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エピローグ
森の中
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気がついたらつばさは森の中にいた。
ここどこなんだろう? 周囲を見渡すが見知らぬところだった。
元の世界に戻ってきたのか?
じゃあここはどこで、そしてどれぐらいの時間が経っているのだろうか。
「お兄ちゃん、なにしているの?」
女の子の声につばさは振り向いた。
七歳か八歳ぐらいの、もちろん人間の女の子だ。
眼の前に立つ小さな女の子が、自分の妹であると認識するのにずいぶんと時間がかかった。
「のぞみかい? ひさしぶりだね」
「ひさしぶり?」
ずいぶん長い間会っていないから当然だ。
でものぞみはそう思っていないようだった。
「おにいちゃん、さっき自販機を探すって出て行ったばかり」
「え?」
慌てて自分の手を見る。
日焼けしてたくましくなっていた腕は、白く細いものにもどっていた。
他の所も見るといつもの着慣れた服ではなく、ズボンとシャツという姿だった。
これはヤマのクニに行った時の格好ではなかったか?
つばさが自販機を探して出ていてすぐ、霧が晴れた。
それですぐにつばさの背中を見つけたのぞみが、追いかけてきたのだとのぞみは話した。
つばさはズボンのポケットに慌てて手を突っ込む。
首飾りはなく、小銭と、それにあの日サギに渡したはずの懐中電灯があるだけだった。
「そんな……」
つばさには信じられなかった。
あの長い旅は本当になかったのか。
今までのは全て夢だったんだろうか?
サギもカイムもエドも女王さまも、すべていなかったとでも。
あまりにも信じられない現実に、つばさは呆然と立ち尽くした。
じっとそれを見ていたのぞみは、ふとかがみ込むとつばさに手のものを広げて見せてきた。
「お兄ちゃん、これ落としたよ」
のぞみの手に握られていたそれをみて、つばさはあっと声をあげそうになる。
それは黒い磨かれた石だった。
サギからもらった首飾りについていた、あの小さなたまだった。
その時、つばさは心が燃えるように熱くなった。
目に水が、あとからあとから流れて視界が歪む。
そうか、みんなここにいるんだ。
つばさは胸に手を当てる。
指先から自分の心臓の音と、暖かいものが伝わるのが感じられた。
あの旅は本当にあったことで、それは今後も続いていく。
カイム。ぼくはたくさんのことを知るよ。いっぱい勉強してたくさんのことを覚えるよ。
エド。女の子のことはわからないけど、ぼくはいろいろなものを食べるよ。世界中のたくさんのおいしいを知るよ。
キムニ、チカプ。二人に負けないような、立派な大人にぼくはなるよ。
そしてサギ。
ぼくはたくさんの所にいくよ。いろいろなものを見聞きして、たくさん感動するよ。
たくさんのことをしようと思った。
たくさんのところに行こうと思った。
そのためにやらなければいけないことがたくさんある。
つばさが立ち止まらずに進み続けていることで、彼らとの旅は続けることができるのだ。
そして彼らが生き続けるなら、きっといつかどこかで出会うことができる。
そんな確信がつばさにあった。
「ふ、えーん!」
突如の大声に、つばさははっと我に返る。
のぞみが声をあげて大泣きしていた。
「どうしてのぞみまで泣いているんだよ」
「だっておにいちゃんが泣いているんだもん!」
どうやらつばさが泣いているのを見て、思わずもらい泣きをしたようだった。
「おにいちゃん、なにかあったの? どこか痛いの? どうしてそんなになくことがあったの?」
