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【番外編3】出会いから二十年後ぐらいの二人(松永視点)
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しおりを挟むその後、しばらく攻防を続けた末、負けた。
だってオレ、誠悟と一緒にいたかったんだもーん……。
そもそも顔がずるい。
篠塚父、何考えているのか分からなかったけど、どうやら本気で、オレと誠悟を引き離す気なさそうだという気がしてきた。
篠塚父の術中に嵌まった気がしてならない。が、意地ではねつける意味が、今ひとつ、なかったのだ。
となると、じゃあもう篠塚父の思惑に乗っちゃおうかなって……なるよね?! 仕方ないよね?!
だって、篠塚父の目から見て、オレが誠悟の邪魔になってたら、きっと教えてもらえるって事だし。
それは、大きな利点に思えた。
自分では、どうしても感情に流されて、何が正しいか判断するのが難しくなる。オレは誠悟と一緒にいたい。いたらダメだと分かっているのに、誠悟だっていつかは離れていくだろうに、オレは現状にしがみついている。今だって、誠悟と一緒にいたいから、篠塚父の言葉に流されている。
誠悟にとってマイナスにしかならなくなっても、誠悟が許してくれる限り、現状にしがみつくだろう自分が怖かった。
誠悟のマイナスにならないなら、それでいいか。
そう思ってしまったのだ。それさえ守れてたら、後は自分のことだし、何とでもなることだ。
なんかあったら別れて傷ついて、たったそれだけのことだ。その後オレがちょっとめんどくさい思いをするだけだし。大したことないし。大丈夫だし。
最終的にどうなるかは、とりあえず流れに任せてしまえば良い。どう心配しようが、なるようにしかならない。だからとりあえず当面の問題だけ気にすることにする。篠塚父と一緒に働くとか、ちょっと怖いなとか。あとは心労多そうだし、背筋伸びる感じだけど、その緊張感は、悪くないなとか、ちょっと思うし。うん、いける、いける。
未来の誠悟と働く感じを味わえるかもだし……うん、悪くない。ちょっと未来の予習的な感じで興奮する。
そして、大体のことが決まった後、誠悟に篠塚父とのことを話した。それで引き抜きされることを伝えたら、なんで黙っていたのかと怒られた。
ひどい怒りように、ちょっとオレも戸惑った。別に、別れるわけでもないのに、どうしてそこまで怒るのかよく分からなかったが、震えながら抱きしめられて「ちゃんと相談して下さい」と震える声で訴えられ、気付いた。
誠悟は、逃げようとしていたオレに気付いたのだ。オレが誠悟から逃げるかどうかの瀬戸際にあったことを、見抜いたのだ。
「悪かった」
そう、謝ることしか出来なかった。
けれど、もし誠悟にとっての最善を考えるのに必要なら、何度でもオレは誠悟を欺くだろう。たとえそれが誠悟を傷つけたとしても。
人は、忘れる生き物だ。そして案外簡単に適応していく。人間関係なんて最たるものだ。簡単に入れ替わっていくし、惚れた腫れたの出会いと別れなんて、よくあることだ。誠悟の人生を守れるのなら、自分勝手と言われようが、誠悟を傷つけようが、そのスタンスを変えるつもりはない。
だからこそ、「すまない」ともう一度呟いた。オレの感情をこれからも優先することに、オレの主観だけで物事を断じて、お前の気持ちを蔑ろにし続けるだろう事に。
まあ、でも、一応俺も誠悟と暮らすことは受け入れているし、よほどのことがない限り、別れるつもりはないのだが。もっとも誠悟がオレを捨てるとか言うのなら、身を引くのはやぶさかではない。誠悟の幸せが、オレにとっては最優先だから。
誠悟に何度も「いつでも辞めて良いですから」と念を押されながら篠塚父の会社に入社して数年、驚くほど何もなかった。
え、こんなに順調で良いの? っていうぐらい、篠塚父は、オレに何かをすることはなかった。
ちょっと篠塚父の視線が気になって緊張するぐらいで。
最初の頃の、笑顔でオレを監視する目に、認められるとまではいかなくても、排除だけはされたくなくて頑張った。
そのうち、ちょいちょい無茶振りされるようになって、意地でもやりきって良い結果を出して見せてやった。
誠悟そっくりのイケオジの挑戦に、ちょっと、オレのなけなしの闘争心がくすぐられた。
試されてる感に、つい反応しちゃうのは仕方ない。悪そうな顔が誠悟にそっくりすぎた。……ちょっと入社当時の誠悟を思い出して興奮した。
ちょっとだし。別にやりがいとか感じてないし。誠悟のために未来の誠悟相手にシミュレーションしてるだけだし。
誠悟が、ちょっとうろんな目で見てくるとか、気のせいだし。
ほんとに、ちょっと、年上バージョンの誠悟と社長と秘書ごっこしてるみたいで楽しいとか、ちょっと思っただけだから……!!
そんな毎日の刺激が、誠悟との日常に花を添えて、なんか色々とバラ色で幸せだった。
このまま、そのうち誠悟が社長になって、一緒に仕事出来たら良いな……とかのほほんとしてたら、篠塚父から養子にならないかと話を持ちかけられた。
だから、あなたはどれだけ予想外な発想をしてくるのかと。
誠悟を養子にするのは絶対的に受け入れる気はなかったわけだが、篠塚父の提案は、ぐらぐらと心が揺さぶられた。
オレが社長の息子……。正直、篠塚父はちょっと理想の父親像だった。奥さんである篠塚母をこよなく愛し、大切にしてる姿は微笑ましかったし、憧れた。上司としては、少々背筋伸ばして対応してしまう部分があったが、情の厚い人だと言うことは感じられた。
この会社に引き抜いたのも、多少の思惑はあれど、オレを気に入ったといった言葉は、決して嘘ではなかったのだろう。信頼出来るし、尊敬すらしていた。だから、ちょっとときめいた。
逃げられると思うなよ的な、首輪つけられる的な何かを感じて、ちょっと顔が引きつったけど。
この人なら、オレの実父が面倒を起こしても、上手くあしらうだろうという思いもあった。実父もそれなりに地位のある立場にいるだろうが、そもそも、人間のできが違う。経験も豊富だ。社長なら防波堤に出来ると、思った。
誠悟を巻き込むのは、どうしても受け入れられない。少しでも面倒だと思われるのがいやだ。けれど、面倒でも、誠悟はオレのために動くだろう。それが想像できるから、どうしても嫌だった。
だが、社長になら少々どう思われたところで問題はない。オレと誠悟の関係が壊れなければ、別に距離をとってもかまわないのだから。
何もかもが都合が良すぎる提案だった。松永の籍を抜けられて、誠悟に迷惑をかけず、法的に認められた誠悟との繋がりを持てるのだ。
誠悟も、全力でそれを勧めてきた。
「家族になれるのなら、どんな形でも良いから」
その言葉が、泣きそうなほど嬉しかった。オレを心底心配した故の言葉だった。
普段なら特に必要のない法的に認められる書類上のつながりは、いざというときにこそ効力を発揮する。分かってはいたが、あまりにも誠悟に負わせるものが大きすぎる。こんなじじいに縛り付けるなんてとんでもなかったが、篠塚父となら直接的に誠悟を縛ることはない。
ダメだと思う理性が、ぐらぐらと揺さぶられた。
誠悟を義理の息子として養子縁組して、息子にあんあん言わせられるシチュエーションは、妄想だけでご飯がおかわり出来たものだが、篠塚父の息子になるとすれば、オレと誠悟が、兄弟、ということだ。
……それはそれで、良い。
誠悟と家族。オレが、誠悟の兄……兄弟でエッチとか、背徳感で大興奮間違いなしだ。誠悟に「お兄ちゃん」とか言われたら、悶え死んじゃうだろ……。何それ、尊い。
はじめから負け戦だった。
誠悟に「兄」と言われる自分を想像する度、弟にズコバコやられてるお兄ちゃんです……って思うだけで興奮する。最高かよ。
欲望に、理性がガリガリと削られていく。誠悟に兄って紹介されたい。
背徳感で、ケツがキュンとうずく。いやダメだ、ダメだけど、篠塚睦月とか名乗りたい。やだ、ときめく。
そしてイニシャルはSMだ。なんかエロい。
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