【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)

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65 怒らせてはいけない

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 シューグ家のサクセスストーリーは皆が知っていた。たった一代で巨万の財を築き、政界などの各界に多大なる影響を与える存在……。
 シューグ家が声をかければ、ただそれだけで様々な人物、大物が腰を上げて動き出す。それでいてシューグ家の人間自身は社交界に滅多に姿を現さず、ある部分では謎に包まれた一族。

 その影響力の大きさと未知性から、貴族の間ではこう言われていた。

『シューグ家は絶対に怒らせてはいけない』

 これらのことから、教室内がざわめきに包まれたのは半ば当然のことだった。
 ……実際にアリエスが知るシューグ家は、当主は休日にパジャマで過ごすし、奥方は説明が足りずに困惑させるし、娘は寝坊したり遊び回ったりで元気があり余っていて稚気が抜けていないしで、どこにでもいるような普通の家族だったのだが。

 そんなシューグ家の登場に教室内が包まれるなか、聖女と呼ばれるベリーは一瞬だけ笑顔を消して真面目な顔になっていた。しかしそれは本当に一秒にも満たない瞬間であり、シャンディーが頭を上げたときにはもう、再びさっきと同じ笑顔を張り付けていた。
 ベリーは顔の横で手を合わせながら。

「まあ! シューグ家のお嬢様がこんな可愛らしい方だったなんて、ワタクシ感激ですわ! そうだ!」

 何かを思い付いたように、ベリーはアリエスのほうへと振り返りながら。

「せっかくですから、シャンディーさん達も合わせて、皆さんで昼食会を開きましょう! それならシャンディーさんはアリエスさんと一緒に食べられるし、ワタクシ達も嬉しいし、皆さんが喜べますわ!」

 どうやらベリーのなかで昼食会は決定事項であるらしい。彼女はまたシャンディーのほうを向くとにっこりと言った。

「ね、いいでしょう、シャンディーさん?」
「…………っ」

 しかしシャンディーはとっさには答えず、びくりと身体を微動させる。ベリーの言葉は確認の問いだったが、実際に彼女が醸している雰囲気は強制しているようだとシャンディーには感じられたのかもしれない。

「えっと、あの、わたしはアリエスお姉さんと……」

 シャンディー自体はみんなでお昼を食べるのではなく、アリエスと友人との小さくも親しい集まりで昼食を食べたかったのだろう。だからシャンディーがそのことを伝えようとしたとき、その言葉の途中でアリエスが口を挟んだ。

「シャンディー、皆さんと一緒に食べましょう。せっかく昼食会を開いてくださるというのですから」
「え……」

 アリエスはシャンディーを見つめていた。その顔は至って真面目であり……だからこそシャンディーのほうも何かを感じ取ったのだろう、アリエスへと小さなうなずきを返す。

「……うん……そうだね、そうしようか……」

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