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第百十二話 直接確かめねえといけねえ
しおりを挟むそのとき、ロウはルタがなにかを知っているなと感付いた。ルタの顔にも仕草にも明確な動揺の色や直感した気配は見られない。しかし……ここ数日ずっと一緒にいたからだろう、かすかな違和感を彼のその様子に感じ取ったのだ。
ルタがサージに聞いた。
「その料理屋はどこにあるんだ?」
「すみません、そこまでは……。気になるのなら、あとで調べておきましょう」
「頼む」
真面目な顔つきのルタに、サージも真面目な顔で応じる。この失踪届けとそれを提出した人物がなにかを知っているかもと思ったのだろう。
そんな二人のことを。
「…………」
ロウは黙ったまま見ていた。
その後、通り魔事件に関わるものではないかと思われるものが二、三件見つかった。いずれもルタが指摘したものであり、そのなかにはいち早く自分の分の書類を見終えた彼がロウやサージの分も目を通して、そして見つけたものも含まれていた。
「それではこれらの詳細をこれから調べて、何か分かったらご報告します」
「ああ、頼む。おれがいま住んでる場所の連絡先だ」
「分かりました。ではここに連絡致します。ロウさんには……」
「こいつにはおれから伝える。おっさんに二度手間を掛けさせるのもアレだろ」
ルタがロウを見ながら言って、思わず彼女も。
「は、はい……」
うなずいてしまう。彼になにか言いたい気もしたのだが、なぜか言えなかったのだ。
それからサージが二人を官憲事務所の入口まで見送ってきて、二人は事務所をあとにした。
特に目的地を話し合ったわけでもないのに二人は道を歩き続けていた。ロウが彼へと口を開く。
「ドフさんって、あの料理屋さんの店主さんの名前ですよね……?」
確信も確証もあったわけではない。ただその名前が出たときのルタに違和感を覚えたから、そうなのかもと思ったのだ。
ルタは彼女の問いには直接は答えずに、別のことを口にする。
「……おれがサージのおっさんに指摘した、通り魔の手掛かりかもしれないっていうあれらの書類は……テキトーに見繕ったものだ」
「え……?」
いったいルタさんはなにを言い出しているんだろう?
ロウは思わず彼のほうを見る。
「時間稼ぎだな。官憲がおっさんのことを調べ終わるまでの。いくつかの選択肢があれば、調査は分散されて時間は掛かる」
「…………、……捜査のかく乱ですよ、それって……」
「分かってる。だが、これはおれが直接確かめねえといけねえんだ」
「…………」
決心したような彼に、ロウはなにも言えなくなる。そんなことをしてはいけない、とか、もしなにかが起きたらどうするんですか、とか、言わなきゃいけないことはいくつもあるはずなのに、言えなかった。
代わりに口から出てきた言葉は。
「……いまから行くんですよね? あの料理屋に」
「……ああ」
ルタはうなずいた。
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