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第五話「分類不能な集まりと未来の境界線(その3)」

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「この物語本編で無口な影の主人公」南国シラハの視点です。
※内心の声として「犯罪行為」語ります。あくまで小説です。


「オレさまは天才だぁ!」「兄より優れた弟などいないっ!」
悲痛な叫び声。はるか昔の愚か者キャラが吐いた名セリフだ。

優しさで退く長男。後継になれず反旗を翻した覇王の次男だ。
優秀さとバランス。慈愛と正義に満ちた主人公は四男だった。

当て馬に設置された。自己愛だけのクズで設定された三男だ。
序盤のザコ敵キャラ。嫌われ者なら死んでも誰も惜しまない。

物語の必要悪だろう。みんな違ってみんないいわけでもない。
個性を発揮しないと際立たない。中途半端に位置づけされる。

人生の主人公は姉だ。自分は陰ひなたと動いてアカネを守る。


「なるほど。他人と異なるオリジナリティ。それが足りない。
あーちゃんの陰に埋もれる。この世界で埋没する予定だった」
参謀型だから表にでない。それを公言するほどバカでもない。

幼少時代からどこかに奇妙な自覚があった。客観的な自分だ。
第三者的立ち場から俯瞰する意識だろうか。おかしな感覚だ。

現実として肉体をもちながら異和感がある。死の畏怖もない。


おバカな母親は最初に見限った。より優先すべき女神がいる。
血脈的には双子になるだろう。生まれた瞬間から魂の片割れ。

本能のまま行動するおバカだ。それでも許される美貌がある。
死ぬまで守りぬくと心に誓う。いずれは世界を変える存在だ。


そのためにも自分は強くなる。女神のために存在する塵芥だ。
彼女を飢えさせず幸せにする。魂の片方として女神を崇める。

自分は生き残ればそれでいい。女神の守護者で許される立場。
極力目立たないように生きる。それを終えるきっかけだった。

バカな母が女神を売ったんだ。闇で暮らすヤクザの類だろう。
女神をおとりに誘う地下の闇。証拠を残さず生き埋めにした。


罪悪の感情は欠片もなかった。騒々しい周囲もやがて沈静化。
それからすぐ役場に相談した。戸籍を得て養護施設の入所だ。

バカを前面にして小銭を稼ぐ。それなりの資産は隠し貯金だ。
いずれは女神のために必要だ。いよいよ18歳も間近に迫る。

アバウトな未来予想図を描く。女神が詳細をしる必要はない。
コスプレ衣装を撮影会で得た。一瞬の邂逅は著名デザイナー。


興味あるがあえてのスルーだ。そのまま当面の目的地ミナミ。
深夜の駅ビルを背に踊る女神。ダンス教室のオヤジが釣れた。

長居できる環境でもなかった。それなりの知己に誘導された。
信頼できる関係ともいえない。普段から愉快犯の言動だった。

それでも新しい道が生まれる。迷わず行けと心に告げられた。
運命に誘われたかもしれない。鍛えた体で高い知性に甘い顔。


「一年後。三年後。十年後のイメージだ。仕事はなんだね?」
開口一番の言葉が衝撃すぎた。唐突すぎて頭を抱えてしまう。


「未来の自分か。なにを仕事にして稼げるんだろう…………」
つぶやき声を自然にこぼした。女神のために存在する自分だ。

「シー君はあーちゃんの隣だからね。傍にいるだけでいいの」
唐突に立ち上がると巨人を威嚇する。もちろんあぁ女神さま。

「んー嫌味で伝えたわけじゃない。聴いてるんじゃないのか。
ギフテッド認定されてから渡米した。精神医学を極めたんだ。
現時点でシラハ君の目標。それが明確なら協力したいだけさ」

顔を上げてから左右に首を振るスーツの男性。巨人が伝える。
「好きに生きるあーちゃんを隣で補佐する。他に目的はない」


「あたし? お金なんてどーでもいい。歌って踊りたいんだ。
お仕事かわかんないけど。アイドルってヤツやってみたい!」
立ち上がったままで両腕を力強く振り下ろす。女神の叫びだ。

「歌って踊れる美少女か。背後のギターはノッポの美青年ね。
なるほどそれはおもしろい。未来の方向性として悪くもない」

「令和の時代にソロメジャーか。厳しいんじゃねぇのかなぁ」
顎を抑え首をかしげるスーツ男にラフなイケメンがツッコむ。

「ねぇねぇあーしとココちゃん。歌えないけど踊れちゃうよ」
場外から新たなツッコミだ。ピンク髪が際立つ美少女だった。

その傍に着座するウサギ耳。獣人少女が驚愕の表情に変わる。
「ひらめきだけで生きるおバカなエー。巻きこまれるの嫌だ」

カウンター席に座る片義足。青年にすがりつくウサ耳少女だ。
双眸を点にしながらも無言。よしよしと白耳をなでる青年だ。

女神のためにアイドルグループを形成するのか。おもしろい。
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