44 / 44
エピローグ
しおりを挟む
待ち合わせまで少し時間が余っていたので、わたしは久しぶりに思い出の場所に足を運んだ。
かつての駅は撤去されていて、ビルだかマンションだかの建設を始めていた。
あのときの面影は、もうほとんどない。
近くの公園では桜が早めの開花を始めている。
まだまだ肌寒いけど、それを見るとああ春だなって思った。
「もう一年以上経つんだ」
平行世界とやらにつながり、わたしは向こうでは台本のキャラクターだった。
その世界で会った二人の男の子。
特にトヨジとの出会いはわたしを大きく変えた。
もしかしたら夢だったのでは無いかと思うときもある。
でも確かにわたしはあちらの世界で彼らと過ごしたのだ。
彼らと、トヨジとの別れから一年。
思い返せばあっという間だった。
それだけ充実していたんだと思う。
部の立ち上げから新入生の確保。
そして素人映画の撮影と文化祭での上映。
ものを作るという事はいろいろな意見がぶつかり合う。
喧嘩も絶えなかったけど、本音をぶつけ合ったからこそお互いを深く知れたと思う。
上映会が終わった時は全てを忘れ、泣いて抱き合った。
思い出すと恥ずかしいけど、でもやっぱり良い思い出だった。
一年間同じ目標に向かって一緒にやってきた絆は深い。
今日で卒業しても、きっといつかこの一年をみんな思い出すだろう。
一人違う高校に進む柏木夏希も、三年生に進級すると同時に仲直りし、いろいろと手出すけしてもらったゆっこも。
それにしても一年前は美羽と、映画好きの彼がまさかつきあうことになるとは思わなかった。
それも美羽の方がめろめろで、見せつけられるわたし達の方が赤面するぐらいだ。
その二人と同じ高校に行く予定のわたしは、なんだかのけ者にされた気分だ。
今にすてきな彼氏を見つけてやるからみとけよー、と密かに対抗意識を燃やしている。
「ライト、いるの?」
柏木夏希の声に振り向いた。
早い時間だというのにもう全員集まっているようだ。
美羽が片手で彼氏の腕をつかみ、もう片方の手をこちらにぶんぶん振っている。
待ち合わせ時間にはまだ早く、待ち合わせ場所からは離れている筈だが。
「どうしてここにいると思ったの?」
「なんとなくかな」
そううそぶく夏希には、一年以上経った今もなんだか勝てそうな気がしない。
たぶん卒業式にわたしがここに来ることを察知していたのだろう。
むかつくぐらい頭が良くて、用意周到で、気が利く女だ。
彼女と友達で本当に良かったと心から思う。
映研のみんなとの出会いも、ゆっことの喧嘩も、リノ達と過ごしたのも全ては無駄ではなかった。
もちろんトヨジとショウと過ごした時間は、もっとも価値のあるものだったと思う。
出会いがあるから別れもあって、それから新しい出会いに繋がっていく。
なんだか照れくさくなって、夏希の視線から逃れるために空を見上げた。
気持ちの良いぐらい、きれいな青空だった。
そのどこかに、トヨジがいることがわたしには確信できた。
トヨジ、わたしは元気です。
これからも時々泣きそうになることはあるかも知れないけど、きっと大丈夫。
わたしは一人じゃ無いから。
あなたはこの空の下で、元気でやっていますか?
大好きな演劇を、仲間と一緒に笑顔で過ごしていますか?
この広い空のどこかで、あなたが健やかであることを願っています。
その時、桜の花びらが一片枝からこぼれ落ちるのが見えた。
それは風にのって晴天の空へと大きく舞い上がった。
まるでわたしたちに祝福のダンスを捧げているように。
かつての駅は撤去されていて、ビルだかマンションだかの建設を始めていた。
あのときの面影は、もうほとんどない。
近くの公園では桜が早めの開花を始めている。
まだまだ肌寒いけど、それを見るとああ春だなって思った。
「もう一年以上経つんだ」
平行世界とやらにつながり、わたしは向こうでは台本のキャラクターだった。
その世界で会った二人の男の子。
特にトヨジとの出会いはわたしを大きく変えた。
もしかしたら夢だったのでは無いかと思うときもある。
でも確かにわたしはあちらの世界で彼らと過ごしたのだ。
彼らと、トヨジとの別れから一年。
思い返せばあっという間だった。
それだけ充実していたんだと思う。
部の立ち上げから新入生の確保。
そして素人映画の撮影と文化祭での上映。
ものを作るという事はいろいろな意見がぶつかり合う。
喧嘩も絶えなかったけど、本音をぶつけ合ったからこそお互いを深く知れたと思う。
上映会が終わった時は全てを忘れ、泣いて抱き合った。
思い出すと恥ずかしいけど、でもやっぱり良い思い出だった。
一年間同じ目標に向かって一緒にやってきた絆は深い。
今日で卒業しても、きっといつかこの一年をみんな思い出すだろう。
一人違う高校に進む柏木夏希も、三年生に進級すると同時に仲直りし、いろいろと手出すけしてもらったゆっこも。
それにしても一年前は美羽と、映画好きの彼がまさかつきあうことになるとは思わなかった。
それも美羽の方がめろめろで、見せつけられるわたし達の方が赤面するぐらいだ。
その二人と同じ高校に行く予定のわたしは、なんだかのけ者にされた気分だ。
今にすてきな彼氏を見つけてやるからみとけよー、と密かに対抗意識を燃やしている。
「ライト、いるの?」
柏木夏希の声に振り向いた。
早い時間だというのにもう全員集まっているようだ。
美羽が片手で彼氏の腕をつかみ、もう片方の手をこちらにぶんぶん振っている。
待ち合わせ時間にはまだ早く、待ち合わせ場所からは離れている筈だが。
「どうしてここにいると思ったの?」
「なんとなくかな」
そううそぶく夏希には、一年以上経った今もなんだか勝てそうな気がしない。
たぶん卒業式にわたしがここに来ることを察知していたのだろう。
むかつくぐらい頭が良くて、用意周到で、気が利く女だ。
彼女と友達で本当に良かったと心から思う。
映研のみんなとの出会いも、ゆっことの喧嘩も、リノ達と過ごしたのも全ては無駄ではなかった。
もちろんトヨジとショウと過ごした時間は、もっとも価値のあるものだったと思う。
出会いがあるから別れもあって、それから新しい出会いに繋がっていく。
なんだか照れくさくなって、夏希の視線から逃れるために空を見上げた。
気持ちの良いぐらい、きれいな青空だった。
そのどこかに、トヨジがいることがわたしには確信できた。
トヨジ、わたしは元気です。
これからも時々泣きそうになることはあるかも知れないけど、きっと大丈夫。
わたしは一人じゃ無いから。
あなたはこの空の下で、元気でやっていますか?
大好きな演劇を、仲間と一緒に笑顔で過ごしていますか?
この広い空のどこかで、あなたが健やかであることを願っています。
その時、桜の花びらが一片枝からこぼれ落ちるのが見えた。
それは風にのって晴天の空へと大きく舞い上がった。
まるでわたしたちに祝福のダンスを捧げているように。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる