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瑠色と寝た男3
志信・25歳*9
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飲み込んだそれの味については言及しないけど、美味しくはない。
「…あなた初体験なんだから、何もそこまでしなくてもいいのに…」
差し出された箱ティッシュをとりあえず受け取って、残滓を拭う。
「…志信さんがしてくれたから、ボクもしてあげたいな~って思っただけなんだけど…」
ボクはそのままティッシュを元の場所に戻しに行き、冷蔵庫に入っていたお茶を2本持ってきて、志信さんに手渡して、自分も飲んだ。
「…まあ、なんていうか、タイミングを間違わなければすごく興奮する行動だっていうのはわかったけど」
志信さんの隣に、ごろっと横になる。
「美味しいもんじゃないね」
真顔で言ったのが面白かったのか、志信さんが噴き出した。
「そうね、美味しい物じゃないわね」
くすくすと二人で笑い合っていたら、志信さんが不意にボクに近づいて来た。
拒む理由がないので、そのままキスをする。
舌が入ってきそうになって、さっき志信さんのを口でしたのに…と慌てたけど、本人が気にしてなさそうだったのでそのままキスをつづけた。
「ん…」
まどろむような、甘くてとろとろのキスに、ボクはすっかり夢見心地だった。
志信さんの手が、ボクを撫でてくれているのも、微睡む原因かもしれない。
そこでふと、思い出した。
「…ねえ、あの、…ボク、下手くそだったでしょ? 大丈夫? 不完全燃焼じゃない?」
自分の感覚としては、満足できたのはボクだけっていう状態だったから、志信さんはどうだったのか聞いてみたかった。
志信さんは、ボクを見て笑っていた。どうして笑っているのか、僕には解らない。
「上手くできないのは、ルイくんが初めてだからだし、私はちゃんと満足したから、大丈夫よ?」
そう言って、志信さんが頬にキスをくれた。
「本当に? …ボク一人で気持ちよくなっちゃったみたいな気がしてて、すごく不安」
抱き着いて、すり寄って、志信さんに甘えてみる。志信さんはボクの背中を引き寄せて、すり寄ってきてくれた。
「あんな風にがつがつ求められるのって、久しぶりだったから、すごく興奮した。まあ、もう少し、私の事を考えてほしかったのは確かだけど、ルイくん初めてなのにそんなところまで要求するのは酷だわ」
志信さんは、ふふっと笑った。ボクは、志信さんの笑った顔が可愛くて好きだと思った。
「…志信さんのその顔、見てるとすごく安心する。志信さんの悪戯っぽい笑顔って、すごく可愛くてすきだな…」
志信さんは、なんだか悲しそうな顔をしていた。
「…どうしたの?」
聞き返すと、ボクの視線から逃れる様に、志信さんは背中を向けて座ってしまった。
いつもこうやって、なにかまずい事を言ったのかもしれないと言ってから気が付くボクは、本当に学習能力がないなと思う。
何か言葉をかけた方がいいのは解っているのに、更に傷つけてしまいそうで何も言えなかった。
「…ルイくんは…」
志信さんが、急に寂しそうな声で言う。相槌を打っていいのかわからず、ボクはただ言葉を待った。
ふ、と志信さんが息を吐いた。そして、
「ルイくんはひとたらしね」
と、言った。
「…ヒトタラシ?」
「そ、ひとたらし。女たらしって言葉あるでしょ。あれの、女限定じゃなくて、人全般って事」
その説明で、さすがにこれは褒められてないな、と解った。
「えー。それって、うまい事言って相手をだましたりするって事でしょ?」
苦笑いのボクに、志信さんは重ねて、
「そう。相手の気持ちを掴むのが上手いの。あなた今二十歳でしょ? よくそこまで何もなく居られたわ。…告白してきた女の子、いっぱいいたんじゃない?」
そう言った。
「…そんなこと無いよ」
「うそ。そんなわけないわ」
「まあ、居ないことはないけど、いっぱいは居ないよ。ボクの学生時代は…幼馴染への片思いを引きずり続けてたから…。それに、友達も全然いないし」
悲しい過去だが、本当の事なのでボクは笑うしかなかった。
「あなたの周りの人間は、見る目が無かったのかしら」
「…どうかなあ」
苦笑いをするボクを、志信さんが悲しい顔をしながら抱きしめてくれた。
その行動に、まるで慰められているような、そんな気がした。
「志信さんって、本当に優しい人だよね。こんなボクを慰めてくれて」
抱き返すと、志信さんは首を振った。
「失恋の悲しみとか、憎しみとかそういう、持って行きようのない感情を、あなたにぶつけたのよ、私。何も知らない子に、あんなことして、あんなことさせて、ひどい人間だわ」
「そんなこと無いよ。だって、ボクは未知の世界に好奇心を刺激されてあなたを抱いた。それはひどい事じゃない?」
「私が利用したのよ」
「それを言ったら、ボクだってそうだ。失恋したあなたにつけ込んで、経験値を得たわけじゃん」
「違う、つけ込んだのは私の方よ」
「じゃあ、お互い様じゃん。ボクは好きな男が居るのにその人とはどうにもなれないもどかしさを抱えたまま、失恋した志信さんの傷につけ込んで抱いた。志信さんは失恋の諸々をボクにぶつける為に未知との遭遇に知的好奇心を刺激されたボクにつけ込んだ。ほらね?」
これにさらに反論をしようとするので、志信さんの唇をキスで塞いでやった。
怒ったように、ぐいっと離れられて、ボクは少しムッとする。
「私は、ルイくんより年が上なのに、男同士のアレコレを知らないあなたを…!」
ムッとした勢いで、ボクは渾身の力で志信さんをベッドに押さえつけた。ボクの行動に、志信さんは驚いた表情のままに固まった。
「解った。ボクの意志で、ボクが思った通りにあなたを抱いたら、それはあなたにつけ込まれたことにはならないね。幸か不幸か、備え付けのゴムはもう一個あるから。今度はボクの意志であなたを抱く。それに、もうボクは何も知らない初めてちゃんじゃないよ」
このまま、志信さんが同意しないで事を進めて行ったら、強姦になるのだろうか、などと、ボクは的の外れたことを考えていた。
「このまま、あなたを抱いたら、この水掛け論を、終わらせることはできる?」
「…あなた初体験なんだから、何もそこまでしなくてもいいのに…」
差し出された箱ティッシュをとりあえず受け取って、残滓を拭う。
「…志信さんがしてくれたから、ボクもしてあげたいな~って思っただけなんだけど…」
ボクはそのままティッシュを元の場所に戻しに行き、冷蔵庫に入っていたお茶を2本持ってきて、志信さんに手渡して、自分も飲んだ。
「…まあ、なんていうか、タイミングを間違わなければすごく興奮する行動だっていうのはわかったけど」
志信さんの隣に、ごろっと横になる。
「美味しいもんじゃないね」
真顔で言ったのが面白かったのか、志信さんが噴き出した。
「そうね、美味しい物じゃないわね」
くすくすと二人で笑い合っていたら、志信さんが不意にボクに近づいて来た。
拒む理由がないので、そのままキスをする。
舌が入ってきそうになって、さっき志信さんのを口でしたのに…と慌てたけど、本人が気にしてなさそうだったのでそのままキスをつづけた。
「ん…」
まどろむような、甘くてとろとろのキスに、ボクはすっかり夢見心地だった。
志信さんの手が、ボクを撫でてくれているのも、微睡む原因かもしれない。
そこでふと、思い出した。
「…ねえ、あの、…ボク、下手くそだったでしょ? 大丈夫? 不完全燃焼じゃない?」
自分の感覚としては、満足できたのはボクだけっていう状態だったから、志信さんはどうだったのか聞いてみたかった。
志信さんは、ボクを見て笑っていた。どうして笑っているのか、僕には解らない。
「上手くできないのは、ルイくんが初めてだからだし、私はちゃんと満足したから、大丈夫よ?」
そう言って、志信さんが頬にキスをくれた。
「本当に? …ボク一人で気持ちよくなっちゃったみたいな気がしてて、すごく不安」
抱き着いて、すり寄って、志信さんに甘えてみる。志信さんはボクの背中を引き寄せて、すり寄ってきてくれた。
