが、出国する分にはまだ猶予はある」
出国する予定のルカ達は、取り締まりの対象にはしなくて大丈夫だということだ。
やっぱりバレているよな、と、ルカは内心苦笑する。正臣はルカの質問の意図を正確に受け取って答えているのだ。
「……私どもとは別に、弟も別のところから出国を探っている筈なんです。男だと、やっぱり取り締まられたりするんでしょうか……」
次いで、いもしない弟を出して、男の出国についての考えを聞き出す。
「どうだろうな。今はそれほど厳しくはないが、女子供に比べると厳しいのは間違いない。ただ俺は国内で下手な行動をとられるよりかは、国から出した方がいいと思っている。現時点で隣国の者にはそれなりに厳しい目を向ける必要があるが、君たちのような西国の者まで厳しく取り締まるのは、必要がないと思っている。革命軍の取り締まりもあるが、異国民に関しては、捕まえるより国を出るなら出てくれた方がいい。無駄にとらえて西国の感情を逆なでするのは悪手だ」
大丈夫だとは言えないが、少しでも安心できるように言葉を尽くしてくれているのがわかる。
こういうときの正臣は饒舌だ。まるで、情報を明け渡しているかのように。
「異国民である私にそんな甘いことを言って、大丈夫なのですか?」
「君がよほどの悪者でない限り、問題ないさ」
薄く笑った顔はどこか見透かしているようでぎくりと震えた。反面、許しの言葉のようにも聞こえた。悪いことをしてないのなら見逃してやる、と。
やはり、と思う。正臣は意図的に教えているのだ。
彼が言葉にするわけにはいかない言葉の裏を感じて、安堵と悔しさとがよぎった。
「ありがとうございます」
この人には、敵わないと思う。
意図的に与えられる情報をどの程度信じるかは、ルカ次第だ。けれど、ルカはそれを全面的に信用してしまうだろう。理性ではあくまで疑いは捨てるなと訴えるが、信じてしまう気持ちへのささやかな抵抗でしかない。
既にルカは思っている。この人は本当に私に甘い、と。
それは彼の甘さなのか、慈悲なのか。わからないが、このまま彼の庇護下で、甘えてしまいたいと思い始めている。
気を張らなくて良い彼の側は居心地がいい。
ルカは、まんまと手懐けられた自分に、苦い笑いがこぼれた。
大丈夫、日常だけだから。いざというとき、頼るような真似をしない。そうすれば、二人は守れるから。
そう自分に言い訳をした。
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