鬼と私の約束~あやかしバーでバーメイド、はじめました~

さっぱろこ

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初めましてとリキュール

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 どうやら私は、お酒にとても弱い、というわけではないらしいです。カルーアミルクを飲んで特に変な感じもしない、むしろ何だか少し元気になったような気がしたので、お掃除をさせて貰うことにしカウンターの上を拭いていました。端から端まできっちりと水拭きしていくのはとても気持ちがいいです。
 カウンターの上が終わり、次に側面を拭こうとしたとき。重いドアがゆっくり開きました。
 入ってきたのは、金髪に赤メッシュが入った髪の毛に、アロハシャツというのでしょうか、鮮やかな柄のシャツを着てサングラスをかけた男性でした。男性は、片手を上げると、やたらと明るい声で夜都賀やつがさんに話しかけます。

「やってるッスか~?」
「うちは寿司屋じゃないんだけど。やめてくんない? その入り方」
「いーじゃないッスか、他になんて聞けばいいんスか?」
「聞かなくていいから」 

 夜都賀やつがさんとのやり取りから、親しい知り合いなのでしょうか。明るい声の男性に続いて、鮮やかなエメラルドグリーンの長髪を靡かせた人物が入ってきて、アロハシャツの裾を引っ張っています。

「スパ、初めましての子いるよ。おちゃらけてないでちゃんとしようよ」

 エメラルドグリーンの人物は女性に見えましたが、高めとはいえ声は男性のようでした。カウンターの中の夜都賀やつがさんに「ひとまず座って」と促されて、2人ともカウンターに座ったので、私は掃除を一旦やめてカウンターの中に戻ることにします。
 テーブル席に座ったままの伊吹くんは、あくびをしながら何も反応をしていません。それほどまでに親しい相手なのでしょうか。



「……もう我慢できないッス。何で奴ら、結界内から追い出さないんスか?」
「スパ、落ち着け。それに争ったところで何を得られる」
「だってあいつら、見境無く人間を食おうとするんスよ。自分らの印象がどんどん悪くなって恐れられれば、また昔みたいなことに……あ、バナナ・ビア下さいっス」

 スパ、と呼ばれた赤メッシュさんは椅子に座って夜都賀やつがさんに捲し立てながら、手渡された黄金色の泡立つお酒を豪快に一気飲みしていきます。隣の方が、溜息をつきながら話を引き継ぎました。

「スパがそう言うのは訳があるんだ。ねぇ、夜都賀やつがさん。それに伊吹いぶきさん。話、聞いてくれない? ……あと、そこの女の子は新人バーメイドさん?」

 長髪の方は何も注文していないのに、夜都賀やつがさんも何も言わずに彼の前にドリンクを置いています。いわゆる常連さん、でしょうか。
 夜都賀やつがさんに出してもらったライムを齧って、同時に出してもらった小さなグラスに入った茶色い液体を一気飲みほしてから、長髪さんは私の方に目を向けました。さらりと綺麗な髪が舞って、薄暗いお店に光りを振りまいたように見えます。

「あっ、はい、あ、甘祢あまねと、申します。よろしくお願いします。ところで、バー……メイドって何でしょう……?」
「うん、よろしく。僕のことはエイコって呼んでね。そっちの派手な日焼け男はスパルナ。スパ、でいいよ。バーメイドっていうのはね、女性バーテンのこと。夜都賀やつがさんは優しいから、色々教えてもらいなね」
「あ、夜都賀やつがさん、次ミントビアがいいッス。はいはい、自分、スパルナっていいまッス。エイコとは昔からのダチで、伊吹さんと夜都賀やつがさんにはエイコ共々色々あってお世話になってるっス! よろしくッス甘祢ちゃん!」
「エイコさん、スパルナさん。よ、よろしくお願いしますっ……」

 スパルナさん、という方は注文をしてから、軽いノリで私の方にウインクをしてきました。初めて関わるタイプの方なのですが、そこに居るだけで周りを明るく照らしてくれるような存在に見えます。「スパ」でいいって、と言いながら、大きなコーンの粒を出してもらって囓っています。

「スパからまたオーダー入ったし、甘祢あまねちゃん、つくってみよっか」

 笑顔の夜都賀やつがさんが、冷蔵庫から冷えたビール用のグラスと緑色の液体が入った瓶を持ってきて私の前に置きました。うまくできるのかな、とドキドキしながら、サーバーからのビールの注ぎ方を夜都賀やつがさんに聞きます。

「おーい、失敗したら全部オレのテーブルに持ってくればいいからな。何杯でも構わん」
「イブキちゃんは飲みたいだけじゃーん。てことで、甘祢ちゃん、教えてあげるから、やってみてね♪」

 店の奥の席に陣取って何やらPCを開いて作業をしながらこっちを気に掛けてくれる伊吹くんの言葉と、教えてくれる夜都賀やつがさんの明るい喋り方に背中を押されます。
 まず教えられた通りメジャーカップに緑色の液体を注いで、それからグラスにサーバーの注ぎ口をくっつけて……



 震える手で涙ぐみながら、やっと完成したお酒をスパさんに出しました。だいぶ待たせたのに嫌な顔一つせず、「ありがとッス!」と受け取ってくれたスパさんは、本当に本当に良い人です。人、ではないかもしれませんが。

 メジャースプーンにぴったり液体を入れるのって、思ったより難しいんですね。しかもリキュールはちょっとどろっとしていて、水と違うんです。
 何度も多く入れすぎたりこぼしたりしたので、手元のテーブルクロスはリキュールの緑色に染まり、失敗作を飲む係の伊吹くんのテーブルには毒々しい緑色をしたビールがずらりと並べられています。
 因みに、私がずっと失敗し続けている間に、エイコさんは小さいグラス(ショットグラスというらしいです)で何杯もテキーラ(これも夜都賀やつがさんが教えてくれました)を飲み干していたのに、顔色一つ変えずにいます。よくわからないんですが、テキーラは白いものや茶色いもの、ドクロの瓶に入ったものなどがありました。メキシコのお酒、らしいです。
 それはおいといて。

甘祢あまね、沢山失敗するのはいいことだ。これからもどんどん失敗するといいぞ。成長はその先にあるからな、多分」
「適当なこと言わないの、イブキちゃん。飲みたいだけでしょ……」

 機嫌良く片っ端からビールを飲み干していく見た目は十代後半の伊吹くんと、呆れながらグラスを下げる夜都賀やつがさん。
 こんなに失敗続きで許されていいのかわからないけれど、許されているのが不思議なような、本当にいいのか少し不安なような、不思議な気持ちです。
 いえ、許されたとしても失敗は最低限にするべきうですが。それでも、こんなにも緩くて優しい職場があっていいのでしょうか。
 夜はこれから。そして、私は確実にできることからやるべきです。気合いを入れて自主的に洗い場に入り、私はひたすらグラスを洗うことにしました。
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