7 / 21
初めましてとリキュール
3
しおりを挟む
どうやら私は、お酒にとても弱い、というわけではないらしいです。カルーアミルクを飲んで特に変な感じもしない、むしろ何だか少し元気になったような気がしたので、お掃除をさせて貰うことにしカウンターの上を拭いていました。端から端まできっちりと水拭きしていくのはとても気持ちがいいです。
カウンターの上が終わり、次に側面を拭こうとしたとき。重いドアがゆっくり開きました。
入ってきたのは、金髪に赤メッシュが入った髪の毛に、アロハシャツというのでしょうか、鮮やかな柄のシャツを着てサングラスをかけた男性でした。男性は、片手を上げると、やたらと明るい声で夜都賀さんに話しかけます。
「やってるッスか~?」
「うちは寿司屋じゃないんだけど。やめてくんない? その入り方」
「いーじゃないッスか、他になんて聞けばいいんスか?」
「聞かなくていいから」
夜都賀さんとのやり取りから、親しい知り合いなのでしょうか。明るい声の男性に続いて、鮮やかなエメラルドグリーンの長髪を靡かせた人物が入ってきて、アロハシャツの裾を引っ張っています。
「スパ、初めましての子いるよ。おちゃらけてないでちゃんとしようよ」
エメラルドグリーンの人物は女性に見えましたが、高めとはいえ声は男性のようでした。カウンターの中の夜都賀さんに「ひとまず座って」と促されて、2人ともカウンターに座ったので、私は掃除を一旦やめてカウンターの中に戻ることにします。
テーブル席に座ったままの伊吹くんは、あくびをしながら何も反応をしていません。それほどまでに親しい相手なのでしょうか。
「……もう我慢できないッス。何で奴ら、結界内から追い出さないんスか?」
「スパ、落ち着け。それに争ったところで何を得られる」
「だってあいつら、見境無く人間を食おうとするんスよ。自分らの印象がどんどん悪くなって恐れられれば、また昔みたいなことに……あ、バナナ・ビア下さいっス」
スパ、と呼ばれた赤メッシュさんは椅子に座って夜都賀さんに捲し立てながら、手渡された黄金色の泡立つお酒を豪快に一気飲みしていきます。隣の方が、溜息をつきながら話を引き継ぎました。
「スパがそう言うのは訳があるんだ。ねぇ、夜都賀さん。それに伊吹さん。話、聞いてくれない? ……あと、そこの女の子は新人バーメイドさん?」
長髪の方は何も注文していないのに、夜都賀さんも何も言わずに彼の前にドリンクを置いています。いわゆる常連さん、でしょうか。
夜都賀さんに出してもらったライムを齧って、同時に出してもらった小さなグラスに入った茶色い液体を一気飲みほしてから、長髪さんは私の方に目を向けました。さらりと綺麗な髪が舞って、薄暗いお店に光りを振りまいたように見えます。
「あっ、はい、あ、甘祢と、申します。よろしくお願いします。ところで、バー……メイドって何でしょう……?」
「うん、よろしく。僕のことはエイコって呼んでね。そっちの派手な日焼け男はスパルナ。スパ、でいいよ。バーメイドっていうのはね、女性バーテンのこと。夜都賀さんは優しいから、色々教えてもらいなね」
「あ、夜都賀さん、次ミントビアがいいッス。はいはい、自分、スパルナっていいまッス。エイコとは昔からのダチで、伊吹さんと夜都賀さんにはエイコ共々色々あってお世話になってるっス! よろしくッス甘祢ちゃん!」
「エイコさん、スパルナさん。よ、よろしくお願いしますっ……」
スパルナさん、という方は注文をしてから、軽いノリで私の方にウインクをしてきました。初めて関わるタイプの方なのですが、そこに居るだけで周りを明るく照らしてくれるような存在に見えます。「スパ」でいいって、と言いながら、大きなコーンの粒を出してもらって囓っています。
「スパからまたオーダー入ったし、甘祢ちゃん、つくってみよっか」
笑顔の夜都賀さんが、冷蔵庫から冷えたビール用のグラスと緑色の液体が入った瓶を持ってきて私の前に置きました。うまくできるのかな、とドキドキしながら、サーバーからのビールの注ぎ方を夜都賀さんに聞きます。
「おーい、失敗したら全部オレのテーブルに持ってくればいいからな。何杯でも構わん」
「イブキちゃんは飲みたいだけじゃーん。てことで、甘祢ちゃん、教えてあげるから、やってみてね♪」
店の奥の席に陣取って何やらPCを開いて作業をしながらこっちを気に掛けてくれる伊吹くんの言葉と、教えてくれる夜都賀さんの明るい喋り方に背中を押されます。
まず教えられた通りメジャーカップに緑色の液体を注いで、それからグラスにサーバーの注ぎ口をくっつけて……
震える手で涙ぐみながら、やっと完成したお酒をスパさんに出しました。だいぶ待たせたのに嫌な顔一つせず、「ありがとッス!」と受け取ってくれたスパさんは、本当に本当に良い人です。人、ではないかもしれませんが。
メジャースプーンにぴったり液体を入れるのって、思ったより難しいんですね。しかもリキュールはちょっとどろっとしていて、水と違うんです。
何度も多く入れすぎたりこぼしたりしたので、手元のテーブルクロスはリキュールの緑色に染まり、失敗作を飲む係の伊吹くんのテーブルには毒々しい緑色をしたビールがずらりと並べられています。
因みに、私がずっと失敗し続けている間に、エイコさんは小さいグラス(ショットグラスというらしいです)で何杯もテキーラ(これも夜都賀さんが教えてくれました)を飲み干していたのに、顔色一つ変えずにいます。よくわからないんですが、テキーラは白いものや茶色いもの、ドクロの瓶に入ったものなどがありました。メキシコのお酒、らしいです。
それはおいといて。
「甘祢、沢山失敗するのはいいことだ。これからもどんどん失敗するといいぞ。成長はその先にあるからな、多分」
「適当なこと言わないの、イブキちゃん。飲みたいだけでしょ……」
機嫌良く片っ端からビールを飲み干していく見た目は十代後半の伊吹くんと、呆れながらグラスを下げる夜都賀さん。
こんなに失敗続きで許されていいのかわからないけれど、許されているのが不思議なような、本当にいいのか少し不安なような、不思議な気持ちです。
いえ、許されたとしても失敗は最低限にするべきうですが。それでも、こんなにも緩くて優しい職場があっていいのでしょうか。
夜はこれから。そして、私は確実にできることからやるべきです。気合いを入れて自主的に洗い場に入り、私はひたすらグラスを洗うことにしました。
カウンターの上が終わり、次に側面を拭こうとしたとき。重いドアがゆっくり開きました。
入ってきたのは、金髪に赤メッシュが入った髪の毛に、アロハシャツというのでしょうか、鮮やかな柄のシャツを着てサングラスをかけた男性でした。男性は、片手を上げると、やたらと明るい声で夜都賀さんに話しかけます。
「やってるッスか~?」
「うちは寿司屋じゃないんだけど。やめてくんない? その入り方」
「いーじゃないッスか、他になんて聞けばいいんスか?」
「聞かなくていいから」
夜都賀さんとのやり取りから、親しい知り合いなのでしょうか。明るい声の男性に続いて、鮮やかなエメラルドグリーンの長髪を靡かせた人物が入ってきて、アロハシャツの裾を引っ張っています。
「スパ、初めましての子いるよ。おちゃらけてないでちゃんとしようよ」
エメラルドグリーンの人物は女性に見えましたが、高めとはいえ声は男性のようでした。カウンターの中の夜都賀さんに「ひとまず座って」と促されて、2人ともカウンターに座ったので、私は掃除を一旦やめてカウンターの中に戻ることにします。
テーブル席に座ったままの伊吹くんは、あくびをしながら何も反応をしていません。それほどまでに親しい相手なのでしょうか。
「……もう我慢できないッス。何で奴ら、結界内から追い出さないんスか?」
「スパ、落ち着け。それに争ったところで何を得られる」
「だってあいつら、見境無く人間を食おうとするんスよ。自分らの印象がどんどん悪くなって恐れられれば、また昔みたいなことに……あ、バナナ・ビア下さいっス」
スパ、と呼ばれた赤メッシュさんは椅子に座って夜都賀さんに捲し立てながら、手渡された黄金色の泡立つお酒を豪快に一気飲みしていきます。隣の方が、溜息をつきながら話を引き継ぎました。
「スパがそう言うのは訳があるんだ。ねぇ、夜都賀さん。それに伊吹さん。話、聞いてくれない? ……あと、そこの女の子は新人バーメイドさん?」
長髪の方は何も注文していないのに、夜都賀さんも何も言わずに彼の前にドリンクを置いています。いわゆる常連さん、でしょうか。
