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3 スクエア
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馬車のなかで、リズは呆然とした様子で男がしゃべりたてる言葉を聞き流していた。男は貴族が着るような高級な服装をしていて、確か自分の名をスクエアだと言っていた気がした。
そうして体感的には数分……もしかしたら実際の時間はもっと長いのかもしれないが……馬車が停止して、ドアが開かれる。
「さあ行きましょうリーゼロッテさん」
「……へ……?」
ようやく我に返ったリズが改めて男に焦点を向けると、男はすでに立っていて彼女に手を差し出していた。
「我が屋敷に到着したのですよ。これから私の両親に紹介するのです」
「い、いえ、わたしは学園の授業がありますし……あとなんでわたしの名前を?」
「さっき聞いたらそう答えてくれたではありませんか!」
リズはよく覚えていなかったが、言われてみればそんな気もした。
「学園の授業に関しても心配はいりません。その制服はルーフ学園のものですよね。あの学園には私の叔父が出資しているので、あとで融通を利かせるように頼んでおきましょう」
リズのために特別ななにかをするつもりらしいが、具体的なことは分からなかった。
……そもそもスクエアさんが無理やり連れてきたからこうなったのでは……? リズは思ったが、言えなかった。
「だ、だいたいなんでわたしがあなたの両親に……?」
「やだなあ、さっき言ったじゃないですか、私がリズさんと婚約するからですよ」
「…………、……はあ?」
開いた口が塞がらないというのは、まさにこのことだろうか。ぽかんとして絶句するリズに、しかしスクエアは意に介した様子もなく彼女の手を取って、馬車の外へと連れ出していく。
突然の出来事に対して、激流に飲まれるように身を任せることしかできなかったリズは、広く大きな屋敷のなかに連れ込まれると、長い廊下を歩かされてとある一つの部屋へと到着していた。
「父さん母さん、紹介するよ。私の婚約者のリーゼロッテさんだ」
「「…………」」
そこは広いダイニングだった。この部屋だけでもリズのアパートの一室がまるまる収まるくらいの広さで、そこの中央にある長テーブルでスクエアの両親は遅い朝食を食べていた。
帰宅の挨拶もせずにいきなり告げてきた息子と、息子に手を引っ張られているリズを見て、スクエアの両親は目を丸くしていた。ナイフとフォークを持っていた手も止まっていて、ぽろりとフォークに刺さっていたハンバーグの一切れが皿の上に落ちた。
「それじゃあ、私はリズさんに似合う婚約指輪を探しに行ってきます!」
「ま、待ちなさい⁉」
背を向けて部屋を出ようとする息子に、父親が慌てて声をかけた。テーブルに両手をついて立ち上がり、その拍子にテーブルにあった料理の皿がガチャンと音を立てる。
「こ、婚約者とはどういうことだ⁉」
「言った通りだよ父さん。私はリーゼロッテさんに一目惚れした。だから婚約するんだ」
「またそれか⁉ これで四人目じゃないか⁉」
……よ……⁉ 聞いていたリズもまた驚いて、思わずスクエアのほうを振り返ってしまう。しかしスクエアは悪びれた様子も反省した態度も見せることなく、むしろうぶな子供のような照れた顔をして、頭の後ろに手を当てていた。
「運命の人が四人もいるなんて、私は幸せ者だなあ」
「何をふざけたことを言ってるんだ⁉ それにリーゼロッテさんといったか? 彼女が着ているのはルーフ学園の制服じゃないか⁉」
「真実の愛に年齢も身分も関係ないのさ」
「っ……⁉」
父親があんぐりと口を開けて、息子の返答にそれ以上なにも言えない様子だった。母親もまた同様で、もはや文句を連ねる気概も損なわれているようだった。
そして両親のその様子を肯定や承諾と受け取ったのだろう、スクエアは再びドアに向くとリズの手を引っ張りながら元気な声を上げる。
「さあ行こうリーゼロッテさん。貴女に相応しい、とても素敵な婚約指輪をプレゼントしよう!」
