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1章
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しおりを挟むそもそもだ。女性は男に突っ込むものがない。それ以前にその理論なら、突っ込まれても問題ない。問題は……自分が女性と思われていることだ。
何を考えているんだと、だいぶ行き詰まっている自分の思考に脱力した。正臣とのあれこれが気になりすぎて、最近の自分が考えていることが色々おかしい。
正臣と何気ない会話を交わしながら、女性のように押し倒される正臣を想像する。
ルカでは正臣には敵わない。体力的にも、技術的にもそんな気がしている。隙がないとでもいうのだろうか。実力的に勝てない気がする。それとは裏腹に、正臣はルカのすることを何でも許してしまいそうな、そんな甘さも感じている。仕方がないなと笑って、窘めて、頭を撫でてきそうな、そういう甘さだ。
正臣がルカのことが特別だと、言葉でも態度でも示してくるのだ。
好きだと自覚した相手から、そんな気持ちを向けられれば、どうしても期待をしてしまう。
だったら、と。もしかしたら……と。
自身の下に押し倒した正臣の妄想が脳裏をちらつく。きっと、組み伏せられた正臣は、セクシーだ。
並んで歩きながら指先が触れる。その些細な触れ合いに正臣のぬくもりを感じて、どくんと心臓がはねる。
正臣の目を避けて、ルカはこくりと唾液を飲み込んだ。
しかし、我に返れば襲ってくるのは虚しさだ。好かれているがために、込み上げる期待を抑えきれない。
そのくせして何の行動を起こせるはずもなく、今日もまた何事もなく、ただ並んで歩いて会話をしてそして別れた。
立ち去る正臣の背を見送ると、ルカもまた帰路につく。それが、ルカと正臣の適切な距離だ。
わかっている。男だと知られるわけにはいかない。
だから何度も何度も自分に言い聞かせた。
彼が好意を向けてくれるのは、ルカを女だと思っているからだ。男のルカを好きなわけじゃない。と。
彼の気持ちはルカに向けられているのに、ルカのものではないのだ。やりきれない。
男と知られるのが怖い癖に、男の自分をそのまま好いて欲しい感情も同じだけ強くなる。
男と知られたくない。男と気付いて欲しい、本当の自分を愛して欲しい。
相反する感情で頭がおかしくなりそうだった。
だがそれ以前にこの感情で揺れ動くことすら馬鹿らしいこともわかっていた。そもそもルカはここに短期の逗留をしているだけだ。間もなく国に帰らなければならないのだ。仮に男と分かった上で受け入れてくれたとしても、どれだけの意味があるのだ。一緒にいられる時間もろくにないのに。
くだらないことで悩んでいると思う。本当の自分を好きになってもらいたいなどと悩む事に、意味がない。
女のルカが愛されている、このままで何の問題もないじゃないか。
そもそも、男と知られるのは危険なのだ。わかってもらいたいと思うこと自体が馬鹿げているのだ。その考えを捨てるべきなのだ。
わかっているのに、「でも」と感情が訴え続ける。感情と理性が、ずっとグルグルと意味のない思考を繰り返す。
隠さなければならないことがある。側に居続けることはできない。
でも。でも。でも。
言い訳ばかりが繰り返される。堂々巡りだ。
苦しい。彼に向かう気持ちが、苦しくてたまらない。
こんなこと、気付きたくなかった。
なぜ今なんだろう。なぜ男なんだろう。なぜ国籍が違うんだろう。なぜこんな情勢なんだろう。
なぜ、なぜ、なぜ……と、変えることのできない諸々が頭の中を回り続ける。全てが自分と正臣を引き裂こうとしているように思えた。
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