78 / 163
2章
78 3-6
しおりを挟む「いつも、もらってばかりだから、お礼」
ルカはついぶっきら棒な声で、目をそらしたまま正臣にカフスの箱を差し出た。正臣の驚く顔と喜ぶ顔を見たかったはずなのに、渡す瞬間になって変な緊張を覚えたのだ。どう言ったら良いのか分からず、どういう顔をしたら良いのかも分からなくなった。
ルカは自分の言動に意味がわからず、内心冷や汗がダラダラ流れていた。
未だかつてない経験である。
人にプレゼントをするのは好きだ。自分の好意が伝わるのが嬉しい。それで喜んでもらえるのはもっと嬉しい。これはお礼だ。相手は正臣で、親しい相手だ。お礼やプレゼントなど日常のことで、決してこんなに緊張するような事ではないはずである。
何でこんな言い方しちゃったんだ? いや、なんで目をそらしたんだ。
自分の態度に意味がわからなくなっているルカの手から箱の重みが消える。
顔をそちらに向けると、正臣の楽しげな表情と出会う。
「俺にか?」
「……うん!」
正臣の様子にほっとして、ルカにようやく笑顔が浮かんだ。ルカに促されるまま包みを開けてゆく正臣をドキドキしながら見守る。
「これは、カフスか?」
「そう。正臣さん、カフス使うよね?」
「ああ」
「今付けてもらってもいい?」
わくわくした様子を隠しもせずにお願いをしたルカに、正臣が苦笑しながら軍服を脱ぐ。ルカはその手を取ると、プレゼントしたカフスに付け替えた。
正臣の腕を、ルカの瞳の色によく似た琥珀が色を添える。
悪くない。
にんまりとして両腕とも付け替えると正臣を見上げた。
「似合うよ!」
「ああ、良いな」
正臣が腕を上げて手首を確認する様子が、ただそれだけで様になって満足だ。
「ルカ」
「なに?」
「ありがとう」
穏やかな笑みが、本当に喜んでいるのがわかって、ルカは急に気恥ずかしさを覚えて笑ってごまかす。
あのさ、すごく迷ったんだ。すごく考えて、正臣さんが気に入ってくれたら良いなって。でさ、その琥珀、私の目に遭わせたんだ、それでね……。
心の中で言いたいことが溢れるというのに、上手く言葉にならない。全部言ってしまうのがかっこ悪く思えて、何かを言いたくてむずむずする口を押さえながら「どういたしまして」と笑うのが精一杯だ。
「……大切に使う」
ルカに向けていた穏やかな笑みをそのまま腕のカフスに向けて、正臣の指先が琥珀をそっと撫でる。
「気に入ってくれた?」
「ああ」
正臣の視線が今一度自分に戻ってきたことに満足して、ルカは笑った。
「今日は、シャツを着たままにしようか?」
カフスに唇を寄せながら、正臣がニヤリと笑う。
「……どっちでも、良いよ」
今日も正臣は楽しげに身を寄せてくる。そうなると、ルカは正臣のことで頭がいっぱいになってしまう。
こうして誘われるだけで、ルカは彼に翻弄される。堪えきれない欲が込み上げる。
正臣が望んでくれるのなら、触れ合いたかった。抱き合っていれば共にいる安心感に満たされた。欲をぶつければ受け止めてくれる正臣が、自分のものだと感じられた。
袖口のカフスが、キラリと光を反射させる。
この男はルカの物だと主張するカフスだ。
抱き合う行為は、これから先にくる、あらゆることから目を背けただけの逃避とわかっていたが、今手に入れられる幸せと安心感を、手放せなかった。
「……正臣さん、好きだよ」
「ああ」
抱きしめて不安をごまかすように呟けば、穏やかな声が返ってくる。またあの優しい目をして笑っているのだろう。
顔をのぞき込むと、やはり想像通りの笑みを浮かべ、更に誘うようにキスを落としてくる。
正臣への感情がおかしくなるほど膨れ上がっている自覚があった。
けれど、抑えられなかった。
正臣の側にいると、何もかも心配しなくていいような気持ちになれた。満たされた。正臣との行為に、ルカは溺れていた。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる