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第四章
第十三話 とうえい
しおりを挟むサフィの言葉は無視した。言われたから何だというのだ、このワイバーンを討伐することに変わりはない。
しかしその足を強制的に止めさせるように、ワイバーンとの距離の間、目の前に幾振りもの剣が地面へと突き立っていく。
「ちっ。なんだこりゃ」
まるで壁のように行く手を阻むそれらに、ザザザッと、さすがに急ブレーキをするしかない。それらの剣の一振り一振りからは魔力が発散されていて、ただの形だけの武器ではないことが予想されたのもあったからだが。
「魔剣召喚ってやつさー。俺が召喚出来るのは、なにも魔物だけじゃないんでね」
サフィから少し離れた場所に立つモードがひょうひょうとしたふうに片手を振っている。こんなときでもチャラい奴だ。
「それにしてもユキに勝っちまうとはねえ……ユキのそんな姿、初めて見るぜ」
「…………」
モードの言葉に、それまで横座りでうなだれていたユキが顔を上げてそのほうを見やる。その視線に覇気は感じられず、ただ名前を言われたから反応したというようだった。
サフィが言ってくる。
「レイン=カラー。そのワイバーンを討伐するのは、その言葉がウソかどうか確かめてからでも遅くはないんじゃない?」
彼女の声音は毅然としていて、芯が通っているようだった。おそらく、いまこの状況で少しでも揺らいだりぶれたりすれば、その隙にワイバーンを討伐してしまうと思っているのだろう。
「言葉の真偽を問う? どうするつもりだ?」
だからこそ、奴を試すように口を開いた。もし時間稼ぎのために根拠もなく言っているだけなら、そんな小手先などひねり潰すつもりで。
それはサフィも分かっていて、ごくりと少し緊張したように喉を鳴らす。
「……わたしはものの記憶を投影する魔法が使えるわ。遡れるのはまだ近い過去だし、生物の記憶を見る際はその対象の許可が必要だけど……それでワイバーンの真偽を確かめる」
「ほお、便利なもん持ってんな……だってよ、ワイバーン」
今度はワイバーンに目を向ける。
「記憶を見せるかどうか、拒否はてめえの言葉がウソだということと同義だと捉えるぜ。どうする?」
断れば、その瞬間に首を斬り落とせるように全身の魔力を研ぎ澄ませる。だが当のワイバーンは全く動じることなく、サフィの提案に答えた。
『……ふん。人間に記憶を覗かれるというのは不愉快だが、我の真実を明らかにし、誇りと名誉を証明するためには致し方あるまい』
「……じゃあ、いまからそっちに行くわね」
サフィがワイバーンのほうへと歩み出していく。その背中にモードが。
「おいおい、不用意に近付いて大丈夫かよ?」
そう言っているが、その声には特に心配しているような響きはなかった。サフィは足を止めぬまま、振り返ることもせずに答える。
「わたしなら大丈夫です。それにこの魔法は対象に触れないと使えないので。いまのわたしの熟練度では」
そして魔剣の壁を迂回するようにしてワイバーンへと進む。横を通りすぎるとき、ちらりと見てきたが、互いに特に何も言うことはなかった。
奴を心配する必要はない。もしワイバーンに襲われたとしても助ける義務もない。奴が勝手に言って、勝手に近付いたんだ。全ては奴の自己責任であり、なぜその尻拭いをする必要がある?
余計なことはせずに、素直に討伐していれば良かったのにと、あとで後悔しても知ったことか。
「それじゃあ、触れるわね。魔法を使っている間はおとなしくしててね」
『……ふん。貴様が余計なことをしなければ、その心配は無用だ。我は誇り高き飛竜の一族なのだからな』
「…………記憶投影……」
サフィが、首を下ろしたワイバーンの顔に手を触れて……空中に横長の窓のような光の枠が現れた。
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