つばさは返答に困った。
今までつばさがしてきた旅のこと、のぞみに話してもしょうがない。
「なんでもない」
そう言おうとした。
そしてはっとした。それじゃあだめなんだと。
お互いを知るためには、もっと話し合わないといけない。
今までつばさはあまりにものぞみとわかり合えていない。
突拍子もない話だ。
頭がおかしくなったって思われるかもしれない。まして普段ろくに話もしない兄の話だ。
でも、彼女なら信じてくれると今なら思えた。
全てを話そう。長い話になるけど、彼女はきっと聞いてくれる。
だってたった一人の妹だ。
知らぬ、見た形すら違う障りたちともわかり合えた。
兄妹でわかりあえないはずがない。
つばさは決心した。
この決心だって、今までの命をかけた冒険に比べるとたいしたことない。
「のぞみ、ぼくが泣いていたのは理由があるんだよ」
のぞみは泣いたまま顔を上げた。
つばさの顔を見上げている。
「とてもしんじられないような話なんだけど、最後までぼくの聞いてくれるかい?」
つばさはのぞみに笑いかけた。
のぞみは顔をあげると、涙をふく。
そして大きく頷いた。
「実はね……」
自分が体験した冒険譚のどこから話したらいいだろうかと、頭の中で整理する。
おじいちゃんの家まではまだ遠い。全てを話すのには充分な時間はある。
霧はすっかり晴れて、太陽がキラキラと輝いていた。
おじいちゃんたちにあったら元気に話しかけよう。
そうだ。あの従姉のおねえさんがどうなったか、聞いてみよう、
家に帰ったらおかあさんのお手伝いをして、おとうさんには仕事お疲れ様と言ってあげよう。
その前にまず、のぞみのことを知って、自分のことを知ってもらおう。
さまざまなことを誓いながら、つばさはのぞみに話を始めた。
ほんの数分間の間につばさに起こった物語を。
話に夢中になっていると二人を呼ぶ声が聞こえた。見上げると両親の姿があった。
なかなか二人が帰ってこないので、様子を見に来たようだった。
両親の顔を見るのも久しぶりだけど、思い出より優しそうな顔をしていると思った。
つばさはのぞみの手をつなぐ。小さくて暖かな手だった。
のぞみは手を離さなかった。
二人は空いた手で両親に向かって手を振ると、どちらともなく走り出す。
なんだか楽しくて、二人は競うように笑い声を上げた。
ここどこなんだろう? 周囲を見渡すが見知らぬところだった。
元の世界に戻ってきたのか?
じゃあここはどこで、そしてどれぐらいの時間が経っているのだろうか。
「お兄ちゃん、なにしているの?」
女の子の声につばさは振り向いた。
七歳か八歳ぐらいの、もちろん人間の女の子だ。
眼の前に立つ小さな女の子が、自分の妹であると認識するのにずいぶんと時間がかかった。
「のぞみかい? ひさしぶりだね」
「ひさしぶり?」
ずいぶん長い間会っていないから当然だ。
でものぞみはそう思っていないようだった。
「おにいちゃん、さっき自販機を探すって出て行ったばかり」
「え?」
慌てて自分の手を見る。
日焼けしてたくましくなっていた腕は、白く細いものにもどっていた。
他の所も見るといつもの着慣れた服ではなく、ズボンとシャツという姿だった。
これはヤマのクニに行った時の格好ではなかったか?
つばさが自販機を探して出ていてすぐ、霧が晴れた。
それですぐにつばさの背中を見つけたのぞみが、追いかけてきたのだとのぞみは話した。
つばさはズボンのポケットに慌てて手を突っ込む。
首飾りはなく、小銭と、それにあの日サギに渡したはずの懐中電灯があるだけだった。
「そんな……」
つばさには信じられなかった。
あの長い旅は本当になかったのか。
今までのは全て夢だったんだろうか?
