敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

１章

44 3－12

　そもそもだ。
　場所が悪かった。

　少し開けた見渡しのいい山の中腹。そこにあるのはとても素晴らしい景観と、茂みと雑木林だ。少し外れたところに川のせせらぎも見える。紅葉と緑と岩肌に川。実に美しい。
　そして今は先日約束した正臣との紅葉デートの最中である。
　紅葉を見に来たのであるからして、当然山の中である。

　次に、時間も悪かった。朝に家を出て、少しの休憩の後こちらへ来た。そう、ちょうどもよおし始める時間帯だ。そしてここで食事……。こんなところには、もちろんトイレなどない。

　ルカは難問と向き合っていた。
　用を足す場所がない。もよおし始めてどれほど時間が経っただろう。そろそろ限界である。
　これ以上の我慢は危険だ。漏れる。

　最近、正臣と出かけることが増えて、今日は初めての遠出だった。だから起こった想定外の出来事に、ルカは絶望した。

「申し訳ありません。その、私、お花摘みに…」

　最初の潜伏先の夫人よ……、不要に思われたあなたのマナー指導が、こんなところで役に立っている。男のように「ちょっとションベン」と笑って終わらせられない女性の苦難が、今ルカに襲いかかっていた。
　耐えきれなくなって、涙目でぼそぼそというと、珍しく正臣がうろたえて、すまないと、気がつかなかったと言い訳しながら、隠れられる茂みにへと案内してくれた。

　ルカは正臣から隠れるよう一人で茂みの奥に進みながら考える。
　女の服は用を足すとき大変腹のところがかさばる。しかも茂み。濡れる。足場濡れたら最低だ。スカートの裾まで濡れてしまう。

　……よし。立ちションだな。

　見えないところまで行けば大丈夫だろう。正臣はのぞくような人ではない。
　お、いい感じの崖が。ここに飛ばしたら足下濡れないし服も濡れなくて良いな。よし。
　スカートをたくし上げて、竿を持つ。そして解放……というときに、がさがさと草をかき分ける音と共に後ろから声がした。

「ルカ殿、そちらは崖なので危な、い……」

　振り返ると正臣がいた。
　目が合ったと思ったのは気のせいで、彼の視線はルカの目元より下に向かっている。
　既に水音がし始めていた。

「え？」

　声を漏らした正臣の目は、ルカの顔よりだいぶ下方に釘付けだ。
　水音の原因は放物線を描きほとばしっている。正臣の視線はそれを追って、それからもう一度ゆっくりと発射地点へと視線が動く。

　正臣は、女のルカにはあってはならない物を凝視していた。
　つまり、ルカのペニスである。

　今、ルカの開放感が、大変なことになっていた。