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61 容易に納得
しおりを挟む夫人の返答にリズは疑問を抱き、続けて尋ねる。
「スクエアさんは……? いままで見てきた様子だと、伝えていないんですか……?」
いくら特別扱いはせず、御者としての扱いだとしても、相手は王子という認識は持っているはずだ。礼節や常識や思慮深さを持った対応こそすれ、馬鹿にしたりはできないはずである。
しかし今日の放課後にスクエアがフォースに見せた態度は、明らかに相手を下に見ている態度だった。相手が王子だと認識している様子は微塵もなかったのである。
リズの問いに、夫人は一旦口を閉ざした。それから小さな溜め息を吐く。
「……それに関しては、私達の対応が間に合わなかったのです。本来はスクエアにも伝えるはずだったのですが、私達が伝えるより前に、スクエアはホースと出会ってしまったのです……」
リズがフォースにちらりと視線を向けると、彼は肯定のうなずきをした。夫人の言葉を補足するように言う。
「私が受け持ちの馬車の清掃をしていたときに、外出からお帰りになったスクエア様と鉢合わせいたしました。そのときの私はまだ仕事に慣れていなく、馬車の清掃にも手間取っていたのですが……それを見たスクエア様がお声をかけてこられたのです。いえ……厳密には私にかけたつもりはなく、ただの一人言のようだったのですが」
スクエアがどのような言葉を言ったのか……それに関して、具体的なことをフォースは口にしようとしなかった。スクエアを……御者として仕えている貴族家の令息を貶める発言だと思ったからだった。
しかしヴォクス夫人が口を開く。いままでの毅然とした態度がわずかに崩れて、自身の息子に対して気落ちしたような様子で。
「それに関しては、そのときそばにいた執事から話を聞きました。その執事も、ホースのことを知らなかったのですが……『馬車の掃除すら手間取るとか、よくこんな耄碌オッサンを雇ったもんだ。こんな給料泥棒なんか、後で父様に文句を言ってクビにしてやる』、スクエアはそう言ったそうです」
一応、念のためにリズは尋ねた。
「一応、一応ですよ、念のために聞くんですけど……そんなにフォースさんは馬車の掃除もできなかったのですか?」
「いえ、世話役を務めた者の話では、いままで教えてきた新人のなかでは物覚えはかなり良いほうだったとのことでした」
その世話役のことをフォローするように、夫人はフォースに言う。
「言っておきますが、その世話役には事情を話していませんでした。彼の褒め言葉は貴方が王族だから持ち上げたというわけではなく、一人の新人の使用人としての評価です。そこを誤解しないように」
「…………」
「スクエアの文句は、おそらくは壮年の男性が新人として働き始めたという、スクエア自身の偏見や先入観から来たものでしょう。息子は女性には、特に美貌の女性には非常に甘く優しい反面、男性には露骨に厳しく嫌そうな態度を取る傾向があるようですから」
「「…………」」
リズは容易に納得できてしまった。自分自身ですら馬車の窓から通りすがりに一目見られただけで惚れたと言われたのだ、スクエアが女性に甘いことなど簡単に察しがつく。
そのくせ、相手のことを考えず、意志や言葉も無視して、自分勝手に婚約を強制してくるのである。
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