リズも、スクエアの両親も、スクエアのあまりの行動力になにも言えなかった。そうしてリズは再びスクエアに連れていかれ、スクエアの両親はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
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そうして体感的には数分……もしかしたら実際の時間はもっと長いのかもしれないが……馬車が停止して、ドアが開かれる。
「さあ行きましょうリーゼロッテさん」
「……へ……?」
ようやく我に返ったリズが改めて男に焦点を向けると、男はすでに立っていて彼女に手を差し出していた。
「我が屋敷に到着したのですよ。これから私の両親に紹介するのです」
「い、いえ、わたしは学園の授業がありますし……あとなんでわたしの名前を?」
「さっき聞いたらそう答えてくれたではありませんか!」
リズはよく覚えていなかったが、言われてみればそんな気もした。
「学園の授業に関しても心配はいりません。その制服はルーフ学園のものですよね。あの学園には私の叔父が出資しているので、あとで融通を利かせるように頼んでおきましょう」
リズのために特別ななにかをするつもりらしいが、具体的なことは分からなかった。
……そもそもスクエアさんが無理やり連れてきたからこうなったのでは……? リズは思ったが、言えなかった。
「だ、だいたいなんでわたしがあなたの両親に……?」
「やだなあ、さっき言ったじゃないですか、私がリズさんと婚約するからですよ」
「…………、……はあ?」
開いた口が塞がらないというのは、まさにこのことだろうか。ぽかんとして絶句するリズに、しかしスクエアは意に介した様子もなく彼女の手を取って、馬車の外へと連れ出していく。
突然の出来事に対して、激流に飲まれるように身を任せることしかできなかったリズは、広く大きな屋敷のなかに連れ込まれると、長い廊下を歩かされてとある一つの部屋へと到着していた。
「父さん母さん、紹介するよ。私の婚約者のリーゼロッテさんだ」
「「…………」」
そこは広いダイニングだった。この部屋だけでもリズのアパートの一室がまるまる収まるくらいの広さで、そこの中央にある長テーブルでスクエアの両親は遅い朝食を食べていた。
帰宅の挨拶もせずにいきなり告げてきた息子と、息子に手を引っ張られているリズを見て、スクエアの両親は目を丸くしていた。ナイフとフォークを持っていた手も止まっていて、ぽろりとフォークに刺さっていたハンバーグの一切れが皿の上に落ちた。
「それじゃあ、私はリズさんに似合う婚約指輪を探しに行ってきます!」
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「こ、婚約者とはどういうことだ⁉」
「言った通りだよ父さん。私はリーゼロッテさんに一目惚れした。だから婚約するんだ」
「またそれか⁉ これで四人目じゃないか⁉」
……よ……⁉ 聞いていたリズもまた驚いて、思わずスクエアのほうを振り返ってしまう。しかしスクエアは悪びれた様子も反省した態度も見せることなく、むしろうぶな子供のような照れた顔をして、頭の後ろに手を当てていた。
「運命の人が四人もいるなんて、私は幸せ者だなあ」
「何をふざけたことを言ってるんだ⁉ それにリーゼロッテさんといったか? 彼女が着ているのはルーフ学園の制服じゃないか⁉」
「真実の愛に年齢も身分も関係ないのさ」
「っ……⁉」
父親があんぐりと口を開けて、息子の返答にそれ以上なにも言えない様子だった。母親もまた同様で、もはや文句を連ねる気概も損なわれているようだった。
そして両親のその様子を肯定や承諾と受け取ったのだろう、スクエアは再びドアに向くとリズの手を引っ張りながら元気な声を上げる。
「さあ行こうリーゼロッテさん。貴女に相応しい、とても素敵な婚約指輪をプレゼントしよう!」
リズも、スクエアの両親も、スクエアのあまりの行動力になにも言えなかった。そうしてリズは再びスクエアに連れていかれ、スクエアの両親はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
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