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第四十六話 暗器

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 ロウとルタが直感し、通り魔が地面を蹴り、凄まじい脚力によってその距離を瞬時に詰めてくる。たった一歩。たったの一踏みによって。通り魔が突き出したナイフの切っ先が二人の眼前へと迫りくる。

「「っ!」」

 最初に狙われたのはルタだった。空に浮かぶ上弦の月の光か、それとも近くの外灯の明かりによってなのか、キラリと光るナイフがルタへと向かってくる。

「ルタさん!」

 彼のスキルは『未熟』であり、特技は『デバフ』である。いままでは対象が生物あるいは元生物ということで『未熟』状態にしてステータスを低下できたが、今回はナイフという武器が相手である。
 無論、それを使う通り魔は人間だと思われるため、通り魔自身のステータスを下げること自体はできる。……が、武器であるナイフは無生物である。
 はたしてその武器、ナイフにデバフは通用するのだろうか。

「そんなナイフじゃ、おれは殺せねえぜ」

 ニヤリと不敵にルタが言い、そしてあろうことかナイフの切っ先を素手の手のひらで受け止める。そしてそれを握りしめると、粉々に破壊した。

「……ッ」
「……っ」

 通り魔とロウの二人が驚く……が、思い返してみれば、昨日の冒険者とのケンカの際にも彼は同じようなことをしていたはずだ。
 対象は刃物という無生物のはずなのに、何故『未熟』スキルとしてのデバフが有効なのか……疑問は湧いたが、いま優先すべきことは……。

「おらぁっ!」

 驚愕によって隙が生じた通り魔へとルタが蹴りを叩き込もうとする。おそらくは相手自身にも既にデバフの影響は発生しているだろうが、それでも強烈な蹴りが通り魔の胸部へと命中しようとした刹那、通り魔はバック転をしてギリギリのところで回避する。

「マジかよっ⁉ どんな身体能力してんだっ⁉」

 いまの一撃で決めるつもりだったのだろう、ルタが驚きの声を上げる。やはりデバフをかけていたらしい。

「…………」

 地面に手と足をついて無事に着地した通り魔が、無言のままルタのほうを見つめてくる。フードに隠れていて分からないが、はたしてその瞳は睨みつけているのか、それとも……。
 通り魔が自分の足元に手を伸ばし、その手にまたも一振りのナイフが握られる。暗器。靴の底か、あるいはふくらはぎの部分に仕込んでいたのだろう。

「殺し屋かよ。もしかしたら他にも仕込んでんのか?」

 何がおかしいのか、ニヤリとしながらルタが言う。

「…………」

 だが通り魔は何も答えない。たとえ一言でも返事をすることによって、自分や自分に関係することのヒントを与えないようにしているのだろう。

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