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第十五話 フードの人物
しおりを挟む「じゃーなー」
手をヒラヒラと振りながら、ルタは背を向ける。
これ以上彼に付きまとえば、間違いなく迷惑になる。また不審に思われたくないという気持ちもある。
だが、なにか彼に言っておきたい気持ちもあった。なにを言いたいのかは、はっきりとは分からなかったが、とにかくなにかを……。
「あ、あの……っ」
「ん、なんだ? まさかまだお礼がしたいって言うんじゃねーだろーな?」
さすがにうっとうしそうな顔をするルタ。
ロウはブンブンと首を振って。
「ち、違います、そうじゃなくて……」
「じゃあなんだ?」
「だから、その……」
とっさに口から出た言葉は。
「……いつまでこの町にいるんですか……?」
「んー、はっきりとは決めてねーけど、もうしばらくはいるつもりだぜ。一週間かそこらくらい」
「……そう……ですか……」
「もしかしたら、縁があればまた会うかもな。ははは。じゃーな、ロウ」
笑いながらそう言って、ルタは再び背を向けて、今度こそ去っていった。
その背中を、ロウはなにも言わずに見つめていた。
……初めて名前呼んだ……。
そう思いながら。
夜。町の一角の暗い路地にて。三人の男がいた。
「クソッ、あんにゃろう、次に会ったらタダじゃおかねえッ」
そう毒づいたのは昼間ルタに気絶させられた冒険者の男だった。回復アイテムで治したのか、いまはもうピンピンとしている。
「そうは言ってもよ、オレはあんまり乗り気しねーなー。あいつ結構強えみてーだし」
「正直、オレももう関わりたくねーなー。いてーのはイヤだしよー」
息巻く男とは打って変わって、仲間達は消極的だった。実際に男が為すすべなく一撃でやられたのを見て、及び腰になっているらしい。
しかし男はそんなことには構わない様子で、拳を自分の手のひらに打ちつける。
「ハッ! おめーらがイヤだっつっても、オレは一人でもやってやるぜ! とにかく奴をぶちのめさねーと気が済まねーんだからよ!」
そんな男の様子を見て、仲間達は顔を見合わせて諦めたようなため息をついた。こりゃ何を言っても聞く耳持たねーな、と。
そのとき。ザリと足音を立てて誰かが路地の入口に姿を見せる。不意に現れた人物に男達はそのほうを見るが、外灯の逆光になっていることと、加えてその人物が目深にフードをかぶっているせいで顔がよく分からなかった。
男か女かも分からない人物がジッと見つめてきていることに、冒険者の男は苛立ちの声を上げた。
「オウオウ、なんだテメー、ガンつけてんじゃねーぞ! 痛い目見たくなかったら、どっか行きやがれ!」
だがフードの人物は男の言葉を無視して、なおも三人をジッと見続ける。誰かを探しているからなのか、それとも因縁をつけることそのものが目的なのか。
「耳が聞こえねーのかテメー! それとも本当に痛い目見ねーと分かんねーのか!」
なおも去ろうとしないフードの人物に男は苛立ちを募らせる。しかし男の仲間達は反応を返さない人物を不気味に思ったのか、一人が男の肩に手を置いて。
「おい、あんな奴放ってあっちに行こうぜ」
もう一人も気味悪い気持ちを声ににじませながら。
「ああ、なんか不気味だしよ」
だが二人の言葉に男はさらに苛立ったようで、彼らにも荒い声を張り上げる。
「怖がってんじゃねえテメーら! それでもオレとパーティーを組んでる奴らか!」
「「だ、だけどよ……」」
「ごちゃごちゃ言い訳すんじゃねえ! いいから見てろ!」
肩に置かれている仲間の手を払って、男は路地の入口に立つ人物へと肩をいからせながら歩み寄っていく。男の背は高いため、必然的にその人物を見下ろす形になった。
「テメー! さっきからずっと見てきてんじゃねー! 警告はしたからな!」
固く握りしめた拳をふりかぶり、男が人物へとなぐりかかった。それが直撃しようとする刹那、フードの下からニヤリと、下弦の月のように歪んだ口が覗き見えた。
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