かつて天才と言われた落ちこぼれ。ムカついたので自由に生きてたらいつの間にか最強と言われるようになってた件

第二章 ゾディアックにまつわる面倒な連中

第十二話 どらごん

　挑発にモードはイラついたようだ。奴は青筋を浮かべながら。

「ハッ！　一年如きが生意気言ってんじゃねえぞ！　そんなに大怪我してーんなら、見せてやるよ！」

　奴が右手を上へと伸ばす。その手のひらの先に巨大な召喚魔法陣が浮かび上がり。

「『我が名はモード！　我が名において命ずる、我と契約せし者よ、我に刃向かう敵を殲滅せよ！　グランドドラゴン！』」

　より上位の魔物を呼び出すための召喚呪文。奴のその口上に応じて、巨大な召喚魔法陣から一体の巨大なドラゴンが姿を現した。
　黄土色に近い体色をした、おそらく数百年は生きていると思われるドラゴン。
　ドラゴンとの召喚契約はただでさえ難しいが、その中でも上位種であるグランドドラゴンを呼び出せるというのは、さすが天才集団のゾディアックの一人なだけはある。

「行け！　グランドドラゴン！」
「グオオオオッ！」

　奴の命令に呼応して、グランドドラゴンが炎のブレスを吐き出してくる。

「ハッ。本気で殺りに来てやがんな」

　ついでにこの訓練施設も壊しに来てやがる。まあそれはどうでもいいとして。
　床一面を覆い尽くすほどの炎を避けるには、上に向かうしかない。空中に魔力で出来た立方体の塊をいくつも出現させて、それを跳び移って炎を回避する。
　と、その時、目の前に大口を開けたドラゴンが迫ってきていた。

「テメーならこれくらいの炎は簡単に避けると思ってたぜ！　だがこれで終わりだ！」

　鋭い牙の並ぶ口が閉じられようとする。……が、その寸前で。

「おい、いつ食べた奴なのか知らねえが、魔物の肉が挟まってんぞ。ちゃんと歯磨きしてんのか？」

　文句を言うと同時に、手にした魔力剣でドラゴンの口から顎、そして首元までを一気に斬り裂いていく。

「まあ、もうそんなことする必要もねえがな」
「な……っ⁉」

　そして間髪入れずに、ドラゴンの巨体を足場にして蹴りつけると、瞬時にモードの眼前へと迫っていく。

「チェックメイト。俺の勝ちだ、モード=サー」
「……ッ⁉」

　奴の首筋に魔力剣を押し当てながら、そう言った。