サギもカイムもエドも女王さまも、すべていなかったとでも。
あまりにも信じられない現実に、つばさは呆然と立ち尽くした。
じっとそれを見ていたのぞみは、ふとかがみ込むとつばさに手のものを広げて見せてきた。
「お兄ちゃん、これ落としたよ」
のぞみの手に握られていたそれをみて、つばさはあっと声をあげそうになる。
それは黒い磨かれた石だった。
サギからもらった首飾りについていた、あの小さなたまだった。
その時、つばさは心が燃えるように熱くなった。
目に水が、あとからあとから流れて視界が歪む。
そうか、みんなここにいるんだ。
つばさは胸に手を当てる。
指先から自分の心臓の音と、暖かいものが伝わるのが感じられた。
あの旅は本当にあったことで、それは今後も続いていく。
カイム。ぼくはたくさんのことを知るよ。いっぱい勉強してたくさんのことを覚えるよ。
エド。女の子のことはわからないけど、ぼくはいろいろなものを食べるよ。世界中のたくさんのおいしいを知るよ。
キムニ、チカプ。二人に負けないような、立派な大人にぼくはなるよ。
そしてサギ。
ぼくはたくさんの所にいくよ。いろいろなものを見聞きして、たくさん感動するよ。
たくさんのことをしようと思った。
たくさんのところに行こうと思った。
そのためにやらなければいけないことがたくさんある。
つばさが立ち止まらずに進み続けていることで、彼らとの旅は続けることができるのだ。
そして彼らが生き続けるなら、きっといつかどこかで出会うことができる。
そんな確信がつばさにあった。
「ふ、えーん!」
突如の大声に、つばさははっと我に返る。
のぞみが声をあげて大泣きしていた。
「どうしてのぞみまで泣いているんだよ」
「だっておにいちゃんが泣いているんだもん!」
どうやらつばさが泣いているのを見て、思わずもらい泣きをしたようだった。
「おにいちゃん、なにかあったの? どこか痛いの? どうしてそんなになくことがあったの?」
つばさは返答に困った。
今までつばさがしてきた旅のこと、のぞみに話してもしょうがない。
「なんでもない」
そう言おうとした。
そしてはっとした。それじゃあだめなんだと。
お互いを知るためには、もっと話し合わないといけない。
今までつばさはあまりにものぞみとわかり合えていない。
突拍子もない話だ。
頭がおかしくなったって思われるかもしれない。まして普段ろくに話もしない兄の話だ。
でも、彼女なら信じてくれると今なら思えた。
全てを話そう。長い話になるけど、彼女はきっと聞いてくれる。
だってたった一人の妹だ。
知らぬ、見た形すら違う障りたちともわかり合えた。
兄妹でわかりあえないはずがない。
つばさは決心した。
この決心だって、今までの命をかけた冒険に比べるとたいしたことない。
「のぞみ、ぼくが泣いていたのは理由があるんだよ」
のぞみは泣いたまま顔を上げた。
つばさの顔を見上げている。
「とてもしんじられないような話なんだけど、最後までぼくの聞いてくれるかい?」
つばさはのぞみに笑いかけた。
のぞみは顔をあげると、涙をふく。
そして大きく頷いた。
「実はね……」
自分が体験した冒険譚のどこから話したらいいだろうかと、頭の中で整理する。
おじいちゃんの家まではまだ遠い。全てを話すのには充分な時間はある。
霧はすっかり晴れて、太陽がキラキラと輝いていた。
おじいちゃんたちにあったら元気に話しかけよう。
そうだ。あの従姉のおねえさんがどうなったか、聞いてみよう、
家に帰ったらおかあさんのお手伝いをして、おとうさんには仕事お疲れ様と言ってあげよう。
その前にまず、のぞみのことを知って、自分のことを知ってもらおう。
さまざまなことを誓いながら、つばさはのぞみに話を始めた。
ほんの数分間の間につばさに起こった物語を。
話に夢中になっていると二人を呼ぶ声が聞こえた。見上げると両親の姿があった。
なかなか二人が帰ってこないので、様子を見に来たようだった。
両親の顔を見るのも久しぶりだけど、思い出より優しそうな顔をしていると思った。
つばさはのぞみの手をつなぐ。小さくて暖かな手だった。
のぞみは手を離さなかった。
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