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第百十三話 歩みを止めない
しおりを挟むルタの顔はいままでで初めて見せるような真剣さに満ちていて、ロウが反対できるような隙間はなかった。
しかし尋ねておくことは、確かめておくことは、ある。
「……それって、通り魔の事件とは関係あるんですか……?」
「さあな」
「さあなって……」
本来の目的を見失っているのではないのか。彼女がそう疑問に思ったとき、それに答えるようにルタが口を開く。
「おれ達が失踪者のデータを調べたのは、そのなかに通り魔に殺されて隠蔽された奴がいるかもしれないと思ったからだ」
「……はい」
「そしておれの元パーティーメンバーはもれなく全員失踪し、いまだに見つかっていない。条件は合致している」
「……そうですね……」
「さらに、その最後にいなくなった奴の失踪届けを出したのは、顔見知りでもなんでもないはずのおやっさんだった。確かめる理由は充分だと思うが」
「…………、もしかしたらルタさんが知らないだけで、実は顔見知りだったのかもしれませんよ。それで心配になって……」
「それならそれでいいんだ。おれの杞憂で済むなら、それが一番だからな。だから、それを確かめるために、いまから聞きに行くんだ」
「…………」
彼は安心したいのだ。自分の知り合いへの疑惑を自分自身で晴らし、潔白と無実を証明し、バカな考えを持っちまったなと一笑に付したいのだ。
時刻は昼過ぎ。道や店には昼食を食べに行こうとする人々がいて、二人の思惑など気にも留めずに平和な日常を送っている。
そんな日常に自分達も帰るために、二人は歩みを止めない。やがて視界の先にいつも行く料理屋が映り込む。
開店中であることは自明の理であり、入口ドアにはめ込まれたガラスからなかの様子が覗き見えた。ニーサが客へ料理を運び、おやっさんがカウンターで料理を作っている。
いつもの光景。見慣れた光景。あのおやっさんが事件に関係しているとは、二人には思えない。
それをちゃんと証明するために、胸を張って無実を証明するために、目の前のドアを開けて二人は店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ! あ、ルタさんにロウさんっ」
ニーサが二人に声を掛けて、カウンターにいたおやっさんも二人のほうを見やる。
「ルタのヤロウか。毎日毎日飽きもせずに来やがって、そんなに俺のメシが恋しいか? それとも会いてえのはうちの店員のほうか?」
「ちょ、ちょっと店長!」
おやっさんの言葉にニーサが声を上げ、そのあとルタから視線をそらすと口元の辺りを持っていた銀盆で隠すようにする。その顔はほのかに赤くなっているように見えた。
そんなニーサの反応に、おやっさんは大きなため息を一つついて。
「まったく、てめえが来るといつもこうだ。さっさと何とかしやがれ鈍感ヤロウ」
そうルタに文句を言った。しかしそれを聞いているのかいないのか、ルタとロウはいつにも増して真面目な顔でおやっさんのことを見返すだけだった。
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