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第百二十五話 『魔力』
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地上数十センチの空中を飛んで、悪魔がルタへと迫っていく。ルタは拳を握り込むと。
「はっ、そっちから近付いてきてくれんのか。助かるぜ、殴んのに」
高速で移動しているとはいえ、動き自体は直線的なため予測は容易かった。悪魔がたどり着くであろう場所に、ルタは一足跳びで踏み込むと拳を振り抜いた。
が。逆立ちをするように空中の身体を動かして、悪魔はその拳を簡単に避けてしまう。
「ふむ。やはり人間にしては強いな。あの女が仕留めきれないわけじゃ」
そう言いながら悪魔はルタの背後へと降り立つ。彼がすぐさま振り返るが、その瞬間には視界から逃れるように横側へと滑るように移動していく。
(くそっ、速え……!)
人間を超越した存在というのはダテではないらしい。悪魔の動きは思っていたよりもずっと素早く、目で追うのがやっとだった。
それでも先ほどのように直線的な動きならまだなんとかなりそうだが、実際はそうはいかない。フェイントを交えた不規則な動きをされてしまい、予測が難しくなっていた。
「おらあっ!」
悪魔の動いた先を狙って回し蹴りをするのだが、その足先は悪魔の残像を通り過ぎて空振りしてしまう。直後、頭上から声が降る。
「かっかっかっ。例え人間としては強くても、結局悪魔には勝てんということじゃな」
瞬間、頭頂部に悪魔の手が触れる感覚がして、同時にルタの身体は固い地面へと叩きつけられていた。
「ぐふ……っ⁉」
「このまま殺すのは簡単じゃが、しかし惜しい気もするの」
目だけで見上げる視界には空中に浮かぶ悪魔がいる。その身体はルタには一切触れていないのにもかかわらず、何故だが彼は身動きができなくなっていた。
「動かねえ……これは……っ⁉」
いったいなんのスキルだ⁉ 彼が抱いた疑問に答えるように、悪魔がニヤリとしながら言う。
「そういえば、この辺りの人間は『魔力』が使えないんじゃったな。その代わりとして、『スキル』とかいうやつを身に付けていたか」
「魔力……だと……っ⁉」
話に聞いたことはあった。この国とは別の国……帝国や王国などでは『魔力』と呼ばれる力が存在すると。
それは摩訶不思議な力であり、自然界の法則や人間の限界を超えたことができるとかなんとか。さらにはその魔力をエネルギーにした『魔法』とやらもあるとかないとか。
(ただのうわさだと思ってたが、悪魔がいるなら実在するってことか……っ⁉)
実際に自分の目で見たことは一度もなかった……いままでは。だがいま、この目で見ている。
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