S系攻め様は不憫属性

水瀬かずか

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【番外編】雑多な諸々・掌編

スクール水着の行く末

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「……誠悟」
 突然低い声で呼ばれて、篠塚は「なんですか……」と振り返って、絶句した。
 松永の手の中にある物体を見て血の気が引く。成人した男の家にはあり得ない物体……紺色の、スクール水着だ。
 ちなみに篠塚の私物である。
 篠塚の脳裏をいくつもの言い訳が次々と横切っていく。

 友人の結婚式の二次会で引き当ててしまっただとか、ゴミの日に出そうと思ってそのまま押し入れに突っ込んで忘れていただけだとか、別になにか他意があったわけじゃないだとか、俺の趣味じゃないだとか。
 次から次へと言い訳があふれるが、あふれすぎて言葉にならない。

 眉間に皺を寄せた松永の顔に、ダラダラと冷や汗が出る。松永が何を考えているのか全く分からない。
 篠塚は必死で混乱する中、適切・・な言葉を選び出す。

「あ、の……着てみませんか……?」

 一瞬、松永がスクール水着を着て恥じらう姿が篠塚の脳裏を横切ったのが敗因であった。
 一瞬で血の気が引いた。さすがに怒られると身構えた。
「……残念だが、サイズが合わない」
 何を考えているのか、想像だに付かない怒りに満ちた表情で、松永がうなるように篠塚をにらみつける。
「そ、です、よ、ね……」
 は、はははは……。
 何を言っているのか分からない自分に、篠塚は焦る気持ちのまま、やはり訳の分からない返事を返して笑ってごまかした。

 一方、松永は、心穏やかではない。うっかり蹴飛ばした袋の中から転がり出たスクール水着。尋常ではない事態である。
 これは、誰に着せるつもりだったんだ。なぜこんな物が。……誠悟の趣味か? ……さすがにこれはダメだろう。なぜならオレには似合わない。……ごめんな、スク水が似合わない体型で……。
 これが篠塚の性癖だというのなら付き合うのはやぶさかではないが、いかんせん女性的な物は似合う顔でもなければ体型でもないことを、松永は自覚している。似合わない物を好んで着たいとも思わない。
 もし誠悟が望んでいるというのなら……。
 そう考えるほどに、期待に応えられない自分が恨めしい。
 いやだがしかし。本当に篠塚は松永に着せるためにこれを買ったのか、そこからして疑問が残る。
 まさか……浮気?! しかもスク水が似合うような相手と?!
 松永が正座して広げるスク水の前で同じく正座して引きつった笑みのまま硬直する篠塚。
 その一角だけ異様な雰囲気が漂っていた。
 まさかの破局の危機である。

 ついに別れるときが来たか。しかしスク水着るような年齢の子と、まさか付き合っているのか……いや悪くはない、別に悪くはないんだが……犯罪臭?

 どんどん考え込んで顔を険しくしていく松永に、いたたまれなくなった篠塚が叫んだ。
「結婚式の二次会のクジで当たって……!」
「……いつの間に結婚したんだ?」

 まさかの不倫?! え? 誠悟既婚者? まって、毎日うちに帰ってきてるよな? え?
 篠塚も性癖を疑われかねない状況にパニックを起こしていたが、松永もまた混乱していた。
「あ、ほら、三日前、大学の友人の結婚式に……」
「三日前……大学の……ああ」
 ようやく意思疎通が成り立つ。どうやら浮気ではなかったらしい。松永は、ほっと肩の力が抜けるのを感じ、自分の顔がこわばっていたことにようやく気付く。

「もらったんで、持って帰ってきたんですが、それがゴミ箱に入っているのが見つかるのも嫌で、隠してて、そのまま忘れてました……ホントです」
 最後の一言を加えたが為に、逆にうさんくさくなっていることに篠塚は気付かない。

「いや、人の趣味にとやかく言うつもりはない」
 だからオレ、言い方……!
 松永はフォローのために口を開いて、むしろ傷口に塩を塗ったことに気付いたがもう遅い。
「いえ、趣味とかではなく、ホントに……!!」
 悲鳴を上げるように声を上げた篠塚を見て、松永は慌てて更にフォローを入れる。
「分かっている、二次会で引き当てたんだろ。くじ運が良いな」
「良くないですって……!!」

 言葉を重ねる度に、篠塚を抉っていくその状態に、松永は『あ、これ、知ってる』と、懐かしい感覚に陥る。
 最近ではめっきりなくなったが、しゃべればしゃべるほど取り返しが付かなくなっていくヤツだ。
 収拾が付かなくなっていることに気付き、更に焦った松永は、笑ってジョークにして終わらそうと、必死に頭を働かせた。

「良いじゃないか、スクール水着。いつか可愛い子に着せるために、とっておけば良い」

 他意のない顔で笑う松永を見て、固まったのは篠塚である。いつものことだが、無自覚に抉ってくる恋人に泣きたくなる。相変わらずそのうち別れる気満々の台詞を、堂々と言ってのけて、疑問にすら思っていない。
 そっちがその気なら。
 篠塚は、引きつりそうになる顔を、にっこりと笑顔でかくし、スクール水着をひったくった。
「そうですね、いつか着てもらうために、大切にとっておきます」

 絶対、そのうちあなたに着せてやる。そんな篠塚の決意を知らぬまま、何やら迫力のあるその笑顔を前に、松永はまたなんか変なことを言ってしまったのだろうかと、困惑しながら、頷いた。

 それで、その時、スクール水着の話は終わったはずだった。



 まさか、誰が思うというのだろう、一年前のスクール水着を取り出して「着て下さい」と恋人に言われるなどと。

 松永は全身をこわばらせて、コスプレプレイをねだってくる恋人をにんまりと見つめた。
「睦月さんが言ったんですよ、いつか可愛い子に着せるために、とっておけと。なので、オレが最高に可愛いと思う人に着てもらおうかと」
 な ん の は な し だ !
 松永はパニックに陥った。
 厳ついおっさんのスク水とか、誰得?! やめて?! お前頭おかしくない?! 絶対、似合わないよね?! 可愛くないよね?! そんなん着たら、オレのすね毛丸見えじゃん?! ていうか、そんなハイレグ、もっこりするじゃん?! いや、毛がはみ出るって!! さすがにお前でもそれは萎えるって! 面白半分でやるには殺傷力高すぎるって! やめとけって!! オレがかわいそうだからやめたげて!!
 松永の顔から表情が消えた。

 松永は着ること自体には特に忌避感はない。一人で着る分には問題ない。虚しさには目をつぶろう。似合うならむしろ着て、篠塚を誘惑したいとすら思っている。だが大前提として似合わない、そこが問題だ。これを着て滑稽な姿と思われるのも、見られて笑われるのも、全力でお断りしたい。
 誠悟に引かれたら、オレ、泣いちゃう…。
「……似合わないから、断る」
「似合います!!」
「んなわけねぇだろ」
「誰が似合わないと言っても、俺は絶対に好きです」

 いや、そういう問題じゃない……と言いかけて、いや、そういう問題かもしれないと、うっかり篠塚の真顔を前にして、その気になる。
「……お前、そういう趣味だったか?」
「この度そういう趣味になりました。お願いします」
 しれっと言い放つ篠塚に、松永は、敗北を予感した。
 基本的に嫌ではないのである。好きでもないが、篠塚が喜ぶのなら喜んで! が基本姿勢の松永が、ねだられて勝てるわけがなかった。


「……っ、これ絶対っ、おかしいよな?!」
 着た。着てしまった。
 明らかにわかる。異常だ。松永は羞恥心で死にそうになっていた。そもそもなぜこれを着て大丈夫だと勘違いした。
 眉間に皺を寄せて、ギリギリと歯を食いしばりながら松永が叫ぶ。
「いえ、かわいいです」
 篠塚が、真顔で答えた。
 んなわけねぇわ!!

「もういいだろ、脱ぐぞ」
 震えながら、怒りもあらわな表情の松永が、うめくように呟き脱ごうとした。
「ダメです。可愛いから、もっと見たいです」
 篠塚が歩み寄ってきて、松永を背中から抱きしめる。

 篠塚は唇を松永の耳に触れさせ、その熱さに彼の羞恥心を感じ取り愛しさがこみ上げる。
「可愛いです。睦月さん、可愛い。好きです」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、松永は『あ、これ、また流されるヤツだ』と、いつかのネコ耳プレイを思い出す。
 後悔すると分かっていながらも、あの羞恥心満載のプレイに心がときめく。

 後悔とは、後で悔いると書く。

 良いだろう、後で悔いてやろうじゃないか。

 恥ずかしい中、篠塚に、かわいいかわいいと囁かれながら致すあの快感の前に、先の後悔など、微々たる問題である。
 お前が良いというのなら、オレにいやはない。
「……いい加減にしろ」
 松永は、期待に胸を高鳴らせながら『いやよいやよも好きのうちエッチ』を致すために、拒絶の言葉を吐いた。



 その後、篠塚君は、課長の期待を裏切ることなく、水着の生地を堪能しながら、課長の羞恥心をおかずに大興奮して、最後まで致しました。


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