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第一章 レイン=カラーの怠惰な一日
第四話 にげんめ
しおりを挟む二時限目の授業。科目は魔法実技。実際に魔法を使用し、その特徴や扱い方を学ぶ授業だ。
「今日は風魔法について教える。風魔法にはいくつもの種類があるが、まずは物を浮かせる浮遊系の魔法からだ」
黒マントを羽織った男教師が説明している。場所はグラウンド。クラスメイト達はある程度距離を取り、等間隔に立ち並んでいた。まるで行進準備中の軍隊みたいだ。クラスの女子達は授業が始まる前に、スカートの下にジャージやズボンを着ていた。
「各自、さっき配ったボールを持っているな。それを浮かしてもらう。手のひら大のボールだとしても重量はある。それを持ち上げるだけの風力と、維持する力、その二つが必要だ」
男教師が話しているが、目を閉じながら顔を伏せてテキトーに聞き流す。
「目標は十秒。ボールが飛びすぎたりしないよう、出力には注意するように。では始め!」
うおーっ、だの、きゃあーっ、だの、クラスメイトの声とボールが跳ねる音が木霊する。
それらを無視してなおも寝た振りを続行していると、誰かが近付いてくる足音。そして男教師の厳つい声。
「……起きろ、レイン=カラー」
「…………」
「……寝た振りをするな。ちゃんと授業に取り組め。皆と同じように風魔法を使ってボールを浮かせるんだ」
「…………」
風魔法に四苦八苦するクラスメイトのざわめきとボールの跳ねる音の隙間から、クスクスと笑う声。
「……レイン=カラー」
「…………」
男教師がなおも何かを言おうとする気配を漂わせた時、橫側から一陣の風が吹いてきた。
それに乗って飛ばされてくるであろう物を、舟を漕ぐような首の動作で回避する。
「……⁉」
男教師の驚く気配。風が吹いてきたほうへ声を上げている。
「こらっ! 風魔法の出力には気を付けろと言っただろうが! ボールが当たるところだったぞ!」
「すいませーんっ。つい魔力を込め過ぎちゃって」
「……これからは気を付けろ。飛んだボールは自分で拾いに行くように」
「はーい」
男教師が再び顔を向けてくる気配。少しだけ諦めたような声音で。
「……レイン=カラー。終わりの合図を出すまでに、課題に取り組むように。分かったな」
「…………」
「……はあ……」
溜め息をついて男教師が他のクラスメイトのほうへと歩いていく。
さっきボールを飛ばしてきた奴だろう。近くを走る足音に混ざって。
「チッ、外れたか。運のいい奴だな」
聞こえよがしな舌打ちが聞こえてきた。
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