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第五十六話 推測
しおりを挟む二日前の料理屋でのケンカの際も、彼は自分の背丈ほどもある大剣を軽々と受け止めていた。なぜ無生物である武器に、『未熟』というデバフが通用するのか。
「あー……実はおれもまだよくは分かんなくて、あくまでただの推測になるんだが……」
少し説明に困ったように、ルタはポリポリと頭をかいたあと。
「ナイフとか剣とかって武器はさ、その形状にする前に鍛冶屋とかで加工するわけだろ。ものすげー熱でドロドロにやわらかくして」
ロウとサージがうなずく。鍛冶について詳しいことはよく分からないが、凄まじい高熱によって赤くなった金属を加工するというのは、なんとなく想像できる。
「どうも、おれの『未熟』スキルは、その加工しているときの比較的やわらかい状態にできるらしいんだよ。完成形としてのナイフや剣の前段階、未熟な状態だとして」
「…………なんとまあ……たまげましたな……」
もう一度驚いたようにサージが声を出す。ロウもまた驚いていたが、同時に疑問も口にしていた。
「……でもそれって、熱しているときの状態にしているんですよね。熱くないんですか?」
もし高熱状態になっているのであれば、素手で触ることなどできないはずだ。
彼女の問いに、ルタは肩をすくめる。
「うんにゃ、熱くはねーな、不思議なことに。どうやら、熱さとかは再現されずに、ただ純粋にやわらかさだけを再現しているらしい」
「……なんでそんなことができるんですかね……?」
「んなこと、おれに言われても困る。さっきも言ったが、おれ自身まだ完全には把握してないんだから。いままで説明したこともあくまでただの推測だし、文句なら『未熟』スキルに言ってくれ」
「…………」
「そんでこの憶測だって間違ってるかもしれねーんだからな」
「鑑定の人に詳しく聞けなかったんですか?」
「鑑定の奴からは、未熟状態にできる、としか言われなかったな。鑑定結果はそれしか表示されなかったらしい」
「…………」
疑問が完全に解けたわけではないが、ロウは口を閉ざしてしまう。鑑定結果がそうである以上、さらに問いただしても彼から聞けるのは憶測だけだと思ったから。
ルタはサージに再び顔を向けて。
「おれのことはもういいから、捜査の続きをしようぜ。どこまで話したっけ?」
「ええ、そうですな。実況見分はルタさん達が通り魔に応戦したところで、ルタさんが通り魔のナイフを素手でつかんで破壊したところです。それで、このあとはどうなったんですかな?」
「ああ、そうそう。えーっと、確か……」
昨夜の記憶をたどりながら、ルタはサージや官憲達に動作を交えながら説明していく。細かい部分や小さな記憶違いなどがあった場合には、ロウが補足や訂正をしていった。
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