ビジネス聖女になったので、人生やり直しながら世界も立て直します!

鈴茅ヨウ

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「セイラ様にご挨拶申し上げます。メランと申します」
 メランは長く王宮に仕える執事の一人で、聖良の護衛兼教育係として就いてもらうことになったと話す。
「突然いろいろとお話してしまい、もうしわけありませんでした、セイラ様。今日のところはひとまず、ゆっくりとお休みください」
 パルミエ王が頭を下げると、メランが聖良を促した。
 聖良は涙が止まらないままで、周りの人たちに頭を下げて出て行く。
「無理に泣き止もうとなさらなくて大丈夫ですよ」
 優しい声色で話しかけられて、聖良はさらに泣きそうになった。
(こんなに泣いたのは久しぶりだな……)
 聖良はそう思いながら鼻を啜った。
「セイラ様、こちらお使いください」
 メランからそっとハンカチが差し出される。
「あっ、あわ…っ」
 聖良は自分のポケットにも入っているはずだとパタパタ探るが、何もなかった。
「お借りしまふ…」
 聖良は涙を拭いて鼻を抑える。
「これ、あの……、かならず弁償しますので…」
「構いませんよ。支給品ですので、お気になさらず」
 そうしてしばらく歩くと、豪華な扉の前で立ち止まる。
「こちらがセイラ様のお部屋でございます」
 メランが扉を開くと、入口の壁あたりに手を翳す様子が見える。すると、部屋中の明かりが灯った。
「これ…私の部屋…?」
 驚いて涙が止まった。
天蓋付きの大きなベッド。ベッドサイドには水入れが置いてある。クローゼットにドレッサー。部屋の中央には寝られるくらい広いソファーとテーブルが置かれていて、そこには果物がたくさん積んである。
「ゲストルームを改装したお部屋ですので、お手洗いと浴場も扉でつながってございます」
 聖良は思わずぽかんとメランを見上げた。
「そうなんですか。……なんか……すごい」
「ええ。聖女様の為に整えられたのでございます」
「……聖女様って、こんな好待遇なんだ……」
 聖良がそう呟くとメランが少し困ったような表情をみせながら、クローゼットを開けた。
「寝間着はご用意がございます。お着替えのお手伝いは……」
「大丈夫です、一人で着られます、多分!」
「それではお召しになったらお声かけください。サイズの調整をいたしますので」
「サイズの調整?」
「ええ。お着替え頂かないと、出来ないのですが」
「あ、ええと……、私のいた世界では、着替えをするときは基本的には一人だから……、見られると……ちょっと恥ずかしいですね……」
 と言いつつ、聖良はそそくさとベッドの陰に隠れながら着替えた。
「肌触りが良い……」
 聖良が思わずつぶやく。シルクの様な生地は少しヒンヤリしていて、肌にしっとりとなじむようだった。
「着替えました。ちょっと大きいかな…」
 そういうと、メランが聖良の方に近づいてきて、
「失礼いたします。それでは、《調整(フィット)》」
 メランが言葉を発すると、服が発光して、聖良の体に合わせて少し小さくなった。
「わぁ……、これって魔法?」
「はい。幼い頃から、どこかのお屋敷に仕えることになっている者は生活魔法というものを、ある程度叩き込まれることになっているのです」
「そうなんですか? 魔法でお洋服作ったり、お掃除したり、お料理したりとか…?」
「魔法で服を作ったり、料理をしたりは出来ません。掃除はまあ…、ある意味で綺麗にするという事はできますが…」
「なるほど……、そう都合よくは行かないって事か」
 メランは微笑んで頷いた。
「お食事は何か、お召し上がりになりますか?」
 聖良は首を振った。
「おなかはすいてるんだけど…、なんだか食欲は無くて…」
「それでは、なにか果物を剥いておきましょうか?」
「いいえ。食べられなかったらもったいないし、…自分でできるので、もしおなかがすいて耐えられなかったら、自分で食べます」
「左様でございますか。それでは……お休みになられますか?」
「はい。……なんだか疲れてしまったので、もう休みます」
 メランはペコリと頭を下げると、
「ベッドのところに明かりを消すスイッチがあります。手を翳して頂ければ消えますので、セイラ様のお好きな時間に明かりを消してお休みください」
「ありがとう、メランさん」
「お召し物は洗濯をさせていただきますので、お預かりいたしますね」
 メランはまた頭を下げて、部屋を出た。
 広いベッドに大の字に転がる。深呼吸をすると、また胸の中がもやもやと悲しい気持ちになってきた。
「なんでだろう。聖女ってなんなんだろう。どうして私はこんなに、嫌だと思うんだろう…」
 目の奥がツンとした。また泣きそうだった。
「……とりあえず、寝よう」
 こんなふかふかのベッドに寝るのは初めてだった。
 聖良が明かりのスイッチに手を翳すと、ふんわりと明かりが落ちて行った。
 大の字に転がって、深呼吸をする。すると、聖良はすぐに眠りの世界へと落ちて行った。
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