124 / 131
第百二十四話 あたしが負けても
しおりを挟む(……っ……!)
ギリ、と、彼女の襲撃を受け止めながらロウは奥歯を噛みしめる。
(絶対に助ける! あたしが! ルタさんにも任されたんだから!)
ロウはいま一度、確固たる決意を固めた。たとえ仮にルタが悪魔を倒すことに成功したとしても、ニーサを助けられなければ意味がないのだから。
彼女がいない結末など、誰かが犠牲になる結末など、敗北と同義なのだから。
と。そこでロウは思い出した。先ほどルタが彼女に言ったことを。
(そうだ……なんとかして無力化してくれ……ルタさんは確かにそう言ったんだ……)
勝ってくれ、でも、倒してくれ、でもない。無力化してくれ……それはこの戦いの目的は勝ち負けではなく、ニーサを無力化すること、そして救出することであることを示している。
(そうだ……あたしの目的は勝つことじゃない……ニーサさんを救うこと……つまり……)
それはつまり。
(あたしが負けても、ニーサさんを救えればそれでいいんだ……!)
それは逆転の発想かもしれないし、あるいはただの無茶な行動かもしれない。だがいずれにしろ普通に戦っても敗色濃厚であるならば、あまり変わりはしないのかもしれない。
何十度目になるか分からないナイフの切っ先がロウに迫る。これまではそれを剣身で受け止めて、次の一撃に備えるか、あるいはすぐに詰められるとしても距離を取っていた。
が。
ロウはそれをしなかった。
手に持つ長剣を地面に落として、迫りくるナイフを甘んじて受け入れた。
「…………っ」
腹部に衝撃。直後に全身を走る痛み。頭に電撃を浴びたように痺れが発生する。一瞬手放しかける意識を根性でまた握りしめる。
だが、ニーサの動きもまた、そのとき一瞬停止していた。彼女の心の深層が衝撃を受けて、続くはずだった次の動作を取り消させたのだ。
その一瞬の時間を、ロウは見逃さなかった。荒野の地面を一歩踏み込んで、目の前にいるニーサの身体を抱きしめる。
絶対に成功する保証はなかった。だが希望は持っていた、確信にも似た希望を。ニーサは悪魔に操られていながらも、絶対に人間を殺さないように深層心理で抵抗していたのだから。
「……助けに来ましたよ……ニーサさん……」
激痛のせいか、意識していないのに声がかすれてしまう。まるで彼女の耳元でささやくように言った言葉が、ナイフからニーサの手を離させていた。
そのなかで動いたのは口元と目元であり。
「……ロウさん……ありがとう……ございます……」
かすかな光を取り戻したニーサの瞳から涙がこぼれていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
60
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる