敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

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後日談

番外編3 セラピーお姉さんはカプ推し2

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 あまりにも綺麗で、私はレンが欲しくなった時期がある。恋に苦しむレンがあまりに憐れで、でもとても綺麗で、欲しくてたまらなくなっていた。こんな風に愛されたいと思ってしまったのだ。
 けれど、それが勘違いだったと気付いたのも、割とすぐのことだった。

 私は、自分がルカに愛されることを想像したとき、……全く楽しくなかったのだ。驚くほど、トキメキがなかった。なぜレンを欲しいと思ったのかと我に返ったほどだ。

 レンはかっこいい。レンは優しい。レンは金持ちで、レンは愛したら一途。完璧だ。
 レンが自分の名前を呼んで、マーシャに見せる愛情を自分に向けたら、絶対に幸せだと思うのに、そうやって私を愛するレンを想像しても全く楽しくない。というより、むしろ込み上げたのは不快感で、自分の心の動きに、驚いた。

 だって、そんなレン、見たくない。

 モヤモヤした気分の中、またその日もやってきたレンと会ってマーシャの話を聞く。
 やっぱり私はレンが好きで、心が浮き立った。特に、マーシャの話をしているときのレンが一番好きだ。
 だから、こんな風に愛されたいと思っていたはずなのに。
 添い寝をして、翌朝帰って行くレンを見送って、そこでようやく私は、バカバカしいことに気付いた。

 私は、レンがマーシャの話をしているときが、一番好きなのだ。

 マーシャは恋敵なのに? なんで? ヒトの男を取る趣味はなかったはずなのに、なぜマーシャを愛してるレンが好きなの?
 そこで、ついに気がついた。私にヒトの男を取る趣味はない。だから、私が「レンを欲しい」と思っていたことが、そもそもの勘違いだったのだ。

 マーシャの話をするレンが素敵。マーシャを一途に愛しているレンが素敵。
 私は、「マーシャを愛しているレン」が好きなのだ。

 想像してみれば、マーシャを忘れたレンなんて、いっそ憎いぐらい許せない。
 だから私は「私のことを愛しているレン」に、全く魅力を感じないのだ。

 なにそれ、笑っちゃう。
 他の女を愛している男が好きだなんて。自分の方を向かないで欲しいだなんて。奪っても魅力がこれっぽっちもないだなんて。
 おかしすぎて、一人でけらけらと笑ってしまった。
 なーんだ。そっか。そういう事か。

 いっそ楽しくなってしまう。ふふっと笑いながら、レンを思い浮かべる。
 なら、願うしかないじゃない。
 ずっと素敵なままのレンでいて。あんたの愛を大切にして。いつかマーシャを迎えに行ってあげて。どうか、いつか、二人でしあわせになって。

 私はようやくレンの何が欲しいかわかった。
 私は、レンがマーシャを愛する姿に、救われていたのね。だから、幸せなレンが欲しかったの。マーシャと幸せになっているレンが、見たかったのよ。
 私はマーシャに会いたくて苦しむレンの姿に胸を打たれたのだ。

 レンはこんなにもマーシャを愛しているのね。人はこんなにも純粋に人を愛せるのね。
 最低だったと話す過去のマーシャの愚痴にさえ、レンはそんなところを愛しているのだと伝わってくる。
 この世には、こんな愛があるのね。
 素敵な人だったのね、レンの愛したマーシャは。

 そんなレンの愛し方は、私の男という存在への価値観を、根底から覆した。
 信頼できる男なんていない。そう思っていた。でも、会えなくても十数年一途に想い続ける男がいるのだ。他に目を向けたくても出来ないぐらい、他人を愛することが出来るのだ。

 そんなのは、お金がある余裕だと、心の片隅で嗤う私もいる。でも、お金があったって、余裕があったって、裏切る人は簡単に裏切る事も知っている。

 男なんて、適当にあしらうのが正解よ。信じたらバカを見るもの。でも男なんてと全部切り捨てるのは、もっとバカね。
 私は今までの自分をそう嗤った。だってもったいないじゃない。ちゃんと見極めたら、もしかしたらいい男をつかめるかもしれないのよ。ここじゃなくても生きていけるかもしれない。レンほどいい男はいないかもしれないけど、私に合う……私が愛せる男だって、いるかもしれないじゃない。そんなの捨てるなんて、バカげてる。

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