5 / 5
4
しおりを挟む
「セイラ様にご挨拶申し上げます。メランと申します」
メランは長く王宮に仕える執事の一人で、聖良の護衛兼教育係として就いてもらうことになったと話す。
「突然いろいろとお話してしまい、もうしわけありませんでした、セイラ様。今日のところはひとまず、ゆっくりとお休みください」
パルミエ王が頭を下げると、メランが聖良を促した。
聖良は涙が止まらないままで、周りの人たちに頭を下げて出て行く。
「無理に泣き止もうとなさらなくて大丈夫ですよ」
優しい声色で話しかけられて、聖良はさらに泣きそうになった。
(こんなに泣いたのは久しぶりだな……)
聖良はそう思いながら鼻を啜った。
「セイラ様、こちらお使いください」
メランからそっとハンカチが差し出される。
「あっ、あわ…っ」
聖良は自分のポケットにも入っているはずだとパタパタ探るが、何もなかった。
「お借りしまふ…」
聖良は涙を拭いて鼻を抑える。
「これ、あの……、かならず弁償しますので…」
「構いませんよ。支給品ですので、お気になさらず」
そうしてしばらく歩くと、豪華な扉の前で立ち止まる。
「こちらがセイラ様のお部屋でございます」
メランが扉を開くと、入口の壁あたりに手を翳す様子が見える。すると、部屋中の明かりが灯った。
「これ…私の部屋…?」
驚いて涙が止まった。
天蓋付きの大きなベッド。ベッドサイドには水入れが置いてある。クローゼットにドレッサー。部屋の中央には寝られるくらい広いソファーとテーブルが置かれていて、そこには果物がたくさん積んである。
「ゲストルームを改装したお部屋ですので、お手洗いと浴場も扉でつながってございます」
聖良は思わずぽかんとメランを見上げた。
「そうなんですか。……なんか……すごい」
「ええ。聖女様の為に整えられたのでございます」
「……聖女様って、こんな好待遇なんだ……」
聖良がそう呟くとメランが少し困ったような表情をみせながら、クローゼットを開けた。
「寝間着はご用意がございます。お着替えのお手伝いは……」
「大丈夫です、一人で着られます、多分!」
「それではお召しになったらお声かけください。サイズの調整をいたしますので」
「サイズの調整?」
「ええ。お着替え頂かないと、出来ないのですが」
「あ、ええと……、私のいた世界では、着替えをするときは基本的には一人だから……、見られると……ちょっと恥ずかしいですね……」
と言いつつ、聖良はそそくさとベッドの陰に隠れながら着替えた。
「肌触りが良い……」
聖良が思わずつぶやく。シルクの様な生地は少しヒンヤリしていて、肌にしっとりとなじむようだった。
「着替えました。ちょっと大きいかな…」
そういうと、メランが聖良の方に近づいてきて、
「失礼いたします。それでは、《調整(フィット)》」
メランが言葉を発すると、服が発光して、聖良の体に合わせて少し小さくなった。
「わぁ……、これって魔法?」
「はい。幼い頃から、どこかのお屋敷に仕えることになっている者は生活魔法というものを、ある程度叩き込まれることになっているのです」
「そうなんですか? 魔法でお洋服作ったり、お掃除したり、お料理したりとか…?」
「魔法で服を作ったり、料理をしたりは出来ません。掃除はまあ…、ある意味で綺麗にするという事はできますが…」
「なるほど……、そう都合よくは行かないって事か」
メランは微笑んで頷いた。
「お食事は何か、お召し上がりになりますか?」
聖良は首を振った。
「おなかはすいてるんだけど…、なんだか食欲は無くて…」
「それでは、なにか果物を剥いておきましょうか?」
「いいえ。食べられなかったらもったいないし、…自分でできるので、もしおなかがすいて耐えられなかったら、自分で食べます」
「左様でございますか。それでは……お休みになられますか?」
「はい。……なんだか疲れてしまったので、もう休みます」
メランはペコリと頭を下げると、
「ベッドのところに明かりを消すスイッチがあります。手を翳して頂ければ消えますので、セイラ様のお好きな時間に明かりを消してお休みください」
「ありがとう、メランさん」
「お召し物は洗濯をさせていただきますので、お預かりいたしますね」
メランはまた頭を下げて、部屋を出た。
広いベッドに大の字に転がる。深呼吸をすると、また胸の中がもやもやと悲しい気持ちになってきた。
「なんでだろう。聖女ってなんなんだろう。どうして私はこんなに、嫌だと思うんだろう…」
目の奥がツンとした。また泣きそうだった。
「……とりあえず、寝よう」
こんなふかふかのベッドに寝るのは初めてだった。
聖良が明かりのスイッチに手を翳すと、ふんわりと明かりが落ちて行った。
大の字に転がって、深呼吸をする。すると、聖良はすぐに眠りの世界へと落ちて行った。
メランは長く王宮に仕える執事の一人で、聖良の護衛兼教育係として就いてもらうことになったと話す。
「突然いろいろとお話してしまい、もうしわけありませんでした、セイラ様。今日のところはひとまず、ゆっくりとお休みください」
パルミエ王が頭を下げると、メランが聖良を促した。
聖良は涙が止まらないままで、周りの人たちに頭を下げて出て行く。
「無理に泣き止もうとなさらなくて大丈夫ですよ」
優しい声色で話しかけられて、聖良はさらに泣きそうになった。
(こんなに泣いたのは久しぶりだな……)
聖良はそう思いながら鼻を啜った。
「セイラ様、こちらお使いください」
メランからそっとハンカチが差し出される。
「あっ、あわ…っ」
聖良は自分のポケットにも入っているはずだとパタパタ探るが、何もなかった。
「お借りしまふ…」
聖良は涙を拭いて鼻を抑える。
「これ、あの……、かならず弁償しますので…」
「構いませんよ。支給品ですので、お気になさらず」
そうしてしばらく歩くと、豪華な扉の前で立ち止まる。
「こちらがセイラ様のお部屋でございます」
メランが扉を開くと、入口の壁あたりに手を翳す様子が見える。すると、部屋中の明かりが灯った。
「これ…私の部屋…?」
驚いて涙が止まった。
天蓋付きの大きなベッド。ベッドサイドには水入れが置いてある。クローゼットにドレッサー。部屋の中央には寝られるくらい広いソファーとテーブルが置かれていて、そこには果物がたくさん積んである。
「ゲストルームを改装したお部屋ですので、お手洗いと浴場も扉でつながってございます」
聖良は思わずぽかんとメランを見上げた。
「そうなんですか。……なんか……すごい」
「ええ。聖女様の為に整えられたのでございます」
「……聖女様って、こんな好待遇なんだ……」
聖良がそう呟くとメランが少し困ったような表情をみせながら、クローゼットを開けた。
「寝間着はご用意がございます。お着替えのお手伝いは……」
「大丈夫です、一人で着られます、多分!」
「それではお召しになったらお声かけください。サイズの調整をいたしますので」
「サイズの調整?」
「ええ。お着替え頂かないと、出来ないのですが」
「あ、ええと……、私のいた世界では、着替えをするときは基本的には一人だから……、見られると……ちょっと恥ずかしいですね……」
と言いつつ、聖良はそそくさとベッドの陰に隠れながら着替えた。
「肌触りが良い……」
聖良が思わずつぶやく。シルクの様な生地は少しヒンヤリしていて、肌にしっとりとなじむようだった。
「着替えました。ちょっと大きいかな…」
そういうと、メランが聖良の方に近づいてきて、
「失礼いたします。それでは、《調整(フィット)》」
メランが言葉を発すると、服が発光して、聖良の体に合わせて少し小さくなった。
「わぁ……、これって魔法?」
「はい。幼い頃から、どこかのお屋敷に仕えることになっている者は生活魔法というものを、ある程度叩き込まれることになっているのです」
「そうなんですか? 魔法でお洋服作ったり、お掃除したり、お料理したりとか…?」
「魔法で服を作ったり、料理をしたりは出来ません。掃除はまあ…、ある意味で綺麗にするという事はできますが…」
「なるほど……、そう都合よくは行かないって事か」
メランは微笑んで頷いた。
「お食事は何か、お召し上がりになりますか?」
聖良は首を振った。
「おなかはすいてるんだけど…、なんだか食欲は無くて…」
「それでは、なにか果物を剥いておきましょうか?」
「いいえ。食べられなかったらもったいないし、…自分でできるので、もしおなかがすいて耐えられなかったら、自分で食べます」
「左様でございますか。それでは……お休みになられますか?」
「はい。……なんだか疲れてしまったので、もう休みます」
メランはペコリと頭を下げると、
「ベッドのところに明かりを消すスイッチがあります。手を翳して頂ければ消えますので、セイラ様のお好きな時間に明かりを消してお休みください」
「ありがとう、メランさん」
「お召し物は洗濯をさせていただきますので、お預かりいたしますね」
メランはまた頭を下げて、部屋を出た。
広いベッドに大の字に転がる。深呼吸をすると、また胸の中がもやもやと悲しい気持ちになってきた。
「なんでだろう。聖女ってなんなんだろう。どうして私はこんなに、嫌だと思うんだろう…」
目の奥がツンとした。また泣きそうだった。
「……とりあえず、寝よう」
こんなふかふかのベッドに寝るのは初めてだった。
聖良が明かりのスイッチに手を翳すと、ふんわりと明かりが落ちて行った。
大の字に転がって、深呼吸をする。すると、聖良はすぐに眠りの世界へと落ちて行った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
神々の寵愛者って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる