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敵襲と日本酒
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勢いよく開いた扉が大きな音を立てて壁にぶつかった音。
外から舞い込んで来る生暖かい風。
「失礼致しますな。先程、部下が世話になったそうやので……お礼に参りましたわ」
京ことばを話しながら風と共に店に入ってきたのは、灰色の髪にニコニコとした糸目の、一見柔和な雰囲気の和服の男性。パタン、と扉がひとりでに閉じると、風も止みました。
のしのしと大股で入り口に近寄った伊吹くんが、自分よりだいぶ背の高い彼に対して睨み上げています。身を固くしている私を庇うように前に立ってくれている夜都賀さんの背中越しに、私は2人の様子を眺めます。
「茨木。今までどこにいた。それに部下? ここ、京都租界に生きるあやかしは俺の管轄下にあるはずだ」
伊吹くんが静かに、でもドスのきいた声で訪ねても、茨木と呼ばれた方は、全く動じずにニコニコとしていますす。街中に立つ、喧噪も風も全てを受け流す柳のようだな、なんて思いました。
「ふふ、あんたが100年前、再び京都に来る前から、ずっと、ずぅっとずっとこの辺にいてはったで。それにしてもつれへん言い方しはりますな。昔は兄弟みたいに仲良ぉく一緒に暮らしとったのに。」
「大昔の話を蒸し返すな。今更どういうつもりだ」
「ふふ、別に? 昔とおんなじように、伊吹にこの界隈を任せておくなんて、でけへんと思いましてね」
「昔からオレに不満があるなら元々そう言えばよかったんだ」
「あっはっは、そんなんありまへんでしたわ。ただ、あんたが倒されたときに目覚めたんどす。正直で、人を疑うことを知れへん阿呆に従う危うさに……ね」
じり、とスパさんとエイコさんが伊吹くんを庇うように慎重に動いています。でも男は、2人に対して馬鹿にするように笑い出しました。
「エイコ。久し振りやな。それに、昔とはちびっとばかり名前を変えたスパルナくん。そないなことをしはっても、無様な過去は消し去れへんよ」
「っ……茨木さん、自分は……昔、伊吹さんと茨木さんのコンビに憧れてたッス……なのになんで!」
「変わったね、茨木。無様なのは君のほうだよ」
「あんなに無様に殺されておいて、それなのに変われいでいるなんて。可哀想に。そうやってまっすぐ生きとったらすぐにまた殺されてしまうのに」
「っんだと?」
「待て!」
怒っているのか、飛びかかっていこうとしたスパさんは、伊吹くんの一声ですぐに動きを止めました。
「なぁ、背が伸びたな、茨木」
「おかげさまで。何百年かかけて成長期を終えたもんで。誰かさんと違って」
「最近、この租界のルールを破って人間を喰う奴らが出てきている。奴らをそそのかしてんのはお前だな」
体を屈めて伊吹くんの顔を覗き込むような姿勢を取った茨木さんは、くすくす、と声を抑えて笑っているようです。
「租界、とかそんなんが出来る前に戻りたいあやかしが多い、そんだけや」
「お前、人間とあやかしの対立を煽る気か?」
「別にぃ……ねぇ、ところで、あの子」
茨木さんが、首の角度を変えて急にこちらに視線を向けてきて。
夜都賀さんの背中越しに、目が合いました。にやりと口角を上げた茨木さんの意図はわかりませんが、背中が凍り付いたようにぞくりと寒気がして、私は体が震えているのを抑えるので精一杯です。
「おもろいなぁ、なあ、ちょうだい」
伊吹くんが、とても低い声で「あぁ?」と凄んだのが聞こえました。
外から舞い込んで来る生暖かい風。
「失礼致しますな。先程、部下が世話になったそうやので……お礼に参りましたわ」
京ことばを話しながら風と共に店に入ってきたのは、灰色の髪にニコニコとした糸目の、一見柔和な雰囲気の和服の男性。パタン、と扉がひとりでに閉じると、風も止みました。
のしのしと大股で入り口に近寄った伊吹くんが、自分よりだいぶ背の高い彼に対して睨み上げています。身を固くしている私を庇うように前に立ってくれている夜都賀さんの背中越しに、私は2人の様子を眺めます。
「茨木。今までどこにいた。それに部下? ここ、京都租界に生きるあやかしは俺の管轄下にあるはずだ」
伊吹くんが静かに、でもドスのきいた声で訪ねても、茨木と呼ばれた方は、全く動じずにニコニコとしていますす。街中に立つ、喧噪も風も全てを受け流す柳のようだな、なんて思いました。
「ふふ、あんたが100年前、再び京都に来る前から、ずっと、ずぅっとずっとこの辺にいてはったで。それにしてもつれへん言い方しはりますな。昔は兄弟みたいに仲良ぉく一緒に暮らしとったのに。」
「大昔の話を蒸し返すな。今更どういうつもりだ」
「ふふ、別に? 昔とおんなじように、伊吹にこの界隈を任せておくなんて、でけへんと思いましてね」
「昔からオレに不満があるなら元々そう言えばよかったんだ」
「あっはっは、そんなんありまへんでしたわ。ただ、あんたが倒されたときに目覚めたんどす。正直で、人を疑うことを知れへん阿呆に従う危うさに……ね」
じり、とスパさんとエイコさんが伊吹くんを庇うように慎重に動いています。でも男は、2人に対して馬鹿にするように笑い出しました。
「エイコ。久し振りやな。それに、昔とはちびっとばかり名前を変えたスパルナくん。そないなことをしはっても、無様な過去は消し去れへんよ」
「っ……茨木さん、自分は……昔、伊吹さんと茨木さんのコンビに憧れてたッス……なのになんで!」
「変わったね、茨木。無様なのは君のほうだよ」
「あんなに無様に殺されておいて、それなのに変われいでいるなんて。可哀想に。そうやってまっすぐ生きとったらすぐにまた殺されてしまうのに」
「っんだと?」
「待て!」
怒っているのか、飛びかかっていこうとしたスパさんは、伊吹くんの一声ですぐに動きを止めました。
「なぁ、背が伸びたな、茨木」
「おかげさまで。何百年かかけて成長期を終えたもんで。誰かさんと違って」
「最近、この租界のルールを破って人間を喰う奴らが出てきている。奴らをそそのかしてんのはお前だな」
体を屈めて伊吹くんの顔を覗き込むような姿勢を取った茨木さんは、くすくす、と声を抑えて笑っているようです。
「租界、とかそんなんが出来る前に戻りたいあやかしが多い、そんだけや」
「お前、人間とあやかしの対立を煽る気か?」
「別にぃ……ねぇ、ところで、あの子」
茨木さんが、首の角度を変えて急にこちらに視線を向けてきて。
夜都賀さんの背中越しに、目が合いました。にやりと口角を上げた茨木さんの意図はわかりませんが、背中が凍り付いたようにぞくりと寒気がして、私は体が震えているのを抑えるので精一杯です。
「おもろいなぁ、なあ、ちょうだい」
伊吹くんが、とても低い声で「あぁ?」と凄んだのが聞こえました。
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