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第六十一話 間近で
しおりを挟む予想していなかったいきなりの提案に、思わずロウは戸惑ってしまう。彼女のその反応を、ルタは遠慮だと受け取ったらしく。
「な、あんたもおれみてーな奴を護衛なんかしたくねーよな、四六時中ずっと一緒にいるわけだから。仕事やクエストの依頼ならともかく、こんな……」
彼の言葉の途中で、ロウは口を挟んでいた。自分でもなぜそう言ったのか、理由は分からないのだが。
「わ、分かりました。あ、あたしがルタさんを護衛します」
「…………、はい?」
虚を突かれたのはルタのほうだった。鳩が豆鉄砲を食ったような顔の彼に、ロウは続ける。
「それなら問題ないですよね。もし本当にあの通り魔がルタさんを狙っているなら、あなたを守れますし、もしかしたら通り魔も捕まえられるかもしれませんし」
「おいおい……」
半ば冗談で言ったことだったのに真に受けられてしまって、ルタは珍しく少し戸惑った声を出す。
「本気かよ。マジで護衛するつもりか?」
断るならいまのうちだぞと言わんばかりに、いやむしろ、彼としては断ってほしかったのかもしれない。
だが彼女はうなずく。
「はい。提案したのはルタさんなんですから、責任持ってください。まさか前言撤回しませんよね」
「したいんだが……」
「お断りします。サージさん達に言わないのなら、あたしが守りますから」
断固として一歩も譲ろうとしないロウに、ルタはものすごい後悔したような盛大なため息を吐く。
「……めんどーくせーことになっちまった……」
それから二人は官憲の事務所に背を向けて再び歩き出すのだが、その道中でルタは再三尋ねるのだ。
「なあ、考え直さないか? おれなんかの護衛なんかしたっていいことなんか一個もないぞ。それにおれは一人でも大丈夫だからさ。な」
そういうふうにロウを追い払おうとしているのだが、彼女はその度に首を横に振るのだった。
「確かにルタさんは強いですが、万が一ってことも充分あり得ますから。それにさっきも言いましたけど、あたしは知り合いが死ぬのが嫌なんです。ルタさんもそのなかに入ってるんですから」
「……はあ……」
ロウの返答に、彼はため息をついてばかりだった。対してロウはなぜだか機嫌が少し良いように見えるのが、彼には不思議でもあった。
そうして視界の先にギルドの看板が見えてきたころ、ロウが彼に尋ねる。
「このあとクエスト受けるんですよね。あたしも一緒に行きますよ」
彼女にとって都合が良いことはもう一つあり、それが彼の戦いをこれからも間近で見れることだった。
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