敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

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2章

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「いつも、もらってばかりだから、お礼」

 ルカはついぶっきら棒な声で、目をそらしたまま正臣にカフスの箱を差し出た。正臣の驚く顔と喜ぶ顔を見たかったはずなのに、渡す瞬間になって変な緊張を覚えたのだ。どう言ったら良いのか分からず、どういう顔をしたら良いのかも分からなくなった。
 ルカは自分の言動に意味がわからず、内心冷や汗がダラダラ流れていた。

 未だかつてない経験である。
 人にプレゼントをするのは好きだ。自分の好意が伝わるのが嬉しい。それで喜んでもらえるのはもっと嬉しい。これはお礼だ。相手は正臣で、親しい相手だ。お礼やプレゼントなど日常のことで、決してこんなに緊張するような事ではないはずである。
 何でこんな言い方しちゃったんだ? いや、なんで目をそらしたんだ。
 自分の態度に意味がわからなくなっているルカの手から箱の重みが消える。
 顔をそちらに向けると、正臣の楽しげな表情と出会う。

「俺にか?」

「……うん!」

 正臣の様子にほっとして、ルカにようやく笑顔が浮かんだ。ルカに促されるまま包みを開けてゆく正臣をドキドキしながら見守る。

「これは、カフスか?」

「そう。正臣さん、カフス使うよね?」

「ああ」

「今付けてもらってもいい?」

 わくわくした様子を隠しもせずにお願いをしたルカに、正臣が苦笑しながら軍服を脱ぐ。ルカはその手を取ると、プレゼントしたカフスに付け替えた。
 正臣の腕を、ルカの瞳の色によく似た琥珀が色を添える。
 悪くない。
 にんまりとして両腕とも付け替えると正臣を見上げた。

「似合うよ!」

「ああ、良いな」

 正臣が腕を上げて手首を確認する様子が、ただそれだけで様になって満足だ。

「ルカ」

「なに?」

「ありがとう」

 穏やかな笑みが、本当に喜んでいるのがわかって、ルカは急に気恥ずかしさを覚えて笑ってごまかす。
 あのさ、すごく迷ったんだ。すごく考えて、正臣さんが気に入ってくれたら良いなって。でさ、その琥珀、私の目に遭わせたんだ、それでね……。
 心の中で言いたいことが溢れるというのに、上手く言葉にならない。全部言ってしまうのがかっこ悪く思えて、何かを言いたくてむずむずする口を押さえながら「どういたしまして」と笑うのが精一杯だ。

「……大切に使う」

 ルカに向けていた穏やかな笑みをそのまま腕のカフスに向けて、正臣の指先が琥珀をそっと撫でる。

「気に入ってくれた?」
「ああ」

 正臣の視線が今一度自分に戻ってきたことに満足して、ルカは笑った。


「今日は、シャツを着たままにしようか?」

 カフスに唇を寄せながら、正臣がニヤリと笑う。

「……どっちでも、良いよ」

 今日も正臣は楽しげに身を寄せてくる。そうなると、ルカは正臣のことで頭がいっぱいになってしまう。
 こうして誘われるだけで、ルカは彼に翻弄される。堪えきれない欲が込み上げる。
 正臣が望んでくれるのなら、触れ合いたかった。抱き合っていれば共にいる安心感に満たされた。欲をぶつければ受け止めてくれる正臣が、自分のものだと感じられた。
 袖口のカフスが、キラリと光を反射させる。
 この男はルカの物だと主張するカフスだ。
 抱き合う行為は、これから先にくる、あらゆることから目を背けただけの逃避とわかっていたが、今手に入れられる幸せと安心感を、手放せなかった。

「……正臣さん、好きだよ」

「ああ」

 抱きしめて不安をごまかすように呟けば、穏やかな声が返ってくる。またあの優しい目をして笑っているのだろう。
 顔をのぞき込むと、やはり想像通りの笑みを浮かべ、更に誘うようにキスを落としてくる。
 正臣への感情がおかしくなるほど膨れ上がっている自覚があった。
 けれど、抑えられなかった。
 正臣の側にいると、何もかも心配しなくていいような気持ちになれた。満たされた。正臣との行為に、ルカは溺れていた。

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