62 / 163
2章
62 1-13
しおりを挟むなんとかうまく嫌われないように、この状況を躱したい。
でも本心を答えなかったら、正臣はこのまま冗談で流していってしまうのではないか……そんな気もする。
そこまで考えて、ルカは息をのんだ。
もしかして、そういう事か?
くれてやると彼は言った。それが全てだとしたら? それを受け取れないのなら知ったことではないと、ルカの本気を試されているのだとしたら? 冗談で流しても許されるように?
だから正臣さんは私を試すように見てるのか? ……怖じ気づいた私が、逃げられるように?
その可能性に思い至って、ぞわりと総毛立つような恐れが走った。ごまかすとこのまま正臣を失う気がする。怯えて身を引くと、二度と正臣は距離を詰める隙を見せない気がする。
ルカが正臣を絡め取ろうとしたところで、敵うわけがない。相手はルカよりも一枚も二枚も上手だ。なら、正臣が示した道を真正面から進むしかない。
ルカは身を正して正臣を見た。
「抱きたいです。あなたが欲しいです」
私は、本気だ。
伝われと、目を見てはっきりと言い切る。けれど不安で声が震えてしまった。本当にこの選択で正臣に嫌われないのか。本当に望んで大丈夫なのか。
楽しげに笑う正臣から、目をそらしたいような不安が込み上げたが、今、伝えなければ、曖昧なこの関係は、どうにもならないのだと自分に言い聞かせた。
ルカが伝えなければ、正臣は二度とルカの気持ちに踏み込んでこないとしたら。そんなのは嫌だ。このまま躱され続けるのは嫌だ。
正臣の本心がわからなくてもいい。ルカに身体を差し出すほどの情があるというのなら、それで。
前みたいな恋情でなくてもいい。本当は嫌だけど、我慢する。だから正臣さん、冗談で流さないで。
「好きです。あなたが好きなんです……」
おそるおそる手を伸ばした。
笑顔の彼の頬に触れれば、正臣がふわりと表情を和らげた。
正臣はずっと笑顔だった。でも、触れた瞬間、正臣の何かが変わったのだ。もしかしたら、正臣も緊張をしていたのかもしれない。だとしたら、きっとこれで、よかったんだ。
「……そうか」
穏やかな声だった。
それだけで間違えていなかったと思えた。ほっとした。
触って良いのだ。求めても許されるのだ。
頬に触れたルカの手の上に、重ねるように正臣の手が添えられる。あたたかくて、きもちいい。
向けられた正臣からの感情に泣きたいほどの喜びが込み上げる。
頬に触れたまま身を寄せれば、ルカの望んだまま、ふわりと唇が触れ合った。正臣がそれを受け入れていた。許されているのを感じる。
嬉しい。反面、緊張した。ルカは本当にこれでいいのかと思いながらこぼれた吐息を震わせた。
これは家族や親しい者達との触れ合いとは違う。東国人たちは挨拶にキスなどしない。するのは閨で色事をするときぐらいらしい。
男らしい硬派な顔立ちだというのに、彼の唇は思いのほか柔らかで、それに驚いたルカの身体は震えた。
それに満足して、ルカは一度身体を離そうとした。が、引きかけたルカの頭を、大きな手の平が拒んだ。ぐっと抱き込まれるように頭を押さえつけられる。
「……んん!?」
戸惑うルカに、正臣の口が噛みつくように深く重ねられた。
ぬるりと差し込まれた正臣の舌に絡め取られて、ルカは、うくん、うくんと必死に応える。
突然のことに、訳がわからない。頭が焼き切れそうだ。
呆然とするルカに、正臣がニヤリと笑う。
「じゃあ、やってみるか?」
戸惑いながらも興奮が抑えられないルカの目の前で、正臣が見せつけるようにシャツのボタンを一つ外した。
31
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる