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上司と部下の出した結末
3 やはりここが天国か。
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顔色の悪い篠塚が俺を見ている。
無言の応酬が胸を刺す。
世の中、惚れた方が負けだと言うらしい。しみじみと先人の言葉の正しさが身にしみる。
気持ちを落ち着かせるためにゆっくりと息を吐いた。
オーケイわかった。お前のために、もう一度気合いを入れようじゃないか。
「……お前が確認したいのは、オレがゲイだということか? それともお前に惚れているという話しか? それを確認して、どうする」
心身共に、全力で動揺を抑えながら告げる声は、思ったよりも淡々としていた。
よし、動揺しまくりなの、上手く隠せた!
と、いい気になっていたら、言い終えた途端、篠塚がびくりと震えた。
しまった! だからオレ、言い方!
「……それが本当なら、俺は……俺、は……」
言葉に詰まる篠塚に、あわてて訂正を入れる。動揺を隠しきれなかった自身が情けなくてため息が漏れた。
「無理に受け入れる必要はない。お前がやめるぐらいなら、オレがやめる。オレが側にいるのは気持ち悪いだろうが、引き継ぎの間は我慢してくれ。極力お前には近づかないようにしよう」
言い終えたとたん、篠塚が怒鳴った。
「やめてくださいっ」
んん? …………何を?
「それ以上、言わないで下さい、俺が悪いのに、課長が何もかも引き受けようとしないで下さい。おかしいです、課長、なんで、俺なんか……」
ああ、そうか。こいつは納得してないんだった。
苦しそうに歪んだ顔が、泣くのをこらえている子供の表情を彷彿させる。
困った。
とりあえず衝動のまま、ぽふっと頭に手を載せると、篠塚がぽかんとした表情になる。一回やったせいで篠塚の頭を撫でるという行為のハードルが下がったらしい。
そのままぐしゃぐしゃと髪を撫で回せば「え? なんですか?!」と、慌てふためきながらもなされるがままになって、戸惑ったように俺の表情を伺ってくる。
いつもの隙のない様子とは一転、なんの反発もなくオレになされるがままだ。こんな素直な篠塚も、いいもんだなぁ。
「……ククッ、篠塚、今日のお前は、甘ったれた子供みたいだな」
「……え?」
投げやりな気分も相まって、諦め半分、しみじみと心情を吐露するオレに、強ばっていた篠塚が戸惑うように視線を揺らす。
「お前はいつも、俺がちょっとした指示出すだけで、オレが思った以上の仕上がりで仕事を終わらせる。ほんとにお前は、最初からかわいげがないぐらい出来すぎだった。オレはお前に構いたいのに、構う隙すらなくてなぁ……。でも、今日のお前は構いやすいな」
「え……」
くってかかってこない篠塚は、年相応のかわいげがにじむ。それに勇気をもらって、懺悔がてら、つらつらと思っていることを言葉にしてゆく。
「オレは、本当に傷つける気はなかったんだ。だがな、三年間もイヤミ言われ続けたお前からすると、そんな言葉じゃ納められないはずだ。オレにも贖罪ぐらいさせろ」
「しょく、ざい……?」
「ああ。お前は言っていいんだ。あんなことしたくなかったと。そうオレを責めていい。……お前だって、よがる男掘るのは気持ちいいもんじゃなかっただろう? 辛かっただろう。だから、お前はオレを責めていい。お前がオレのために背負う罪はない。さっさと忘れろ」
苦笑いしながら言えば、篠塚が慌てた様子で首を横に振る。
「忘れたくありません」
「あ?」
篠塚が、戸惑いの表情から、睨むほどの強い意志を湛えた真剣な表情へと変貌する。
「嫌です。俺が酷いことをしたのは変えられない事実です。あなたの言葉がどれだけ苦しくても、やっていい事じゃなかった。オレが鬱憤を晴らす手段を間違えたのは、言い訳のしようもないことです。でも、俺に惚れているというのが本当なら、今もその気持ちがあるというのなら、俺は……あなたと、付き合いたいです」
まーじーかー!!!
やっぱり、ここは天国だろ! え? オレ、いつ死んだ?!
思いがけない言葉に目を見張ったまま、動けなくなった。
いやいやいやいや、落ち着け、篠塚反省してるだけだって。反省して、自分に惚れて自分に抱かれてあんあん言ってる男と付き合うことで、償いたいって……つまりそういうことじゃね? オーケー、オーケー。理解した。エッチは気持ちよかったし、償えるし、一石二鳥! てか!
思い至った瞬間、肩の力が抜ける。
……撃沈するわ。ちょっと悲しかったから、イヤミぐらい言わせてもらおうか。
「オレと付き合う?……そんなにオレの身体は良かったか? 確かに相性は最高だったがな」
ま、相性の良し悪しなんてわかんねぇけど。だってオレのケツ、お前の他は玩具しか知んねぇから。
溜息が出る。
「バカなことを言うな。オレと付き合って贖罪でもする気か? はっ、お前は優しいな? だがな、オレが悪かったって言ってんだから、それでいい。後悔してるって言うのなら、お互い様だとでも思って気にせずさっさと忘れろ」
贖罪エッチも悪くないけどなー。オレの性生活また潤うかもだけどなー。でも、篠塚の将来考えるなら、ちゃんとけじめ付けとかないとな。
だってオレ、ちゃんと反省してるし。だらだら続けたりしないし。……別に泣いてないし。
でもこの様子なら、二人ともやめずにこれからも一緒の職場で働けるか……? お互い大人だし、何でもなかったフリして働くことなら出来るだろう。一緒にいられるだけで、十分だし。ほんとに泣いてないし。
「違います。贖罪じゃありません。オレが、あなたと付き合いたいんです」
やだ、イケメン。
何度オレに惚れ直させる気?! その責任感あるところ、オレ好みなんだけど!
でもな。
「……篠塚。お前、オレのこと嫌っていただろうが。……罪悪感で、くだらねえ無理すんな」
怒りのレイプはお前のストレス発散兼ねてたから許容出来ても、贖罪エッチはお前が傷つくだけだから、ダメ。嫌いなヤツにそこまでする必要ないのにな。こいつは傲慢な割に、妙に優しいところあるんだよなぁ……。根っこが優しいっていうか……。
篠塚の顔が引きつった。
「違います。俺は、松永課長を嫌っていません」
「ククッ、分かりやすい嘘を言うな」
そんな事実を指摘されましたみたいな顔されて、信じられるわけないだろ。
「嘘じゃありません。……ずっと、尊敬していました。だから、認めてもらえないことが、悔しかった。……決して、嫌っていたわけではありません」
言いにくそうに言葉を選ぶ篠塚に、溜息が出る。仮にそれが事実だとしても、根本的な問題はそこじゃない。
「……ありがとうな。そう言ってくれるのはうれしい。でもな、だから付き合うって言うのは違うだろ。お前のそれは、好意じゃなくて罪悪感だろ。贖罪して、オレに尽くして、楽になりたいだけじゃないのか? ……くだらない関係の延長になるのがオチだ」
「ですから、違います」
「どこがだ」
オレがお前を好き、お前はオレに罪悪感がある、お前はオレを尊敬している、セックスもしたことがある、……だから付き合うって? ないわ。おかしいだろうが。
いや、世間ではあるのかもしれないさ。でもオレは、付き合うならいちゃいちゃしたいから恋愛抜きはヤダね。
つーんと徹底抗戦の構えを見せると、篠塚がオレの手をぎゅうっと強く握り込む。
「……尊敬しているあなたが、俺に抱かれている時、気持ちよく乱れてるのを見てかわいいと思ったら、おかしいですか。俺の名前を呼んでねだるのがかわいくて、うれしくて、幸せになってたのは、愛情じゃないんですか。だからこれからは大切にしたいと思うのが、罪悪感ですか。あなたが俺の前でだけ見せる痴態に……」
…………はあぁぁぁぁぁぁぁ?!
「まてまてまてまて!! ちょっとだまれ、やめろ……何言ってるんだバカ……っ」
「……赤くなってますね。……かわいいです」
「は?」
なに言ってんの?! ほんとになに言っちゃってんの、篠塚!! 頭、大丈夫?!
パニックに陥ったオレは、その瞬間それを上回る衝撃に硬直した。
今まで見たことのないような、無邪気な笑顔を浮かべた篠塚が、いた。
え、なに、かわいい。
「課長が俺のこと好きって、今やっと、少しだけ実感が持てました。……俺も、課長のことが好きです。俺はあなたの、恋人になりたい」
最後の言葉は、思わずたじろぐような真剣な表情で、なのに真っ直ぐにオレを射貫くように見つめるその目は縋るような不安を湛えている。
篠塚の表情が、目が、声が、全てが本気だと伝えてくる。
それを感じた瞬間、頭は真っ白になって、上がりきっていたテンションは、一気に冷めた。
オレがまず感じたのは「受け入れてはいけない」という感情だ。
どれだけ混乱していても、それだけは明確に、絶対的な感情として存在した。
「は? オレが好きって? お前が? オレのこと? ……ダメだろ、お前……ノンケが何言ってやがる……」
両思いになんか、なって良いはずがないだろう。オレは元々こういう性癖だ。けど、コイツのこの感情は、オレがねじ曲げてしまった結果だ。
何度も妄想した夢のような現実を前に、オレはひるんだ。
一瞬の間に脳裏にいくつも過ぎる可能性は、どれもが篠塚を不幸にする物ばかりだ。そして、篠塚を不幸にして、そのことで自分が傷ついてしまう未来だ。
頭をよぎる可能性は、どれもがオレを恐怖へと陥れた。
異性との恋愛であっても傷つく未来はある。けれど、世間にはまだ受け入れられているとは到底言えない性癖であれば、不幸な結末の可能性は更に高い。そしてより深い傷となるだろう。
叶うかもしれない幸運を前に、オレは怖じ気づいたのだ。
「そうですよね……あんな事したオレに、そんなこと言う権利なんてないですよね」
強い意志を湛えていた瞳が、自嘲と共に脅えるように伏せられる。
「ちがう、そういうことじゃない。バカかお前は。男同士なんて不毛だろう。女と恋愛出来るお前が真っ当な人生踏み外すなとオレは言っているんだ」
うなるように窘めると、篠塚が皮肉気に笑った。
「真っ当、ですか」
そうつぶやいてから、篠塚は笑いを深める。
そうだ、気付け、と心の中で願う。
そしてさっきバカ正直に心の内を吐露してしまった後悔がオレを苛んでいた。
こんな言い方では自分は望んでいることがバレバレすぎる。女よりオレを望んで欲しいと願っていることが透けて見える。本当にこいつのためを思うなら、何も言わず、突き放してしまうべきだったのに。
だから、オレは一拍おいてしゃべれと、あれほど……!!
後悔している間、篠塚は、ひとしきり笑った後、皮肉に笑った。
「はは……っ、それこそ、今更です。真っ当な人生なんて、十分踏み外してます。怒りで上司を会社で強姦して、動画撮って脅迫して、その後ずっと関係を強要して……まともさなんて、どこにも……」
「……あー……」
自嘲した後うなだれた篠塚を見てから天井を仰ぐ。「まともさなどどこにもない」その通り過ぎて、返す言葉がなかった。
まあオレが煽ったとはいえ、篠塚の反撃がやり過ぎてたのは、事実だよなぁ……。
うっかり納得してしまった。
無言の応酬が胸を刺す。
世の中、惚れた方が負けだと言うらしい。しみじみと先人の言葉の正しさが身にしみる。
気持ちを落ち着かせるためにゆっくりと息を吐いた。
オーケイわかった。お前のために、もう一度気合いを入れようじゃないか。
「……お前が確認したいのは、オレがゲイだということか? それともお前に惚れているという話しか? それを確認して、どうする」
心身共に、全力で動揺を抑えながら告げる声は、思ったよりも淡々としていた。
よし、動揺しまくりなの、上手く隠せた!
と、いい気になっていたら、言い終えた途端、篠塚がびくりと震えた。
しまった! だからオレ、言い方!
「……それが本当なら、俺は……俺、は……」
言葉に詰まる篠塚に、あわてて訂正を入れる。動揺を隠しきれなかった自身が情けなくてため息が漏れた。
「無理に受け入れる必要はない。お前がやめるぐらいなら、オレがやめる。オレが側にいるのは気持ち悪いだろうが、引き継ぎの間は我慢してくれ。極力お前には近づかないようにしよう」
言い終えたとたん、篠塚が怒鳴った。
「やめてくださいっ」
んん? …………何を?
「それ以上、言わないで下さい、俺が悪いのに、課長が何もかも引き受けようとしないで下さい。おかしいです、課長、なんで、俺なんか……」
ああ、そうか。こいつは納得してないんだった。
苦しそうに歪んだ顔が、泣くのをこらえている子供の表情を彷彿させる。
困った。
とりあえず衝動のまま、ぽふっと頭に手を載せると、篠塚がぽかんとした表情になる。一回やったせいで篠塚の頭を撫でるという行為のハードルが下がったらしい。
そのままぐしゃぐしゃと髪を撫で回せば「え? なんですか?!」と、慌てふためきながらもなされるがままになって、戸惑ったように俺の表情を伺ってくる。
いつもの隙のない様子とは一転、なんの反発もなくオレになされるがままだ。こんな素直な篠塚も、いいもんだなぁ。
「……ククッ、篠塚、今日のお前は、甘ったれた子供みたいだな」
「……え?」
投げやりな気分も相まって、諦め半分、しみじみと心情を吐露するオレに、強ばっていた篠塚が戸惑うように視線を揺らす。
「お前はいつも、俺がちょっとした指示出すだけで、オレが思った以上の仕上がりで仕事を終わらせる。ほんとにお前は、最初からかわいげがないぐらい出来すぎだった。オレはお前に構いたいのに、構う隙すらなくてなぁ……。でも、今日のお前は構いやすいな」
「え……」
くってかかってこない篠塚は、年相応のかわいげがにじむ。それに勇気をもらって、懺悔がてら、つらつらと思っていることを言葉にしてゆく。
「オレは、本当に傷つける気はなかったんだ。だがな、三年間もイヤミ言われ続けたお前からすると、そんな言葉じゃ納められないはずだ。オレにも贖罪ぐらいさせろ」
「しょく、ざい……?」
「ああ。お前は言っていいんだ。あんなことしたくなかったと。そうオレを責めていい。……お前だって、よがる男掘るのは気持ちいいもんじゃなかっただろう? 辛かっただろう。だから、お前はオレを責めていい。お前がオレのために背負う罪はない。さっさと忘れろ」
苦笑いしながら言えば、篠塚が慌てた様子で首を横に振る。
「忘れたくありません」
「あ?」
篠塚が、戸惑いの表情から、睨むほどの強い意志を湛えた真剣な表情へと変貌する。
「嫌です。俺が酷いことをしたのは変えられない事実です。あなたの言葉がどれだけ苦しくても、やっていい事じゃなかった。オレが鬱憤を晴らす手段を間違えたのは、言い訳のしようもないことです。でも、俺に惚れているというのが本当なら、今もその気持ちがあるというのなら、俺は……あなたと、付き合いたいです」
まーじーかー!!!
やっぱり、ここは天国だろ! え? オレ、いつ死んだ?!
思いがけない言葉に目を見張ったまま、動けなくなった。
いやいやいやいや、落ち着け、篠塚反省してるだけだって。反省して、自分に惚れて自分に抱かれてあんあん言ってる男と付き合うことで、償いたいって……つまりそういうことじゃね? オーケー、オーケー。理解した。エッチは気持ちよかったし、償えるし、一石二鳥! てか!
思い至った瞬間、肩の力が抜ける。
……撃沈するわ。ちょっと悲しかったから、イヤミぐらい言わせてもらおうか。
「オレと付き合う?……そんなにオレの身体は良かったか? 確かに相性は最高だったがな」
ま、相性の良し悪しなんてわかんねぇけど。だってオレのケツ、お前の他は玩具しか知んねぇから。
溜息が出る。
「バカなことを言うな。オレと付き合って贖罪でもする気か? はっ、お前は優しいな? だがな、オレが悪かったって言ってんだから、それでいい。後悔してるって言うのなら、お互い様だとでも思って気にせずさっさと忘れろ」
贖罪エッチも悪くないけどなー。オレの性生活また潤うかもだけどなー。でも、篠塚の将来考えるなら、ちゃんとけじめ付けとかないとな。
だってオレ、ちゃんと反省してるし。だらだら続けたりしないし。……別に泣いてないし。
でもこの様子なら、二人ともやめずにこれからも一緒の職場で働けるか……? お互い大人だし、何でもなかったフリして働くことなら出来るだろう。一緒にいられるだけで、十分だし。ほんとに泣いてないし。
「違います。贖罪じゃありません。オレが、あなたと付き合いたいんです」
やだ、イケメン。
何度オレに惚れ直させる気?! その責任感あるところ、オレ好みなんだけど!
でもな。
「……篠塚。お前、オレのこと嫌っていただろうが。……罪悪感で、くだらねえ無理すんな」
怒りのレイプはお前のストレス発散兼ねてたから許容出来ても、贖罪エッチはお前が傷つくだけだから、ダメ。嫌いなヤツにそこまでする必要ないのにな。こいつは傲慢な割に、妙に優しいところあるんだよなぁ……。根っこが優しいっていうか……。
篠塚の顔が引きつった。
「違います。俺は、松永課長を嫌っていません」
「ククッ、分かりやすい嘘を言うな」
そんな事実を指摘されましたみたいな顔されて、信じられるわけないだろ。
「嘘じゃありません。……ずっと、尊敬していました。だから、認めてもらえないことが、悔しかった。……決して、嫌っていたわけではありません」
言いにくそうに言葉を選ぶ篠塚に、溜息が出る。仮にそれが事実だとしても、根本的な問題はそこじゃない。
「……ありがとうな。そう言ってくれるのはうれしい。でもな、だから付き合うって言うのは違うだろ。お前のそれは、好意じゃなくて罪悪感だろ。贖罪して、オレに尽くして、楽になりたいだけじゃないのか? ……くだらない関係の延長になるのがオチだ」
「ですから、違います」
「どこがだ」
オレがお前を好き、お前はオレに罪悪感がある、お前はオレを尊敬している、セックスもしたことがある、……だから付き合うって? ないわ。おかしいだろうが。
いや、世間ではあるのかもしれないさ。でもオレは、付き合うならいちゃいちゃしたいから恋愛抜きはヤダね。
つーんと徹底抗戦の構えを見せると、篠塚がオレの手をぎゅうっと強く握り込む。
「……尊敬しているあなたが、俺に抱かれている時、気持ちよく乱れてるのを見てかわいいと思ったら、おかしいですか。俺の名前を呼んでねだるのがかわいくて、うれしくて、幸せになってたのは、愛情じゃないんですか。だからこれからは大切にしたいと思うのが、罪悪感ですか。あなたが俺の前でだけ見せる痴態に……」
…………はあぁぁぁぁぁぁぁ?!
「まてまてまてまて!! ちょっとだまれ、やめろ……何言ってるんだバカ……っ」
「……赤くなってますね。……かわいいです」
「は?」
なに言ってんの?! ほんとになに言っちゃってんの、篠塚!! 頭、大丈夫?!
パニックに陥ったオレは、その瞬間それを上回る衝撃に硬直した。
今まで見たことのないような、無邪気な笑顔を浮かべた篠塚が、いた。
え、なに、かわいい。
「課長が俺のこと好きって、今やっと、少しだけ実感が持てました。……俺も、課長のことが好きです。俺はあなたの、恋人になりたい」
最後の言葉は、思わずたじろぐような真剣な表情で、なのに真っ直ぐにオレを射貫くように見つめるその目は縋るような不安を湛えている。
篠塚の表情が、目が、声が、全てが本気だと伝えてくる。
それを感じた瞬間、頭は真っ白になって、上がりきっていたテンションは、一気に冷めた。
オレがまず感じたのは「受け入れてはいけない」という感情だ。
どれだけ混乱していても、それだけは明確に、絶対的な感情として存在した。
「は? オレが好きって? お前が? オレのこと? ……ダメだろ、お前……ノンケが何言ってやがる……」
両思いになんか、なって良いはずがないだろう。オレは元々こういう性癖だ。けど、コイツのこの感情は、オレがねじ曲げてしまった結果だ。
何度も妄想した夢のような現実を前に、オレはひるんだ。
一瞬の間に脳裏にいくつも過ぎる可能性は、どれもが篠塚を不幸にする物ばかりだ。そして、篠塚を不幸にして、そのことで自分が傷ついてしまう未来だ。
頭をよぎる可能性は、どれもがオレを恐怖へと陥れた。
異性との恋愛であっても傷つく未来はある。けれど、世間にはまだ受け入れられているとは到底言えない性癖であれば、不幸な結末の可能性は更に高い。そしてより深い傷となるだろう。
叶うかもしれない幸運を前に、オレは怖じ気づいたのだ。
「そうですよね……あんな事したオレに、そんなこと言う権利なんてないですよね」
強い意志を湛えていた瞳が、自嘲と共に脅えるように伏せられる。
「ちがう、そういうことじゃない。バカかお前は。男同士なんて不毛だろう。女と恋愛出来るお前が真っ当な人生踏み外すなとオレは言っているんだ」
うなるように窘めると、篠塚が皮肉気に笑った。
「真っ当、ですか」
そうつぶやいてから、篠塚は笑いを深める。
そうだ、気付け、と心の中で願う。
そしてさっきバカ正直に心の内を吐露してしまった後悔がオレを苛んでいた。
こんな言い方では自分は望んでいることがバレバレすぎる。女よりオレを望んで欲しいと願っていることが透けて見える。本当にこいつのためを思うなら、何も言わず、突き放してしまうべきだったのに。
だから、オレは一拍おいてしゃべれと、あれほど……!!
後悔している間、篠塚は、ひとしきり笑った後、皮肉に笑った。
「はは……っ、それこそ、今更です。真っ当な人生なんて、十分踏み外してます。怒りで上司を会社で強姦して、動画撮って脅迫して、その後ずっと関係を強要して……まともさなんて、どこにも……」
「……あー……」
自嘲した後うなだれた篠塚を見てから天井を仰ぐ。「まともさなどどこにもない」その通り過ぎて、返す言葉がなかった。
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