敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

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2章

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 一年近く前は悪化の一途だった情勢は、今、一見落ち着いていた。軍の方は革命軍の動きが鈍ったことで、腰を据えて隣国との戦に備えている。革命軍の方も今はなりを潜めており、軍は革命軍への警戒を緩め始めていた。……それは、まもなく革命軍が活動をはじめるということでもある。今の平穏は嵐の前の静けさといって良い。革命軍が活動を再開すれば、一気に風向きが変わる。仮にそれがなくても、今度は軍が戦争に向けて動き出すのは目に見えている。

 軍にとっても革命軍にとっても、今が束の間の平穏とわかっていた。側にいたいからと正臣を言いくるめるのは別問題としても、出国がいつになるかわからない状態なら、少しでも安全策があるなら、やっておいた方がいいのも事実だ。何より正臣のもとなら、軍の目をかいくぐりやすいだろう。
 正臣がルカの身元を知ったときどうするかはわからないが、少なくとも「正臣の情人」という立場になれば、正臣以外からルカが男ではと思われる可能性はほぼなくなる。

 なんだ、良いこと尽くめじゃないか。

 側にいれる事以上に有益なことが多い。
 問題があるとしたら、偽姉と乳母を残して正臣のところに行くということだが、異国民街周辺の治安の良さなら問題はない。むしろ本来なら血のつながりのないルカが、偽姉達と一つ屋根の下で暮らす方が、実は自国に戻ったとき外聞が悪い。いくら偽姉にとって弟のような存在といえど、年の近い男と同居など許されることではない。家族という触れ込みのため同じ家で暮らすしかなかったのだが、夫以外の年頃の男と暮らす羽目になった偽姉に対し、ルカはずっと申し訳なく思っていたのだ。

 真剣に考え始めるルカに対し、正臣は顔を顰めて溜息をついた。

「駄目だ。お前を揶揄やゆする者が出てくる。……余計なことを言って悪かった」

「余計なんかじゃない。……正臣さん、私ともっと一緒にいられる方法、考えてくれていたんでしょう? 嬉しい。……じゃあさ、母と姉に相談するから、それでいいって言われたら、それなら?」

 弄んでいた正臣の手を握る。ルカはあざとく懇願して見せた。もちろんわざとだ。
 ルカは知っている。正臣は、ルカに甘い。ルカのわざとらしいあざとさを普段は楽しんでいる正臣だが、今はずっと苦い顔だ。
 総合的には悪くない案だと思った。正臣もそれはわかっているからこそ、つい口から出てしまったのだろう。けれど中傷されるであろうルカを案じて、駄目だと言うのだ。
 正臣自身も揺らいでいる、そう感じたルカはなおも強請った。

「ねえ、正臣さん。一緒に暮らそう?」

 呻いて天を仰いだ正臣が、とうとう折れた。

「母君と姉君がいいと言ったら、だ」

「やった!」

 笑顔でルカはうなずく。勝算はあった。

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