かつて天才と言われた落ちこぼれ。ムカついたので自由に生きてたらいつの間にか最強と言われるようになってた件

はくら(仮名)

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第四章

第七話 ひょうり

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 家から一番近いコンビニへと入る。

「いらっしゃいませー」

 ユキではない。店内のどこかにはいるかもしれないと思ったが、視界の届く範囲には見当たらなかった。
 まあ、いようがいまいがどっちでもいい。話し掛けてきても無視するだけだ。
 炭酸ジュースを手に取り、ついでにスナック菓子も二、三個持ってレジへ。

「袋は要りますか?」

 うなずく。代金を払い、店員から品物の入ったレジ袋を受け取る。そして店を出た時、視界の端にある店の裏口から出てくるユキを見つける。
 ちっ。事務室のほうにいたのか。向こうも気が付いたようで、声を掛けてきた。

「あら、こんばんは、レイン=カラーさん」

 学園の授業もあるのにこんな時間までアルバイトとはご苦労なこったな。と思ったが言わずに、無視して背を向ける。

「あらあら、無視ですかそーですか」

 皮肉混じりの微笑が聞こえたが、無視し続けて帰宅の夜道を歩き始める。すると何を思ったのか、ユキも同じ道をついてき始めた。
 家までの距離は遠くない。すぐに視界の向こうに見えてきてはいる……が、いま家の前で立ち止まったらどこに住んでいるかがバレちまう。
 仕方なく家の前を通り過ぎ、数分歩いた先で立ち止まる。その場で身体を後ろに向かせて、ユキを見据える。

「ついてくんじゃねえよ。てめえもストーカーか」
「いいえ。少しだけあなたとお話がしたかったんですけど、無視されてしまったので」
「ちっ。なら用件をさっさと言え。そんで即座に消えろ」
「あらあら。一応、わたしは先輩なんですけどねえ。言い方が乱暴じゃありませんか?」
「いいからさっさと言え」
「あらあら」

 奴は微笑み続ける。まさか本当におかしくて笑っているわけではないだろうが、作り笑いの上手い女だ。
 そう思っていた次の瞬間、奴の左目だけが四白眼となり禍々しい視線を浴びせてきた。それとともに。

「くそ生意気な後輩だぜ。可憐な美少女のわたしがせっかく話し掛けてんだ、泣いて喜ぶのが普通だろうがよお」

 口調がまるで不良のように野蛮なものへと変化する。
 いきなりの変化に、思わずニヤリとしてしまった。

「へえ、それがてめえの本性ってわけか。なるほどな。サフィが言っていたのはこのことってわけか」

 いままでの優しく柔らかな雰囲気から一転して、粗野で攻撃的な雰囲気。サフィが忠告してくる理由もうなずける。

「かっかっかっ。もっと驚くかと思ったんだがなあ」
「はっ。てめえの魔力の波動は研ぎ澄ましたナイフみてえだったからな。サフィからの忠告もあったんで、何か裏があるとは思ってたんだよ」
「かっかっかっ。なるほどねえ。こいつぁ、予想以上に油断出来ねえなあ」

 まるでチンピラや盗賊のような笑い声を出すユキは、確かにいままでの彼女とは違っていた。

「で、てめえの話ってのは、その本性のことか?」
「いいや違うね。わたしがてめえに言いたいことは、ただ一つ、ゾディアックには絶対に関わるなってことだ」
「言われるまでもなく、関わるつもりなんか微塵もねえよ」
「どうだかねえ。ゾディアックには数多くの恩恵が与えられる。学園生のほぼ全員がそれを望むのに、てめえだけが拒否るなんて信じられるかよ」
「てめえが信じようが信じまいが、事実だ。俺は関わる気はない。つーか、関わるなって言っといて、そのてめえ自身が関わってきてんじゃねーか」
「…………」

 それもそうだと思ったのか、ユキが黙り込む。しかしそれも少しの間で。

「とにかく警告はしたからな。これ以上面倒なゾディアックが増えたら、わたしがさらに面倒くさくなるだけなんだよ」
「へえ。面倒くせえのが嫌いなのは俺も同じだがな」
「他にも魔物討伐の功績が減ったり、やらなくてもいい作業が増えたり、とにかく面倒くさすぎるんだよ」

 ちっ、と最後にユキは聞こえよがしに舌打ちをして。

「あばよ。くそ生意気な後輩」

 背中を向けると、夜道を歩き出していった。

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