【完結】片想いを拗らせすぎたボクは君以外なら誰とでも寝るけど絶対に抱かれない

鈴茅ヨウ

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瑠色と寝た男5

今までの男たち・4

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「あのー、誠人さん的には、こう…ボクの存在って嫌なもんじゃないんですか?」

 そう聞くと、誠人さんはきょとんとした顔で、

「どうして? 恋人と何かあった人なんて、いついかなる時もいくらでも遭遇するでしょ?」

 この人は一体どんな人生を潜り抜けて来たのだ、とボクは思った。

「いや…まあ、ボクみたいな若造の事気にしても、仕方ないんでしょうけども…」

「ははっ、年若いというだけでそこに価値を見出す種類の人間も居るけど、私はそうじゃないからね。るい君と拓海の間に何があったかって言う事は…」

 誠人さんはそこまで言って、拓海さんの方に視線を投げる。何か伺うような視線で、拓海さんは頷いた。

「肉体関係に及んだって事しか、知らないよ」

 ボクは飲みかけていたオレンジジュースを噴出しそうになる。かろうじて少しむせたくらいで済んだけど。

「後にも先にも、ボク達の関係はあの1度っきりです…」

 そう正直に言うと、誠人さんから、

「ほんとに?」

 ともすれば失礼だと思うほどにニコニコ返された。

「あのあと、ボクからは連絡しなかったし、拓海さんからも連絡がなかったので…」

「どうして連絡しなかったの? 拓海のこと、気に入らなかった?」

「いや、拓海さんは素敵な人だなって思ったんですけど…、あー…、ボクは本当はネコだし、拓海さんはボクみたいなのより素敵な人とすぐ出会えるって思ってたから…」

 ボクの答えに満足そうに頷いてから、不思議そうな表情で誠人さんは、

「きみ、ネコなのに拓海を抱いたの…?」

 と聞いてきた。

 説明しようと思ったら、拓海さんが止めてくれた。

「誠人さん、焼きもちやいてくれるのはうれしいですけど、質問攻めしすぎですよ」

「それはさっき認めたけど…」

「普通、そんなこと根掘り葉掘りしないでしょ? ルイ君、困ってるじゃないですか」

「…仕方ないだろ。君の身体を知っているどころか、君の積極性を呼び覚ましたという男が目の前にいるんだから…」

 そう言って、二人はボクそっちのけでイチャイチャし始めた。

 …うらやましいというか、正直、傷心のボクには辛い光景だった。

「拓海さん、幸せなんだね、良かった」

 ボクを置いてけぼりにしたことを思い出したように、拓海さんが顔を上げた。

「あ、…ルイ君のおかげ、かな」

「ボクはなにもしてないよ。今、拓海さんが幸せなんだとしたら、それは拓海さんが今まで生きて来た人生の積み重ねと、今隣にいる人のおかげじゃない?」

 ボクの言葉に、二人は顔を見合わせた。

 幸せな二人のリアクションにすら、ボクは勝手に苛立って、勝手に傷つく。

 でも表には出せないし、出す必要もない。

「なんですか、二人して」

 笑顔が引きつってしまうのがわかったけれど、そのままなんとか笑う。

「いや、やっぱり拓海に聞いていた通りだったと思って」

 そう言うと誠人さんは人の良さそうな笑顔を見せた。

「え?」

「君はいま、人生最悪の日だと言っていたのに、私達の様子にも不快感を表に出す事無く、私のおかげで拓海が幸せだと言える」

 それを言われて、ボクは首をかしげる。

 …っていうか、ボクの不快感に気付いててやってたのかよ、この人…。

「不快か愉快かはおいといて、例え不快だとしてもそれはボクの心の問題だし…。幸せな二人に八つ当たりしたって、ボクの心の傷は癒えないでしょ…?」

「拓海はね、君の事を『自分よりも相手の気持ちをすごく考える良い子』だって言ってたんだ」

 真っ正面から誉められて、悪い気はしないけどくすぐったい。

「…なんか、誉めすぎじゃない?」

「そんな事無いよ。ルイ君はすごくいい子だ」

「私もそう思うよ」

 マイナス思考に落ちたボクを、二人が慰めてくれているような気がした。

「ありがとう。こんな風に人を誉めることができるのは二人のいいところだね。…なんか、ちょっと気持ちが穏やかになった気がするよ」

 ボクが笑えば、拓海さんと誠人さんは少しホッとしたように見えた。

「さて、いつまでも管巻いてても仕方ない。それに二人の邪魔しても悪いし、僕はそろそろ帰ろうかな」

 ママを呼び、お会計をお願いしつつ、拓海さんと誠人さんに一杯サービスしてね、とこっそり余分にお金を払う。

「アンタこういうところマメよね」

「ボクみたいな年下に奢られるの嫌だろうから、ボクが店を出てから、『勝手に慰められて勝手にお礼してるだけなので受け取ってください』って言っておいてくださぁい」

 ママにそうお願いしてから、二人に軽く挨拶をして、斜陽を出る。

 元々あんまり酔わないけど、ぜんぜん酔えなかった。こうなったら、帰る前にコンビニに寄ってお酒買ってきて、それ飲んで眠ろう。

 家なら酔って眠ってしまっても良いし、ベロベロに酔ってしまいたい。

 駅に向かう道すがら、自分のこのあからさまな『結婚式帰り』みたいな格好もイヤになった。

「ルイさーん!」

 可愛らしい声に呼ばれる。ん? と思って振り向くと、

「よかった、人違いじゃなくて! 追い付いた…!」

 息を切らせて走り込んできたのは、ハヤトだった。

「ハヤトじゃん、久しぶりだね、元気にしてた?」

「はい、ルイさんも元気でしたか?」

 元気じゃない、全然元気じゃないけど、それをハヤトに言っても仕方ないので、

「うん、元気だったよ。あれ、ハヤト、斜陽行くとこだった?」

「はい。ルイさんは帰りですか?」

「うん、そう。家に帰って飲み直そうかと思って」

 ボクがそう言うと、ハヤトはなにか言いたげに視線を送ってくる。

 頬を染めていて、上目使いのような、そんな視線だ。これは、誘われている。

 直感でそう思ったけれど、さすがにこの格好で引き出物を持って…ホテルに行くなんてちょっとまずい。

「…あっ、すいません、引き止めて! 久しぶりに会えたから嬉しくて」

 はにかむハヤトは可愛い。でも、今は誰かに付き合ってあげられる精神状態じゃない。


 
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