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第百二十八話 笑い
しおりを挟む「いまの爆発って……」
正気を取り戻したニーサに肩を借りながら、ロウがルタの元まで来てつぶやく。彼もまた二人を見ると。
「終わったんだな」
「はい」
上着の腹部の辺りが破けていて、そこに刺し傷の痕が見えていた。ルタの視線に気付いたニーサがロウに代わって説明する。
「わたしを助けるためにロウさんが怪我をしてしまって……ポーション薬で応急処置したんですけど……」
「そうか。町に帰ったら病院行かねえとな」
「…………、あの……」
ニーサが言おうとしたとき、ルタは目の前で燃えている炎を見ながら誰にともなく言い始めた。
「水が空から降ってきたのは、上空にあった雲を、雲になる前の状態に戻したんだ。おれの『未熟』スキルでな」
「「…………」」
未熟スキルは対象を未熟な状態にするスキルである。レベル1の技はデバフであったが、それ以上のレベルの技なのだろう。
「そのあとの水蒸気は水をさらに戻したもの。それが消えたように見えたのは……」
「……戻したんですね。水素と酸素に」
「……ああ」
感付いたロウの言葉にルタが応じる。
水や水蒸気は水素と酸素の結合によって形成されている。それを未熟スキルによって結合前の状態に戻したのだ。
「だから、いまの爆発……マッチの火で引火させて……」
「ご名答」
「「…………」」
一拍の間。ニーサが口を開く。
「……死んだんでしょうか……?」
悪魔のことを聞いているのは間違いなかった。疑問形なのは、心の奥底ではあれで死ぬとは思えないと感じているからであり……それはロウも、またルタも同様であるらしい。
「さあな。なんせ悪魔だからな」
「「…………」」
三人の視線が炎へと注がれる。ルタはなにか動くものがないかと注意深く、ロウとニーサは緊張気味に。
そして彼らの予感は悪い方向で当たっていた。荒野に燃え上がる炎のなかに、ゆらりと一つの影が浮かび上がったのだ。
「……二人は離れてろ。巻き込まれねえように、うんと遠くに」
「「……はい……っ」」
ロウとニーサは素直にその場から距離を取っていく。彼は口にこそ出さなかったが、いまの二人は激しい戦闘ができる状態ではない。ロウは腹部に傷痕があり、ニーサは潜在能力の解放がなくなっていた。
炎のなかで立ち上がった影は両手を広げて空を見上げる姿勢を取ると、高らかな笑い声を上げた。
「あははははっ! まさかこの我輩がこうなるとはのう!」
心からおかしそうな、あるいは楽しそうな笑い。久しぶりに歯応えのある相手を見つけたというような。
その背中にあった翼が大きく広がり、一度バサリと羽ばたかせた。巻き起こった風によって周囲の炎が消し飛ばされていく。
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