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53 処罰
しおりを挟む「この度はとんだ失礼をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
シューグ家の屋敷、応接間、そのソファの横で画商は深く深く腰を曲げて頭を下げていた。
「危うく高名なシューグ家のご夫人に偽物の絵をご購入させかねないことをしてしまい、のみならずメイドさんに言われるまで私自身が気付けなかったという失態まで晒してしまう始末」
がばっと、画商が絨毯の上にひれ伏して土下座する。
「またわざわざご紹介していただいたコレート夫人の顔まで潰してしまう愚行、もはやこの命を捧げて償っても償いきれません!」
「「「…………」」」
ドロナとコレートとメイド長は無言で画商のその様子を見下ろしていた。アリエスだけがはらはらとしていて、しかしドロナ達のいる手前、何も言えずに同じく見ていることしか出来ていない。
画商は額を絨毯にこすりつけるようにして、懇願した。
「しかし私にも家族がいます! どうかこの処分は私だけに下して、家族だけはどうか、どうか切に、何も処分を下さないでください! 私だけの命だけでご勘弁してください!」
画商は目尻に涙さえ浮かべていた。
たとえ当人に騙す気がなく、当人自身が被害者の一人であったとしても、貴族に迷惑を働いたという事実は変わらない。たとえ法律的にはお咎めがなかったとしても、貴族の権力でもって当人に処罰を下すのが可能であり、普通だった。
シューグ家にはそれが出来た。コレート家にもそれが出来た。ドロナやコレート夫人が一言、たった一言発するだけで、画商やその家族の人生は破滅するのである。
切れ長の鋭い目で画商を見下ろしながら、ドロナが口を開く。
「……確かに、貴方のやったことは我がシューグ家を愚弄しかねないことです。貴方には然るべき処罰を下さなければなりません。これは当然のことです」
「……っ」
画商の身体がびくりと震える。いったいどんな処罰になるのか……火刑か市中引き回しか、それとも斬首か矢殺か、どんなに軽いものでも流刑つまりこの街から遠方に追放されて、二度と家族とは会えないだろう。
画商はぎゅっと目を強く強くつぶる。たとえどんな処罰を受けたとしても、自分だけで済むなら、家族が助かるなら安いものだと、覚悟も決心も決まっていた。しいて後悔があるとすれば、せめて最後に家族に一目会って別れの言葉を交わしたかったことくらいか。
画商のそんな様子を見て、たまらずアリエスは口を開いていた。ドロナに訴えかけていた。
「ど、ドロナ様っ! 今回もっとも悪いのは絵を偽造してタル様に売りつけた者です! タル様自身、わたし達と同じ被害者に過ぎません! だから処罰を下すのは……」
「アリエスさんは黙っていなさい。これはシューグ家とコレート家の問題です。我が家に雇われているにすぎない、一メイドにすぎないアリエスさんには関係ありません」
「しかし……っ、絵の偽造を最初に暴いたのはわたしです! ならば、タル様の処罰の権利はわたしにもあるはずです!」
コレートがおぉという顔をする。ドロナがアリエスを見た。ふっと不敵に口の一端をかすかに上げる。
「貴方も言うようになりましたね。昨日出会い、まだ見習いメイドとして一日目だというのに。私にそんな口を利くということは、貴方も彼の処罰の一部を肩代わりする覚悟があるということですね?」
「……っ⁉」
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