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第四十四話 外套の人物
しおりを挟む不意に訪れた静寂の空間に、ロウはどことなく気まずい思いを感じてしまう。それとなく横目でルタを見ると、彼は特に何も気まずくは思っていなさそうで、普段通りのひょうひょうとした雰囲気をまとっていた。
これまで見てきた彼のイメージからすれば、確かにこういうことはあまり気にしないというか、無頓着な感じもするが……。
と、そのとき。二人しかいないはずの道の先、外灯が照らし出す夜の通りの真ん中に、なにかがあるのが見えた。いや、正確には『いる』という表現のほうが正しいだろう。
外灯の明かりだけでは分かりにくかったが、『それ』はフードをかぶり、丈の長い外套で全身を覆った人間のように見えたからだ。
不思議に思うことがあるとすれば、その人物は身じろぎもせずに、ただ通りの真ん中で仁王立ちになっていたことだった。
まるで、目の前にいるルタとロウのことを、ずっとそこで待ち構えていたかのように。
「…………?」
顔も分からないその人物を見て、ロウは内心で不思議に思った。
(どうしてこんなところに突っ立ってるんだろ、この人……)
と。
しかしすぐに思い直す。
(ううん……きっと誰かと待ち合わせしてるだけだろうし……)
気にしないほうがいいと思った。それに自分とは関係ないのに、下手に他人の事情を詮索しても失礼だろう、と。
それはルタのほうも同じだったのだろう、特に気にかけた様子もなく、道を歩き続けている。いや、そもそも彼はこんなことを気にする人間ではないのかもしれないが。
そして二人はその人物の横を通り過ぎようとする。並び順としては、二人から見てその人物の右側をルタが通り、そのルタの右側にロウがいるという並びだ。
ただ通り過ぎるだけ、すれ違うだけ……ただそれだけのはずなのに、ロウ自身奇妙なことに、彼女はなぜかその瞬間、何が起きても対処できるように、町の外を冒険しているときのような警戒心や注意心をかすかに湧き上がらせていた。
気にしすぎだということは分かっていた。どうせなにも起こりはしないだろうと……。
そうして二人がその人物の横を通り過ぎたとき……やはり実際に何も起こりはしなかった。やはりロウの気にしすぎただけだった。
(……ほらね……やっぱりただの気のせい……)
ずっと警戒心を抱いていたことが急にバカらしくなって、ロウはそれを解く。ホッと気を抜いた……その瞬間。
背後にいた外套の人物が懐から一振りのナイフを取り出して、背中を向けている二人へと襲いかかっていった。
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