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【第三部 悪魔の末裔】
51 【第三部 悪魔の末裔】 【完】
「師匠はこうなることが分かってたのか?」
後日。孤児院の屋根の上にて。そこに師匠がいることに気付いたシャイナが、そこまでよじ登って、師匠の隣に座って聞いていた。
「分かってたから、ディアを訓練したんだろ? 最悪の事態を避けるために」
「…………、……さぁねぇ、なんのことだい?」
腕を枕にしながら寝転んでいた師匠は、とぼけたふうにそう答えた。口にはキャンディーのスティックをくわえていて、ちろちろと口だけでスティックの先を動かしていた。
「……とぼけやがって……」
まあ、いつものことではあるが。
「じゃあ別のことを聞くけどよ。ウェルス達は大昔から生きてるんだろ、なんでそんなに長生きなんだよ?」
「……わたしに聞くなよ。本人に聞けよ。チェストはディアちゃんの家に転がりこんでるんだろ?」
「知ってんじゃねえか、そのこと。やっぱり分かってて……」
「まったく、さっきからうるさいなぁ。こうして綺麗な青空を眺めて、たそがれてたのにさぁ」
「黄昏じゃなくて昼間だろうが」
「うっさい」
ぱっ。瞬き一回の間に、師匠の姿は目の前から消えていた。辺りを見回したが、もうどこにも見えなかった。
☆
ディアは夢を見た。
夢のなか、目の前にはとても綺麗な女性がいた。紫色の長い髪……どこかで見たことがある気がして、しかしどうしても思い出せなかった。
【はじめまして。それとも、ひさしぶりかな?】
どこかで聞いたことがある声。
【私はヴァルト。あなたの遠いご先祖様、ってことになるのかな?】
あなたが……。
【まずは謝らないとね。うちの使用人が迷惑かけて、本当にごめんね】
ヴァルトが頭を下げる。ディアは慌ててなにか言おうとしたが、なぜだか声を出すことができなかった。夢だからだろうか。
【私があなたの身体を乗っ取って勝手なことをするってことはもうないから、安心してね】
頭を上げてヴァルトはそう言う。ディアの身体はディアだけのものなのだから。
【それにしても不思議な感じね……なんだか泣きたくなってきちゃう。あなたを見てると、私の子を思い出しちゃって】
ほろりと目を潤ませる彼女に、ディアは胸が苦しくなってしまう。そう……彼女は我が子を残して……。
【まあ、あの世で再会して仲良くやってるんだけどね】
…………。
……まあ、いま笑顔でいられるなら、いっか……。
【私の子孫なんだから、あなたは私の子供も同然。お母さんって呼んでもいいからね。あ、でもおばあちゃんって呼ばれたら少しショックかも】
あははとヴァルトは笑う。話に聞いていたイメージとは違って、明るくて人懐こい笑顔だった。見た者も笑顔にしてしまうような、そんな笑顔だった。
【……もう時間みたい。それじゃあね、ディアちゃん。あなたのことは、いつも見守っているからね】
小さく手を振りながら、ヴァルトの姿が薄れて消えていく。それとともに周囲の空間も次第に白い光に包まれていって……。
「…………」
ちゅんちゅん。ディアは目を覚まして上体を起こしていた。窓のカーテンの隙間からは朝の光が差し込んでいて、ベッド下の床には布団で眠るチェストがすやすやと寝息を立てていた。
「…………ヴァルトさん…………」
いつもの一日が、始まる。
☆
「いらっしゃいませ、当ギルドへようこそ、シャイナさん、エイラさん」
ギルドの受付スペースに座るディアが挨拶して、シャイナも応じる。
「おう。……とりあえず、謝っとかないとな。ごめん、ディア」
「えっ、なんのことですか?」
「いやほら、ウェルスの本当の企みを見抜けなかったから。俺もまだまだだなって」
「……気にしないでください、いまこうして無事なんですから。それより、クエストを受けに来たんですよね?」
ディアの気遣いに気付いて、シャイナも応じた。
「……おう。なんかちょうどいいクエストないか? 身体がなまってるから、勘を取り戻さないといけないからな」
エイラが文句を挟む。
「なまってるって、ばりばりミストルテイン使ってたじゃん」
「あれはあれだ、火事場の馬鹿力ってやつ」
「自分で馬鹿って認めるんだ」
「誰が馬鹿だっ。いや……馬鹿じゃないよな、俺……?」
「……どーだか。少なくとも、気付いてないことはあるみたいだし」
「え⁉」
「ねえ、ディアさん?」
話を向けられて、ディアは思わずにこりと返した。
「ええ」
「なん、だと……? な、なんなんだ、俺が気付いてないことって……?」
エイラは答えなかった。ディアも答えず、とぼけたように。
「さあ、なんでしょうね? それより、ちょうどいいクエストがあるのでご紹介しますね」
「わぁ、本当? シャイナ、今日はそのクエストにしよっか」
「いやそんなことより教えてくれよっ、俺が気付いてないことってなんなんだよっ?」
「「さあ?」」
普段通りの平和な光景がそこにはあった。
☆
――遠い遠い、はるかな昔――。
とある海岸の河口付近を、一人の人物が釣竿を持ちながら歩いていた。
「さーて、今日は魚でも食うぞー。刺身に寿司に鉄火丼に、焼き魚もいいし……」
長い黒髪に黒い瞳。着ているのは黒いローブという、全身黒ずくめの人物だった。年齢は十代後半くらいだが、まとう雰囲気はなぜか人生や世界を知り尽くしているような、どこか超然とした雰囲気だった。
「って、ん……? 泣き声……?」
視界の先、河口のそばの浜辺に打ち上げられている小さいものを見つけて、その人物は眉を動かす。濡れた毛布にくるまれた赤ん坊だった。
「なんでこんなところに赤ちゃんが? ん、こりゃあ……?」
赤子を拾い上げ、腕に抱えたその子の首にはペンダントが着けられていた。そのペンダントを開けると、一枚の小さな写真がはめ込まれていた。
男性と、赤子を腕に抱く女性……家族写真のようだった。
「…………、……こいつぁ、ヴァルトじゃないか、稀代の天才魔術師とかっていう……。確か、闇魔源のやつに……。…………」
人物は、いまだ泣いている赤子を見つめる。そしておもむろに、赤子を抱える手を頭上に高く掲げた。
「決めた。きみの名字は今日からヴァリティーだ。名前のほうは……まぁ、あとで良い名前をつけてあげようかな、似合う名前を」
人物は続けて言う。
「わたしのことは師匠と呼びたまえ。あ、まだしゃべれないか、あはは」
高い高いしたと思ったのだろう、人物の笑い声と重なるように、幼い赤子はきゃっきゃっと笑い声を出していた。
【最強のFランク光魔導士、追放される】
【第三部 悪魔の末裔】
【完】
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