32 / 79
【初クエスト完了後、ホストクラブにて】 2
スティーブとネルンはホストクラブの店内にいた。
受付対応したスタッフは、男であるスティーブを見て訝しんだ顔をしていた。スティーブはスタッフには構わずに店内に進み、ネルンが、
「キャストは付けなくていいです」
と言うと、そのスタッフはさらに変な顔になっていた。
そんなスタッフのことはともかくとして、スティーブとネルンは受付嬢がいるテーブルの後ろの、皮張りのソファに隠れるようにしていた。
ソファ越しに受付嬢が楽しそうな声で言っていた。背後のスティーブ達に気付いている様子はなく、すでに少し酔っているようだった。
「でさー、そいつ結婚して!とか言ってくんのよー。マジ、ハアッ⁉ってなっちゃったー」
「うわッ、そいつ馬鹿じゃねぇッ⁉ 君をナンパするなんてさッ」
「ホントホントッ、全然タイプじゃないっての! 駆け出しのFランクで小遣い稼ぎのクエストしか出来ないくせにさァー」
「Fランクとか滅茶苦茶弱えーじゃん! アハハッ、なんなら俺がそいつを追っ払ってやろーか? 可愛い君に近付くんじゃねーよって」
「キャーッ! カッコイイーッ! アハハー!」
受付嬢が手を叩いて大きな笑い声を上げる。
そんな彼女達の会話を盗み聞きして、
「…………」
「……スティーブ様……」
「…………」
ネルンの小さな声に、スティーブは返事をしなかった。
ただ普段は見せないような、至極真面目な顔をソファの向こう側を見るように向けていた。
ホストが受付嬢の肩に腕を回して、耳に顔を寄せてささやくように言う。
「そんなことよりよ、お金、ちょっと貸してくんねーかな? ちょっと使い過ぎちまってさ」
「えー、またー?」
「店が終わった後、二人きりで楽しいことしてやるからさ」
「もぉー、特別だよぉー。いくらぁー」
嬉しそうな顔をしながら受付嬢が財布を取り出す。
「ほんのちょっとさ、百万ゴールドくらい」
彼女の動きは、ホストのその言葉で凍りついた。思わず男のほうを見る。
「え?」
「小切手あるだろ? なければ店の奴に持ってこさせるからさ。それにちょちょいとサインしてくれるだけでいいんだ」
「ま、待ってよー、百万は高すぎぃー。もぉー、冗談が上手いんだからぁー。十万くらいだよねぇー」
彼女は冗談だと思ったらしい。そう思いたいのかもしれない。
しかし男は言った。今度は有無をいわせぬような、低い声で。
「冗談じゃねえよ。本気も本気。百万くれたらいっぱい可愛がってやるからよ」
受付嬢は酔いが覚めたようだった。
「ちょっとやめてよ。いくらなんでもそんな金出せるわけないじゃん」
「何言ってんだ、借金してんだろ、この俺に会いに来る為によ」
「それは……」
「その借金を追加でもう百万してくれりゃあいいだけなんだ。安心しろって。すぐに稼いで返してやっからよ」
「そんなこと言って、前に貸した金だって返してもらって」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよッ!」
男が彼女の顎を片手で掴んだ。
「いいからさっさと貸しやがれ! 借金するのが嫌なら身体を売って稼ぎやがれ! 俺のこと愛してんならそれくらいのこと出来て当然だよなァッ!」
「ッ⁉」
「ビッチのテメーにはそれくらいしか利用価値が」
そのときスティーブが立ち上がり、テーブルの上にあったコップを手に取って、そのホストの背後からコップの水を頭に落としていった。
バシャァッ。
ホストも受付嬢も他のスタッフ達も、一瞬なにが起きたのか理解できていなかった。
あなたにおすすめの小説
悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!
ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」
特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18)
最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。
そしてカルミアの口が動く。
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」
オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。
「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」
この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
再会の約束の場所に彼は現れなかった
四折 柊
恋愛
ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。
そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。