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2章
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しおりを挟む「あら、お嬢様、ごきげんよう」
「……こんにちは」
彼女との三度目の再会は、正臣との毎日に浮かれた頃にやってきた。
お会いしたいと思っていたのと、花街の彼女はルカを引き留めた。
「正臣さまが、まさかお嬢様のような方を情人になさるとは、思いませんでしたわ」
挙げ句、この言葉である。
これは、どういう意味だろう。
ルカには、この花街の女性の言葉はわかりにくい。多分に当てこすりがあるのだろうと思うのだが、言葉も表情も邪気がなく、わかりづらい。
だが、確かに、正臣は情人など持ちそうにない。
「意外でしたか?」
「ええ。あの方はもう、女性に情はかけないものと思っておりましたから。……濡れにくい身体のようですわね。まだ一条様のものには、慣れなくて?」
コロコロと無邪気な様子で笑いながら、シモの話をしてくるのは、さすがである。
女性にそんな話を振られて、ルカは反応に困ってしまう。濡れにくいというからには、最中に使うよう正臣から渡されたぬめり薬のことが知られているのだろう。困ったものだと溜息をついた。
「あなたの働いているところは、客の情報を流すようなところなのですか?」
「あら、失礼致しました。もちろん他の者に知らせるような真似はしておりません。ちょっと偶然聞きかじったものですわ」
「どうだか……」
正臣は彼女を警戒してはいない。ならば口を出す必要はないが、気分の良いものではない。
溜息をついたルカに、彼女はコロコロと笑う。
「一条様も、私の前では、油断なさるのですわ」
にこりと笑う彼女に、ルカは苦笑する。
煽ってくるなぁ。
全く悪気を感じない笑顔と口調で、彼女はルカの嫌なことを的確に突いてくる。思わず溜息が出た。
「……あなたの毒は嫌な感じで効いてくるから、やめてほしいな」
「あら、効きましたか? 意地悪もしてみるものですわね」
「やめて下さい」
ルカが顔を顰めれば、彼女はより楽しそうにする。
「こんなかわいらしいお嬢様相手では、私どもは敵いませんもの。意地悪の一つや二つ、我慢なさいませ」
「いやですよ」
「お嬢様は、辛辣な物言いをなさると噂なのに、やられっぱなしでよろしいの?」
楽しげに揶揄ってくる彼女の様子に、もう、ルカは苦笑するしかない。
ルカは溜息をつくと、仕方なく彼女に応えることにした。あまり言い争いたくないが、やられっぱなしもしんどい。
「……だって、あなたは傍観者だ」
「あら、早速辛辣ですわね。私では敵にならぬと?」
笑う彼女に、この人絶対楽しんでるよなぁと思いながら、ルカはこれ以上かまわれたくないため、彼女が自分にかまってくる理由を指摘することにした。その牽制が、果たして彼女に効くかどうかはわからないが。彼女の言葉は刺さるからあまり話したくないのだが、にっこりと笑う彼女を見て、困ったことにやはり嫌いではないなと思った。
ぬめり薬:日本古来のBL御用達性交用ローションを参考にした一品
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