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第五章

第十話 かくにん

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 バーベキューをしていた場所から少し離れたところに木の柵があり、そこから先は草原が広がっている。その農場の外側で、ニンジャと向かい合って立つ。
 トパが農場の内側で、木の柵に手を置きながら文句を言ってきた。

「レインのバカっ。分からず屋っ。けちんぼっ」

 どうやらまだ、こう仕向けたことに対して怒っているらしい。無視して、ニンジャに言う。

「ルールは簡単だ。相手を倒すか、負けを認めさせれば勝ち。一応、言うまでもないが、相手を死なせたら無効だ」
「分かっているでござる。レインどのが死んでは情報が聞き出せないし、拙者が死ねば元も子もない……そういうことでござろう?」
「ああ。まあ、殺さないだけで手加減するつもりはないが」
「拙者も同じでござる。レインどのの刃物の扱い方を見て、貴殿はただ者ではないでござるからな。それに、戦う者に対しては本気で相対するのが礼儀でござる」

 ニンジャが腰の後ろに差していた小刀の柄を握る。
 右手に魔力剣を出して、いざ戦いを始めようとしたとき、トパが大声で口を挟んできた。

「その前に確認っ! さっきからずっと気になってたんだけどっ、イノさんって男の子? 女の子?」

 空気の読めないヤロウだな。トパに振り返って。

「どうでもいいだろ、そんなこと」
「どうでもよくないっ。イノさんが女の子で、戦っているときにくんずほぐれつして、あんなところやこんなところを触っちゃったらどうするの⁉ レインのセクハラ魔! むっつりスケベっ!」
「…………あとで覚えてろよ、てめえ……」

 ひとのことをどんなふうに思ってやがるんだ。
 溜め息を一つ吐いて、ニンジャに向く。

「で? てめえは男なのか? それとも女か?」
「…………」

 答えることを躊躇しているらしい、少しの間。ややあって。

「……性別は、女性でござる……」
「そうか」「女の子っ! レインっ……!」

 トパが何か言おうとする前に、ニンジャが慌てたように言う。

「だが、心配はご無用でござるっ。真剣勝負を前に男女は関係ござらんっ。おやかた様にも、むしろ女であることを武器として利用しろと言われているでござるっ」
「ほお、いい心掛けだな。てめえも、おやかたって奴も」
「だからトパどのっ、口出しは必要ないでござるっ。むしろレインどのが拙者の美貌の肉体に惑わされるのなら、その隙に勝たせてもらうでござるっ。あっはっはっ……」
「……どこに美貌の肉体があるんだよ。つーか無理矢理笑ってねえか?」
「そ、そんなことはないでござるっ」

 ニンジャは再び慌てて戦闘態勢の構えをすると。

「さ、さあっ、そんなことよりも、さっさと戦いを始めるでござるよっ。こうしている間もおやかた様は苦しんでいるのでござるからな」
「そうだな。じゃあ……」

 再び魔力剣を構えて。

「始めるぜ!」

 ニンジャともども、二人同時に相手へと高速で向かっていった。

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