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第百二十四話 あたしが負けても

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(……っ……!)

 ギリ、と、彼女の襲撃を受け止めながらロウは奥歯を噛みしめる。

(絶対に助ける! あたしが! ルタさんにも任されたんだから!)

 ロウはいま一度、確固たる決意を固めた。たとえ仮にルタが悪魔を倒すことに成功したとしても、ニーサを助けられなければ意味がないのだから。
 彼女がいない結末など、誰かが犠牲になる結末など、敗北と同義なのだから。
 と。そこでロウは思い出した。先ほどルタが彼女に言ったことを。

(そうだ……なんとかして無力化してくれ……ルタさんは確かにそう言ったんだ……)

 勝ってくれ、でも、倒してくれ、でもない。無力化してくれ……それはこの戦いの目的は勝ち負けではなく、ニーサを無力化すること、そして救出することであることを示している。

(そうだ……あたしの目的は勝つことじゃない……ニーサさんを救うこと……つまり……)

 それはつまり。

(あたしが負けても、ニーサさんを救えればそれでいいんだ……!)

 それは逆転の発想かもしれないし、あるいはただの無茶な行動かもしれない。だがいずれにしろ普通に戦っても敗色濃厚であるならば、あまり変わりはしないのかもしれない。
 何十度目になるか分からないナイフの切っ先がロウに迫る。これまではそれを剣身で受け止めて、次の一撃に備えるか、あるいはすぐに詰められるとしても距離を取っていた。
 が。
 ロウはそれをしなかった。
 手に持つ長剣を地面に落として、迫りくるナイフを甘んじて受け入れた。

「…………っ」

 腹部に衝撃。直後に全身を走る痛み。頭に電撃を浴びたように痺れが発生する。一瞬手放しかける意識を根性でまた握りしめる。
 だが、ニーサの動きもまた、そのとき一瞬停止していた。彼女の心の深層が衝撃を受けて、続くはずだった次の動作を取り消させたのだ。
 その一瞬の時間を、ロウは見逃さなかった。荒野の地面を一歩踏み込んで、目の前にいるニーサの身体を抱きしめる。
 絶対に成功する保証はなかった。だが希望は持っていた、確信にも似た希望を。ニーサは悪魔に操られていながらも、絶対に人間を殺さないように深層心理で抵抗していたのだから。

「……助けに来ましたよ……ニーサさん……」

 激痛のせいか、意識していないのに声がかすれてしまう。まるで彼女の耳元でささやくように言った言葉が、ナイフからニーサの手を離させていた。
 そのなかで動いたのは口元と目元であり。

「……ロウさん……ありがとう……ございます……」

 かすかな光を取り戻したニーサの瞳から涙がこぼれていた。

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