「あんな風にがつがつ求められるのって、久しぶりだったから、すごく興奮した。まあ、もう少し、私の事を考えてほしかったのは確かだけど、ルイくん初めてなのにそんなところまで要求するのは酷だわ」
志信さんは、ふふっと笑った。ボクは、志信さんの笑った顔が可愛くて好きだと思った。
「…志信さんのその顔、見てるとすごく安心する。志信さんの悪戯っぽい笑顔って、すごく可愛くてすきだな…」
志信さんは、なんだか悲しそうな顔をしていた。
「…どうしたの?」
聞き返すと、ボクの視線から逃れる様に、志信さんは背中を向けて座ってしまった。
いつもこうやって、なにかまずい事を言ったのかもしれないと言ってから気が付くボクは、本当に学習能力がないなと思う。
何か言葉をかけた方がいいのは解っているのに、更に傷つけてしまいそうで何も言えなかった。
「…ルイくんは…」
志信さんが、急に寂しそうな声で言う。相槌を打っていいのかわからず、ボクはただ言葉を待った。
ふ、と志信さんが息を吐いた。そして、
「ルイくんはひとたらしね」
と、言った。
「…ヒトタラシ?」
「そ、ひとたらし。女たらしって言葉あるでしょ。あれの、女限定じゃなくて、人全般って事」
その説明で、さすがにこれは褒められてないな、と解った。
「えー。それって、うまい事言って相手をだましたりするって事でしょ?」
苦笑いのボクに、志信さんは重ねて、
「そう。相手の気持ちを掴むのが上手いの。あなた今二十歳でしょ? よくそこまで何もなく居られたわ。…告白してきた女の子、いっぱいいたんじゃない?」
そう言った。
「…そんなこと無いよ」
「うそ。そんなわけないわ」
「まあ、居ないことはないけど、いっぱいは居ないよ。ボクの学生時代は…幼馴染への片思いを引きずり続けてたから…。それに、友達も全然いないし」
悲しい過去だが、本当の事なのでボクは笑うしかなかった。
「あなたの周りの人間は、見る目が無かったのかしら」
「…どうかなあ」
苦笑いをするボクを、志信さんが悲しい顔をしながら抱きしめてくれた。
その行動に、まるで慰められているような、そんな気がした。
「志信さんって、本当に優しい人だよね。こんなボクを慰めてくれて」
抱き返すと、志信さんは首を振った。
「失恋の悲しみとか、憎しみとかそういう、持って行きようのない感情を、あなたにぶつけたのよ、私。何も知らない子に、あんなことして、あんなことさせて、ひどい人間だわ」
「そんなこと無いよ。だって、ボクは未知の世界に好奇心を刺激されてあなたを抱いた。それはひどい事じゃない?」
「私が利用したのよ」
「それを言ったら、ボクだってそうだ。失恋したあなたにつけ込んで、経験値を得たわけじゃん」
「違う、つけ込んだのは私の方よ」
「じゃあ、お互い様じゃん。ボクは好きな男が居るのにその人とはどうにもなれないもどかしさを抱えたまま、失恋した志信さんの傷につけ込んで抱いた。志信さんは失恋の諸々をボクにぶつける為に未知との遭遇に知的好奇心を刺激されたボクにつけ込んだ。ほらね?」
これにさらに反論をしようとするので、志信さんの唇をキスで塞いでやった。
怒ったように、ぐいっと離れられて、ボクは少しムッとする。
「私は、ルイくんより年が上なのに、男同士のアレコレを知らないあなたを…!」
ムッとした勢いで、ボクは渾身の力で志信さんをベッドに押さえつけた。ボクの行動に、志信さんは驚いた表情のままに固まった。
「解った。ボクの意志で、ボクが思った通りにあなたを抱いたら、それはあなたにつけ込まれたことにはならないね。幸か不幸か、備え付けのゴムはもう一個あるから。今度はボクの意志であなたを抱く。それに、もうボクは何も知らない初めてちゃんじゃないよ」
このまま、志信さんが同意しないで事を進めて行ったら、強姦になるのだろうか、などと、ボクは的の外れたことを考えていた。
「このまま、あなたを抱いたら、この水掛け論を、終わらせることはできる?」
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