上 下
4 / 5

第四話

しおりを挟む
「あきらめたらそこで試合終了。それがバタフライエフェクト。
未来は変えられるものさ。現時点で無理でも状況の見極めだよ」

もちろん難しく考える暇もない。その言葉は単なるおもらしだ。
人間としても未熟。いまさらだけど自意識まで変えられたんだ。

バスケ漫画の監督が発したセリフ。それと科学空想理論になる。
精神的には何万年も体感した。忘れた回数のやり直しで学んだ。

『ブラジルの蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻を引き起こすか?』
それも真実なんだろう。体の結びつきがなくても魂は共鳴する。

傍にセーラー服じゃない少女。一見して派手なギャルに見えた。
悪の組織と戦うことはない。もちろん魔法を使えるはずもない。


それでもおそらくは魔法使いだ。凍てつく心を瞬時に溶かした。


「家族以外に伝えたこともない夢がある。今年は全滅したんだ。
それでもね。国公立の看護学科。合格して看護師になるんだよ」

傍で聴こえた声は長い言葉だ。自らに対しての宣誓なんだろう。
夢は見るものじゃなくてかなえるもの。そう伝える歌手もいた。

「へぇ。それは悪くない未来かもしれないね。僕も医者になれ。
そう義務づけられた一族さ。反発した自分がバカだったかなぁ」

再び本気のおもらしだ。彼女が看護師になるのは未来予想図だ。
この国で医者にならない。なら両立できる方法を考えればいい。

知識と技術なら充分すぎる。さまざまに体感した経験も誇りだ。
方向性は悪くない。外に目を向ければかんたんに答えが解ける。


「なんの約束もできないよ……ごめんね。だけど10年後お互い
独身なら結婚しよう」言葉は願い。ある種の宣誓かもしれない。

「それも悪くないね」すぐに応じられたよ。短い言葉は冗談か。


「……あなたに聴こえますか……聴こえますか優子あなたです。
10年前のあなたです……いま心に直接……語りかけています」

だがしかしここから驚かされたんだ。これはスキル【言霊】だ。


「ちゃんと聴こえていますか。優子……自殺は絶対にダメです。
……やめてください……でないと……あの。約束を守れません」

おそらく無意識の産物。未来の自分に対する宣誓であり言霊だ。
この状況は喜んでいいだろう。『リアル魔法少女』これも運命。


「なるほどなるほど言霊……そうだね。封印するしかないよね」
おおきな黒瞳に視線をあわせた。【操作】この記憶は封印する。

初めてかもしれない。自らの意思で未来を変えたくなったんだ。
なぜ彼女がスキルを使えるのかわからない。調査の必要がある。

己の医者になる血脈と同類だろう。古来から地球にいた人外だ。
この邂逅は宿命。言葉どおり幾千年も前からあなたを愛してる。

どこかで存在を意識したこともない。探したことのない同類だ。


リセットして戻る幼少期。新たな未来のために真剣さが変わる。
全能開示からギフテッド認定。そのあと渡米してからも全力だ。

捨てたものはある。新たな環境で得たものが知識と権力に金銭。
15で不良と呼ばれた……わけじゃない。無事に学部の卒業だ。

18で取得した博士号。永住権を入手する。市民権が得られた。
ここで意識する新たな行動。日本人としての結果と人脈づくり。

臨床心理士になるために赤門をたたく。大学院も無難卒業した。
ここから未来をつなげる行動。拠点を関西に移して暗躍になる。

結果として彼女との再会は控えた。情報を得ながらも放置する。
ベストのタイミングで再会。奇しくもダンジョン誕生の直後だ。


「なにかあれば相談してください」真剣な表情で名刺を手渡す。
失敗してもやり直せるリセット。未来改変から構築できるんだ。

失敗の原因と理由もさまざま。不確定要素や不慮の事故もある。
彼女に害を及ばさない。その定義で悪因ごとていねいに除いた。

くり返しがやがて実を結ぶ。確信できたのは彼女からの着信だ。
邪魔されることもなく鳴りつづけた。しばらく放置しての受話。


「ギリギリだったよ。余裕はある……バタフライエフェクトだ。
えっと優子さんですね。尾田ですが記憶とリンクしましたか?」

返答されるまでかなり間が空いた。なにか齟齬が発生したかな。
しおりを挟む

処理中です...