夜都賀さんに出してもらったライムを齧って、同時に出してもらった小さなグラスに入った茶色い液体を一気飲みほしてから、長髪さんは私の方に目を向けました。さらりと綺麗な髪が舞って、薄暗いお店に光りを振りまいたように見えます。
「あっ、はい、あ、甘祢と、申します。よろしくお願いします。ところで、バー……メイドって何でしょう……?」
「うん、よろしく。僕のことはエイコって呼んでね。そっちの派手な日焼け男はスパルナ。スパ、でいいよ。バーメイドっていうのはね、女性バーテンのこと。夜都賀さんは優しいから、色々教えてもらいなね」
「あ、夜都賀さん、次ミントビアがいいッス。はいはい、自分、スパルナっていいまッス。エイコとは昔からのダチで、伊吹さんと夜都賀さんにはエイコ共々色々あってお世話になってるっス! よろしくッス甘祢ちゃん!」
「エイコさん、スパルナさん。よ、よろしくお願いしますっ……」
スパルナさん、という方は注文をしてから、軽いノリで私の方にウインクをしてきました。初めて関わるタイプの方なのですが、そこに居るだけで周りを明るく照らしてくれるような存在に見えます。「スパ」でいいって、と言いながら、大きなコーンの粒を出してもらって囓っています。
「スパからまたオーダー入ったし、甘祢ちゃん、つくってみよっか」
笑顔の夜都賀さんが、冷蔵庫から冷えたビール用のグラスと緑色の液体が入った瓶を持ってきて私の前に置きました。うまくできるのかな、とドキドキしながら、サーバーからのビールの注ぎ方を夜都賀さんに聞きます。
「おーい、失敗したら全部オレのテーブルに持ってくればいいからな。何杯でも構わん」
「イブキちゃんは飲みたいだけじゃーん。てことで、甘祢ちゃん、教えてあげるから、やってみてね♪」
店の奥の席に陣取って何やらPCを開いて作業をしながらこっちを気に掛けてくれる伊吹くんの言葉と、教えてくれる夜都賀さんの明るい喋り方に背中を押されます。
まず教えられた通りメジャーカップに緑色の液体を注いで、それからグラスにサーバーの注ぎ口をくっつけて……
震える手で涙ぐみながら、やっと完成したお酒をスパさんに出しました。だいぶ待たせたのに嫌な顔一つせず、「ありがとッス!」と受け取ってくれたスパさんは、本当に本当に良い人です。人、ではないかもしれませんが。
メジャースプーンにぴったり液体を入れるのって、思ったより難しいんですね。しかもリキュールはちょっとどろっとしていて、水と違うんです。
何度も多く入れすぎたりこぼしたりしたので、手元のテーブルクロスはリキュールの緑色に染まり、失敗作を飲む係の伊吹くんのテーブルには毒々しい緑色をしたビールがずらりと並べられています。
因みに、私がずっと失敗し続けている間に、エイコさんは小さいグラス(ショットグラスというらしいです)で何杯もテキーラ(これも夜都賀さんが教えてくれました)を飲み干していたのに、顔色一つ変えずにいます。よくわからないんですが、テキーラは白いものや茶色いもの、ドクロの瓶に入ったものなどがありました。メキシコのお酒、らしいです。
それはおいといて。
「甘祢、沢山失敗するのはいいことだ。これからもどんどん失敗するといいぞ。成長はその先にあるからな、多分」
「適当なこと言わないの、イブキちゃん。飲みたいだけでしょ……」
機嫌良く片っ端からビールを飲み干していく見た目は十代後半の伊吹くんと、呆れながらグラスを下げる夜都賀さん。
こんなに失敗続きで許されていいのかわからないけれど、許されているのが不思議なような、本当にいいのか少し不安なような、不思議な気持ちです。
いえ、許されたとしても失敗は最低限にするべきうですが。それでも、こんなにも緩くて優しい職場があっていいのでしょうか。
夜はこれから。そして、私は確実にできることからやるべきです。気合いを入れて自主的に洗い場に入り、私はひたすらグラスを洗うことにしました。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―
島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる