かつて天才と言われた落ちこぼれ。ムカついたので自由に生きてたらいつの間にか最強と言われるようになってた件

はくら(仮名)

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第四章

第十二話 ごうまん

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 ユキの身体が両膝をつき、次いで倒れそうになるのをギリギリで防ぐように地面に両手のひらをつける。全身から冷や汗を噴出させながら、その口からは。

「……はあっ……はあっ……」

 と乱れた息を吐いていた。振り返ってくるその顔は四白眼ではなくなっていて、代わりに本気で死を意識したであろう恐怖と、なぜまだ生きているのかという困惑がないまぜになっていた。
 彼女の頬を一滴の冷や汗が流れていく中、乱れた息を整えようともせずに言ってくる。

「……なんで、どうして斬らなかったの……⁉ あのまま魔力剣を維持していれば、確実にわたしは死んでいたのに……っ⁉」

 その疑問の叫びは妥当だろう。ユキの頭部を斬り裂くコンマ数秒の直前、手にしていた魔力剣の、その頭部に該当する剣身の部分だけを消失させて、空振りに終わらせていたのだった。
 逆に問う。命をもてあそぶような悪魔的な瞳を向けながら。

「死にたかったのか?」
「…………っ⁉」

 死なない限り回復出来る……それはつまり回復する間もない一瞬での即死か、あるいは脳を破壊すれば死ぬということ。先の魔力剣の一撃は、命中していれば、確かにユキは死んでいただろう。
 芸がないが、いつかサフィに言ったのと同じようなセリフを吐く。

「はっ。てめえを殺したら警察どもに追われて面倒なだけだ」
「…………っ」

 信じられないというユキの瞳。ついさっきまでほとんど殺し合いのようなことをしていたのだから、それも当然かもしれない。
 まあ、ユキ自身は半殺しに留めて、ワイバーンをどうにかしたあとに治療するつもりだったのかもしれないが。
 だが、そのユキは相手が自分を殺しに来ていると本気で思っていたらしい。だからこそ、ユキ自身も半殺しに留めるとはいえ本気の力で対抗していた。

「こんなはずじゃなかった、ってか? はっ! てめえの心は折れた。四白眼じゃなくなってるのがその証拠だ」
「…………っ」
「それともまだ戦るか? そんな生まれたての小鹿みてえな、全身が震えてる身体で戦えるのならの話だがな」
「…………く…………」
「出来ねえなら黙って見てるんだな。俺がこの凶悪なワイバーンを討伐するとこを……」

 ユキからワイバーンへと視線を向けようとしたその時、そのワイバーンが首を上げながら口を開いた。

『何か勘違いをしているようだな、人間』

 発せられた声はさっきまでの獰猛な威嚇の咆哮ではなく、人間の言葉だった。

『貴様が我を討伐しようとするのは勝手だが、我の誇りと名誉のために言っておく。我は凶悪でも、他の人間共を襲っていたわけでもない』
「ほお、人語を話せんのかよ」

 ユキは、ドラゴンは人語を解する種族だと言っていた。
 またモードはドラゴンと召喚契約を結んでもいる。
 このワイバーンが人語を話せたとしても不思議じゃないってことか。

「だが、てめえの言うことを素直に信じると思うのか? 信じたら見逃してくれるとでも?」
『思わん。いまも言ったが、これは我の誇りと名誉のための訂正だ。我の中の真実はそれであり、信じるかどうかは貴様の勝手だ。しかし……』

 ワイバーンの瞳が鋭くなる。

『貴様がどうするかは貴様の勝手だが、我を討伐しようとするならば、我とて黙ってなすがままにされるわけにはいかん。傷を負って空も舞えぬこの身体だが、可能な限り抵抗させてもらう』
「はっ。上等だ。ユキとの戦いでだいぶ消耗したが、てめえくらいのザコ、瞬殺してやるよ」
『減らず口の多い傲慢な人間だ。我の最期の戦い、無事に済むと思うなよ』
「行くぜ!」

 魔力剣の剣身を再び伸ばし、全身に魔力をまとってワイバーンへと迫ろうとした刹那。

「ストーップ! そこまでよ!」

 いつの間にいたのか、結界の中に立つサフィが大声を張り上げた。

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