敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

文字の大きさ
87 / 163
2章

87 3-15

しおりを挟む

「あら、お嬢様、ごきげんよう」

「……こんにちは」

 彼女との三度目の再会は、正臣との毎日に浮かれた頃にやってきた。
 お会いしたいと思っていたのと、花街の彼女はルカを引き留めた。

「正臣さまが、まさかお嬢様のような方を情人になさるとは、思いませんでしたわ」

 挙げ句、この言葉である。
 これは、どういう意味だろう。
 ルカには、この花街の女性の言葉はわかりにくい。多分に当てこすりがあるのだろうと思うのだが、言葉も表情も邪気がなく、わかりづらい。
 だが、確かに、正臣は情人など持ちそうにない。

「意外でしたか?」

「ええ。あの方はもう、女性になさけはかけないものと思っておりましたから。……濡れにくい身体のようですわね。まだ一条様のものには、慣れなくて?」

 コロコロと無邪気な様子で笑いながら、シモの話をしてくるのは、さすがである。
 女性にそんな話を振られて、ルカは反応に困ってしまう。濡れにくいというからには、最中に使うよう正臣から渡されたぬめり薬のことが知られているのだろう。困ったものだと溜息をついた。

「あなたの働いているところは、客の情報を流すようなところなのですか?」

「あら、失礼致しました。もちろん他の者に知らせるような真似はしておりません。ちょっと偶然聞きかじったものですわ」

「どうだか……」

 正臣は彼女を警戒してはいない。ならば口を出す必要はないが、気分の良いものではない。
 溜息をついたルカに、彼女はコロコロと笑う。

「一条様も、私の前では、油断なさるのですわ」

 にこりと笑う彼女に、ルカは苦笑する。
 煽ってくるなぁ。
 全く悪気を感じない笑顔と口調で、彼女はルカの嫌なことを的確に突いてくる。思わず溜息が出た。

「……あなたの毒は嫌な感じで効いてくるから、やめてほしいな」

「あら、効きましたか? 意地悪もしてみるものですわね」

「やめて下さい」

 ルカが顔を顰めれば、彼女はより楽しそうにする。

「こんなかわいらしいお嬢様相手では、私どもは敵いませんもの。意地悪の一つや二つ、我慢なさいませ」

「いやですよ」

「お嬢様は、辛辣な物言いをなさると噂なのに、やられっぱなしでよろしいの?」

 楽しげに揶揄ってくる彼女の様子に、もう、ルカは苦笑するしかない。
 ルカは溜息をつくと、仕方なく彼女に応えることにした。あまり言い争いたくないが、やられっぱなしもしんどい。

「……だって、あなたは傍観者だ」

「あら、早速辛辣ですわね。私では敵にならぬと?」

 笑う彼女に、この人絶対楽しんでるよなぁと思いながら、ルカはこれ以上かまわれたくないため、彼女が自分にかまってくる理由を指摘することにした。その牽制が、果たして彼女に効くかどうかはわからないが。彼女の言葉は刺さるからあまり話したくないのだが、にっこりと笑う彼女を見て、困ったことにやはり嫌いではないなと思った。



ぬめり薬:日本古来のBL御用達性交用ローションを参考にした一品

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...