敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

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2章

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 偽姉は深く溜息をつくと、隣の乳母に目配せして小さく頷いた。

「……大佐の思惑はともかくとして、とりあえず現状維持なのね。ルカの考えはわかったわ」

 偽姉の溜息の後、乳母が諭すようにルカに語りかける。

「私たちも一条大佐については、おおむね信じて大丈夫な方だと思っているわ。古くからいる異国民街の方からの話を聞く限り、あなたが聞いた言葉も大佐らしい言葉だと思うし、事実他の異国民達にそうしている話も知ってるわ。でもねルカ。あなたはいつ捕まってもおかしくない立場なの。わかってるわね? だから、これだけは胸に刻みつけておきなさい。……もし大佐があなたを捕まえようとしたら、私たちのことは置いて逃げなさい」

 真剣な目で告げられ、ぎゅっと胸が痛くなる。

「……それはっ」

 出来ないと言おうとしたルカを遮るように、偽姉が言葉を重ねてきた。

「あなたが捕まれば、私たちも捕まる。あなたが逃げていると思えば、私たちだって逃げられる。……いいわね?」

 ルカの判断を偽姉たちは受け入れてくれた。ただし、万が一の時、犠牲になる覚悟をして、だ。
 忠誠とぜになった愛情と信頼の重さにルカは唇を震わせた。
 自身の身勝手さを突きつけられたようだった。けれど、引き返す気になれない。……正臣なら大丈夫だと、もう、思ってしまっているのだ。少なくとも、今から港町にまで移動し、治安の危うい場所で暮らすよりかは、よっぽど、と。体感として、ここまで安全な町は、そうそうない。だから決断を覆す気はない。

 でも、と、ルカは改めて自分に誓う。もし正臣に少しでも不審を覚えれば、そのときは、信じたい気持ちは切り捨てる、と。この恋心より自分のために命をかけてくれているこの二人を、守らなければならないのだから。
 偽姉と乳母の覚悟を受け取る。ルカもまた、そんなことにはさせないと覚悟を決めて頷いた。

「はい」

 その場合の落ち合う逃亡先をあらためて確認し、その話はひとまず終えることになった。



 ……と思ったが、話はそれで終わらなかった。

「……で、どうして男ってばれたの」

 呆れたように偽姉が溜息をつく。嫌なことを聞いてこられた。そこは突っ込まないで欲しい。

「あー……」

「バレる要素なんてなかったでしょう? 我ながらルカの美人っぷりは人種を越えて通じるほど、本当に良いできだったと思うんだけど。……まさか、あの男、あなたに手を出そうと……!?」

「ちがう! しないから!! あの人、そんな人じゃないから!!」

 慌てて叫ぶと、ギッと偽姉は目元を鋭くした。

「そんなのわかんないでしょう! 所詮は男よ!」

「私も男だから!!」

「あなたは良い子だから、良いの!」

「筋が通ってない!!」

 心配してくれるのは嬉しいけど、身内びいきが胸に痛い。なんといっても、今度その正臣を襲おうと画策している身である。襲われるのはルカではない。正臣だ。
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