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3章
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しおりを挟むもし、と声をかければ届くほど近くにまでたどり着いた。
特に見栄えがするわけでもない枝振りの木を、その老人は飽くことのない様子でじっと見つめている。
寒々しい様子で揺れる枝に、彼は何を見ているのか。
嗚咽のこぼれそうな口を、ルカはぐっと食いしばって堪えた。
どれだけ望んだだろう。彼に再び相見えることを、どれだけ。
けれど、ルカの声は出なかった。
言いたいことがたくさんあった。思い描いていた再会の言葉はいくつもあった。なのに、そのどれ一つも思い出せなかった。
何度も何度も思い描いたその人がそこにいるというのに、踏み出す足さえ止まってしまう。
夢ではないかと疑うような心地で、その姿を眺めた。
杖をつきながらも真っ直ぐに背筋を伸ばした姿は、老いてもなお見栄えがする。元軍人らしい美しい立ち姿は、ルカの記憶に残る彼そのままだった。
何度見つめてもその人はそこにいて、老いた姿は記憶と違うというのに、違うことなく正臣だった。
彼がどんな気持ちで今ここにいるかなど、知るべくもない。
ルカはなにも知らないのだ。彼がどんな気持ちであの時ルカを見送ったのか、その後の三十年を超える年月を彼がどのように過ごしたかなど。
ただ、それでもわかることがある。
楽であったはずがない。だからこそ安易に信じ続けてくれていたなど言うつもりもない。信じるだけではない感情もあったはずだ。三十年とは、簡単に信じ抜ける時間ではないのだ。迷って苦しんで、それでも信じようと自身を戒めなければ、想いは保てない。感情だけでは乗り越えられないほどの時間が経ってしまったのだ。それが、離れていた三十二年という時間の重さだ。
それでも、彼は今、ここにいる。
こうして、待ち続けてくれていた。頼りない未来の約束を、未だ守ってくれているのだ。
それが愛情であるかどうかなど、ルカにはわからない。けれど、そこにある感情がなにであってもかまわなかった。
私を突き放した癖に。待たないと言った癖に。……約束が果たされないことを、覚悟していた癖に。
そのくせ、あなたはこうして待ち続けてくれたのか。私への心を残し続けてくれたのか。あなたの気持ちを考えず身勝手に望むばかりだった私を、今もなお。
込み上げる感情は言葉にならず、ただ涙があふれた。
ゆっくりと歩み寄るが、人の気配は感じているだろうに、彼は動くことなく木を見つめている。
胸がつまるのをひとしきり堪えて、彼の隣に足を進める。
すぐ隣に並び立ち、ルカは息をゆっくりと吸った。
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