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1章
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しおりを挟むいつまでもこんな事をしていられない。いつか離れなければいけない。関係を切るならば早いほうが良い。
利用してやるなどという気持ちは、なくなったまま行方不明だ。これだけ絆されたのなら、もう無理だろう。
だからせめてこの感情を押し殺して、正臣から離れて、乳母と偽姉を守ることに専念した方が良い。
もうルカは、正臣のやる事に関して冷静に判断を下すのは難しいだろうと思っている。正臣がルカを騙そうとすれば、簡単に騙されてしまう。きっと簡単に信じてしまう。
ルカは既に、正臣がそんなことをするわけがないと思っていた。同時にその考えこそが危険であるとも思っている。
せめて、その自覚がある内に、離れなければいけないのに。
理性ではそうとわかっている。どこかで覚悟を決めなければいけないと思うのに、ルカは未だずるずると流されるまま、正臣との時間を惜しんでいた。
正臣に家まで送られた後、小さく溜息をついて去って行く後ろ姿を眺めた。
こんなとき、花街の彼女に向けられた小さな棘が胸を突き刺す。じくじくとそれはルカの胸を痛ませた。
『お嬢様はいつか帰る方』
彼女はルカのことをそう表現した。あれは、彼女の毒だった。ずっと正臣を独占することはできないのだと、正臣との関係は今だけということを、意図的にルカに突きつけた言葉だ。
あの時は、苦笑しながらも受け入れていた事実が、今は痛い。
心は、変わってゆくのだ。
いつまでもその場でとどまり続けてはいない。
ほんの少し前までは平気だったのに、今はいつか来る別れを怖いと思うようになってしまった。彼を慕う者がいることが恐ろしい。彼が昔、選んだ女性がいたことが憎らしい。
花街の彼女が向けてきた毒が、じわじわとルカを苛む。辛い、苦しい、悲しいと、胸が軋む。
正臣と会う回数を重ねる度、距離が近づくのを感じていた。それを感じる度、想う気持ちが深まった。
言動のひとつひとつが厳しいのに、ほんの少し思いを巡らせると、そこに思慮深い優しさがあった。
好きが重なっていって、離れがたい感情は増す。時を重ねるほどに好きになる。彼のなにもかもが好きだと感じてしまう。
恋心は厄介だ。
綺麗な思い出にして別れたいと思っていても、ルカには絶対無理な事だった。離れがたくて縋ってしまう自分が簡単に想像できた。
ダメなのにと思うほど、深みにはまってゆく。
悩んで悩んで、突然ルカは思いついた。
良い思い出にしようとするから、ダメなのかもしれない。
嫌な気持ちになれば、早く離れたいと思えるのではないか。
それは、ひどくいい考えに思えた。
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