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第一話「愉快犯の導きから運命は交錯する」

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「ねぇねぇシー君さぁ。あたしなんにも荷物とかないけど?」
これから避暑地のお嬢さまみたいね。淡い白一色のドレスだ。

太ももまで白いタイツで靴下から足先が黒いウイングチップ。
これでバトルガールらしい。格ゲーで闘うキャラに見えない。

真っ赤な日傘は有刺鉄線なんだ。これで闘えるのもおかしい。


「…………かわいいは正義だ。あーちゃんはオールオッケー」
ほとんど言葉にしない無表情。それが口にすると褒め一色だ。

実のところ血のつながった双子の弟は謎。かなりおかしいの。
なんだろ。変態とか恋愛の意味じゃない。日本語は難しいな。

ちっちゃいころ測定した知能指数180。飛びぬけた天才児。
ひょろひょろとまっすぐに伸びたもやし。ガリガリの痩身だ。

対人戦の武器に変化する長髪は三つ編み。白皙のイケメンだ。
白いギターを背負ってもお似あいなんだ。全身真っ黒だけど。

上は黒カッターに極細ブラックジーンズ。黒コートを羽織る。
昭和時代のライダーかレンジャーみたい。変身するヒーロー。


ギターを持つ渡り鳥の俳優かもしんない。無自覚なんだけど。
女神扱いするくせに無意識だから怖いよ。性格面は魔王さま。

シー君の話じゃ闇ネット。裏社会で有名な自称魔法使いさん。
若年層を煽り扇動する男。世界の敵を追い求め闘う偽悪者だ。


シー君も珍しく嬉しそうだ。自称魔法使いさんの紹介らしい。
地下鉄なら二駅も先の公園。現実世界に誕生したダンジョン。

モンスターが現れる異世界。世界の理と常識まで通用しない。

徒歩なら半時間ぐらいかな。市内西区の靭公園は政府直轄地。
陸上自衛隊の基地もあるよ。裏の情報屋は青田タカシさんだ。

彼らが先導するダンジョン。現実世界と乖離した異世界空間。


『直接会えば理解できるよ。伝えておく。行ってみればいい』
そんな言葉に扇動されたの。おかしな連中だからとシー君だ。

微かに表情まで柔らいだよ。珍しくつられたのかもしんない。
まだ朝早いから並んで歩く。道頓堀川通過で御堂筋を北上だ。

オフィス街の西側は下町だ。三角公園とアメリカ村が繁華街。
心斎橋駅のパルコ前を通る。東側が百貨店でその先に商店街。

てくてく歩くと南御堂だよ。頭上高速道路が走る中央大通り。
前は繊維問屋で信号待ちだ。オフィス街から北御堂お寺さん。

信号を渡ってから左折する。女子校をすぎると目的地一歩前。
四ツ橋筋まで近づくと壁だ。物々しいぐらいの自衛隊員だね。


「ここからは関係者のみ。どのような用件でご来場ですか?」
小銃を掲げる兵士は数人。落ちついた声の中年男に問われた。

「自称魔法使いさんの紹介。青田タカシさんにお会いしたい」
抑揚のない小声で伝えたよ。もちろんシー君は上から目線だ。

悩む表情を浮かべた自衛官。パンと手を打ち小声で無線連絡。
「…………」ぼそぼそ話す。しばらくしてから納得した表情。

「確認とれたので案内します」ていねいに会釈する自衛官だ。
なんにも理解できてないよ。シー君に促されて背後に続いた。


敬礼されながら正門を潜る。すこしだけ先に見える広い公園。
手前にある八階建ての茶色いビル。一階正面がカフェだった。

数段を上るとビルの正面だ。左がエレベータで右に自動ドア。
自衛官は手のひらかざしで消えた。あたしたちは扉をぬける。


「あら。いらっしゃいませ」カラン。ベル音につづいた美声。

ビルの一階すべてがカフェらしい。店内はそれなりの広さだ。
左の奥まで木製のテーブル椅子が並ぶ。右はカウンターバー。

カウンターからあわてる姿。スレンダーの美女が現れて驚き。
もしかしたらだけど開店準備かもしんない。まだ時刻は早い。

「ひょっとして開店前の準備でしたか? 申し訳ありません」
きれいな腰折りでシー君が謝罪する。続けてあたしも会釈だ。


「いつもは開店する時刻だからいいのよ。店員が遅れてるの」
「…………」優しく笑う美人さん。慈愛も感じる聖女さまだ。

「門衛。自衛官の連絡で……青田タカシ。彼に会いたいの?」

「はい。以前お手伝いした自称魔法使いさん。その紹介です」
悩める美女が問う。シー君はいつもどおり短く応じるだけだ。


「ふーん。自称魔法使い……アイツか。一体なにたくらんだ」
なにがフラグだったのか。ピキリと音がして美女が引きつる。

「…………」シー君は理解できない。あたしもさっぱりだよ。
「あたしたちは大阪ついてすぐ。シー君のツテ頼りなんです」

「へぇカップルかもわかんない。ダンジョンに興味あるの?」
「カップルじゃない双子です。成人して施設を追いだされた」

「双子なの? 似てないノッポくんにチビッ子ちゃんだよね」
「うん。あたし姉って伝えたらぜってぇ笑う。ネタにされる」


「それは答えようないけどアイツの目的。それは読めたかも。
『変と変をくっつけてもっと変にしましょ』大昔のアニソン」

おかしな状況だけど。ひっかき回して楽しむ愉快犯がいる……
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